第34話 力の覚醒

「――――アイススピア~!」


 大きな氷柱がベビーワーウルフを貫く。


 百五十センチもある体に大きな穴が開いた。


「うひひひ……うひひ……」


 魔物が倒されると、後ろから笑い声が聞こえてくる。


 先輩は魔法を使うことだけが好き――――と思っていたのだが、ちょっと違うようだ。


 魔法で魔物を倒した瞬間が楽しいようだ。


「先輩~?」


「しょ、少年! もっと戦おう!」


「は、はい……」


 臨時パーティーとはいえ、こうして倒してもらえるだけで僕に経験値が入るし、ありがたい限りだ。


 ベビーワーウルフを倒し続けていると、数倍は大きいキングワーウルフが現れた。


「うひょう~! お、おっきぃ……私、あのおっきのがほしい~!」


 …………先輩。キャラ崩壊してません?


「少年! 戦おう!」


「先輩? あんな強い魔物は倒せませんよ?」


「大丈夫さ! 私に任せたまえ! 十分で決着を付けてやる!」


 これ…………紗月にバレたらめちゃ怒られるやつじゃん。でも…………何故か先輩と一緒なら勝てる気・・・・がする。


 ちょうど経験値が五万貯まったので、ダークフルメイルのレベルを5から10に上昇させる。それによって【物理耐性】という追加効果と腕力と耐性が300ずつ上昇した。


「先輩! 行きますよ~!」


「よろしく頼む~! 少年~! うひひひひ!」


 最初に使うのは広範囲挑発。


 周りにいた雑魚を一か所に集める。当然、フロアボスも巻き込む。


 周囲の魔物が全て僕に向かってくるのを察知した先輩は、興奮した表情を浮かべて詠唱を唱え始めた。


 今まで詠唱はほぼなかったのに、長時間詠唱ということは、きっと範囲型魔法だと思われる。


 元々防御力の高いダークフルメイルだったが、それ以上にレベル10で得た物理耐性の恩恵を直に感じる。


 ベビーワーウルフの爪が当たった瞬間、バチンと音を響かせて弾き出されたからだ。弾かれた魔物は大きく後ろにのけぞった。


 まだ魔法が飛んでくる気配はない。


 ベビーワーウルフを双剣で倒していると、ついにキングワーウルフがやってきた。


 圧倒的な気配。その絶対王者たる風格は強者そのものだ。


 ――――なのに、どうしてかワクワクしてしまう。


 キングワーウルフは巨体なのにも関わらず、かなり素早い。その腕を下ろす速度は油断していたら避けられないほどに速い。


 ギリギリで攻撃を避けるが、キングワーウルフの攻撃はしっかりかすって・・・・いる。


 それだけでもダメージを受けてしまうのだが、ダークフルメイルのおかげでかすった攻撃のダメージは受けなかった。


 それからキングワーウルフとの戦いが始まり、回避と防御に専念し続ける。


 その時、後ろから凄まじい気配を感じる。


「少年!! 行くぞぉおおおお~!」


 先輩の可愛らしい声が聞こえてきて、僕は全力でその場から後ろに向かって走り出した。


 こちらに真っ赤に燃える巨体な火の玉が飛んでくるのが見える。


 それとすれ違い、直後、後方から爆発の音と風圧が響いた。


「――――ファイアストーム!」


 キングワーウルフを見ると、爆炎の竜巻に包み込まれ、周りのベビーワーウルフ達も一掃されていた。


 範囲型魔法は相当強いと聞いた事があったけど、本当に凄いな。


 それにこれが使えるってことは、先輩はかなり優秀な魔法使いなのが分かる。姉さん曰く範囲型魔法は選ばれし者だけが使えるから、僕が使えたら嬉しいなと言っていたから。


 爆炎が終わった頃、再度キングワーウルフに向かって走り出す。


 雑魚は殲滅したのでキングワーウルフと僕達だけの戦いになった。


「――――ライトニングスピア! アイススピア! ファイアスピア!」


 次々に色んな属性の槍が僕を越えてキングワーウルフに刺さる。


 それでも挑発が効いているのか、キングワーウルフは僕にだけ目が釘付けになっている。


 このまま待っているだけでキングワーウルフは倒せるだろう。それほど先輩は優秀で強い。


 ――――でもそれでいいのか? それは先輩が強いのであって、僕が強いのではない。むしろ、僕の代わりがいれば誰とでもできる。


 それで姉さんの隣に立てるのか……?


 否。


 絶対に姉さんの隣には立てない。


 ならば、やることは一つ。自分にできることを精一杯――――突き通す!


 せっかくレベルを最大に上げたスチール双剣でキングワーウルフの足を斬りつける。


 もちろん受け続けるはずもなく、僕に向かって鋭い爪を振り下ろしてくる。


 ギリギリ避けながら腕を斬ったり、時には蹴りをもろに食らいながらも何度も斬りつけた。


《レジェンドスキル〖ボス特攻〗を獲得しました。》


《レジェンドスキル〖逆境〗を獲得しました。》


 久しぶりに聞く女性の声。新しいスキルを知らせてくれる声だ。


 キングワーウルフの動きが遅くなる。いや、キングワーウルフだけではない。僕自身も飛んでくる魔法も全てがゆっくりに見える。


 その中でキングワーウルフの体に赤い点・・・が見え、そこに白色のターゲットマークが見える。


「――――ここか!」


 振り下ろされた腕の肘の内側を斬りつけた。


 双剣を使うようになって、多くの魔物を斬ってきた。その感覚というのは、意外にも早くに慣れている。


 今回斬った部位は今まで感じたそれらとは一線を画すもので、何か――――絶断する感覚。


 そして――――僕の前に巨大な腕が落ちてきた。


 ギャァアアアアアアア!


 痛みでうなだれるキングワーウルフが見えて、斬られた右腕を抱えている。


「――――ファイアアンカー!」


 上空に大きないかりが現れて、キングワーウルフに振り下ろされた。


 左肩にターゲットマークを見つけて斬りつけると、さっきと同じ感覚で斬ることができて、キングワーウルフの左腕が丸ごと吹き飛んだ。


 その時、僕の視線にひと際目立つ、赤色・・のターゲットマーク。さっきまでの白いターゲットマークよりも大きく、それが示す場所は――――キングワーウルフの首だ。


 迷うことなどなかった。


 燃える錨に押さえつけられ、両手を切り落とされたキングワーウルフの首を、二振りの双剣で同時に斬りつけた。


 剛撃判定とターゲットマークの絶断する感覚が入り混じる。


 そして、僕の視界には胴体を離れるキングワーウルフの頭が見えて、すぐに全身が粒子となり消えていくキングワーウルフが見えた。

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