第33話 先輩
日曜日。
今日は紗月が両親と会う日らしく、手持ち無沙汰になった。
いつもなら色んなことをしていたはずなのに、何もやることがなくなってしまった。
そして、気が付けば、いつの間にかダンジョンの前にいた。
…………ダンジョン廃人と呼ばれても反論できなさそう。
ダンジョン廃人というのは、ダンジョンに憑りつかれて探索以外には全く興味をなくした人を総じて指す言葉だ。
というか、制服着て来てた……これはますます…………はぁ。まあいっか。いま自分がやりたいことは探索者として立派になることだからな。
――――その時、僕の裾を引っ張る感覚があった。
「そこの少年」
「ん?」
振り向いたら――――そこに紫色の何かが見えた。
「下だ!」
「うお!?」
視線を下げると僕の裾を引っ張っていた小さな女の子がいた。
いや、うちの制服を着ているので高校生か?
胸元にある校章の色を見る。
今年の赤色は一年生、青色は二年生、緑色は三年生だ。
彼女は青色だった。
「やあ。少年」
「ど、どうも。先輩?」
「そうか。君は一年生だったのだな。一年生で日曜日にダンジョンとは感心感心!」
身長は多分百五十くらいだろうか。彼女の頭が俺の胸元に付くくらいだからな。
「少年。もしかしてメンバーを待っているのか?」
「へ? いえ……メンバーが今日用事があったので、気づいたら一人でダンジョンに来ていました」
「そうかそうか! それならちょうどいい! 少年――――私と臨時パーティーを組もう~!」
「ええええ!?」
「何層まで行っているんだ? キャリーするよ! こう見えても私はそこそこ強いのだ!」
見た目といえば、低身長なのも相まって、ものすごく可愛らしい。
こう幼女みを感じるというか、すぐになでなでしてあげたくなる。
「ぬ、ぬわあっ!? しょ、少年……頭は……ダメなのだ…………ふにゅぅ……」
「うわっ!? 思わず撫でてしまいました! ごめんなさい!」
「少年……私達はまだ出会ったばかり……少し早すぎるのだよ……」
「す、すみません……」
この可愛さは反則だな……こう…………ペット的な? 犬みたいな? ふわふわした犬を撫でる可愛さみたいな?
「ふぅ……これで契約成立だね! 少年!」
「契約!?」
「まさか、乙女の頭を撫でておいて、臨時パーティー組みませんとは言わないよね?」
「あはは……はい。受けさせていただきます。ただ、僕はまだ下層ですけど、いいんですか?」
「もちろんだとも! それは分かってるから大丈夫!」
「先輩の経験値にならなくてもいいけど、いいんですか?」
「ふふっ。少年。分かっていないな! ダンジョンは何もレベルを上げるためだけの場所ではないのだよ! 魔法! 私は魔法が撃ちたいのだ~!」
…………この人! ダンジョン廃人だ! 絶対間違いない!
目を輝かせて、ぐへへへと笑いながら魔法を使う自分の姿を想像して興奮している!?
「あ、あはは……ひとまずよろしくお願いします。一応普段は五層で戦ってます」
「ん? 五層? 少年は一年生だよな?」
「そうですね」
「一年生でこの時期に五層…………ふむ…………まあいいか! 五層に行こう~!」
俺の腕を掴み、ダンジョンの入口――――通称【泉】に立つ。
繋がれたまま、五層に
「うわあ!? 強制的に入れられた?」
「ん? 知らなかったのか? お互いに認めた仲だと、体が繋がっていたら片方の意思だけでも入れるんだよ。ふふっ。臨時パーティーよろしくな~少年!」
「はい。よろしくお願いします。先輩。僕は前衛なのでよろしくお願いします」
「ほお……! 前衛ならより助かるのだよ! さあ、早く肉壁になりたまえ!」
肉壁って!
先輩に背中を押されて森の中に入った。
「少年! どこのゾーンまで行くのだ?」
「えっと、最後まででもいいですよ」
「おお! 五層は確かワーウルフだったかな。行こう行こう~♪」
森の中にベビーグリフォンが現れると、すぐに僕を捕捉してやってくる。
「あれ? どうして魔物が君に?」
「前衛やりますので、気にせず魔法を放ってください!」
「分かった! ――――ライトニングスピア!」
先輩から放たれた雷の槍が三本上空に向かって放たれて、上からベビーグリフォンに突き刺さった。
なるほど。木々が邪魔だし、僕に当たるかもしれないから、上空から狙ってくれたんだ。
それくらい先輩の魔法操作が上手いんだと思う。
というのも姉さんから教えてもらった魔法使いと組んだ時に注意するべき点を聞いている。
魔法使いのこと攻撃魔法に関していうと、三種類の魔法があり、一つが今のように放ってから操作ができる操作型、一つは放ったらただ真っすぐ前に向かって放たれる放出型、最後は自分が決めた着地点で爆発する範囲型がある。
範囲型は基本的に決めた場所に魔力が集まり大爆発を起こすものだが、距離が長い分、詠唱にも時間がかかるため強力ではあるものの、使う場面が限られている。
パーティーでもっとも重宝されるのは当然操作型。
先輩は魔法使いとしてそれを深く理解しているんだと思う。
「しょ、少年! どんどんいこう! いこう~!」
どこか天真爛漫な少年が楽しむ姿も、純粋に魔法が好きなのが分かる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます