第32話 初心者最後の壁
入学して四週間が経ち、四度目の週末を迎えた。
土曜日。
今日も朝ダンジョン前に集合した。
「今日から五層最後のゾーンだな」
「うん……! 探索者の初心者の最後の壁が五層みたい」
「それは気を引き締めて行かないと」
僕達は五層に入った。
五層は今までの平原というよりは森に近い。方向感覚が狂ってしまいそうな森が広がっている。
入口付近が辛うじて平原なのは救いか。
森の中に入ると、一メートルくらいの四足歩行の鳥型魔物のベビーグリフォンだ。
かなり素早い動きをするし、周りに木々が邪魔になるが、それでも美しい刀術を繰り広げた紗月によって、一刀両断されていった。
次々進み、最終ゾーンに着いた。
「ベビーワーウルフ。五層最後の壁と言われている魔物だね。素早さ、攻撃力、なによりタフな攻撃的な動きが特徴だよ」
「ダークフルメイルでどれだけ防げるかが問題か……」
現在ダークフルメイルのレベルは5。
できれば10まで上げられれば、防御性能が一気に増えるが、攻撃力を優先してきたので間に合っていない。
四層で上げ切ってもよかったけど、せっかくならいけるとこまでいきたいからね。
「最初にダークフルメイルの耐久性を試してみるよ」
「うん! 危なくなったらすぐに参戦するね?」
挑発の距離でベビーワーウルフをおびき寄せる。
僕に真っすぐ走って来るベビーワーウルフだが、二足歩行らしい素早さを見せる。しかも走ってくる間にフェイントをかけたりする。
やってきた狼人間が、鋭い爪で僕の鎧を突き刺した。
カーンと金属同士がぶつかる音が響き渡る。
狼人間は両手の鋭い爪で何度も殴ってくる。戦うスタイルから武闘家のような身軽さを感じる。
今まで戦った魔物だと、スケルトンキングの双剣術にも勝る激しい動きを見せる。
初心者最後の壁と言われても納得してしまうくらいには、今まで戦ってきた通常魔物では一番強い。
「紗月! 何とか防御は問題なさそうだ!」
「じゃあ、私も戦うね!」
紗月が斬りつけようとしたその瞬間、狼人間がその場からバックステップで彼女の剣戟を避けた。
「っ!?」
避けただけではない。今度は僕ではなく紗月を攻撃しようと手を伸ばした。
「危ないっ!」
急いで彼女の前に割り込んで狼人間の攻撃を塞いだ。
一時的なもののようで、今度はまた僕を攻撃し始める。
「挑発が切れたわけではないみたい。でも条件があるみたいだね」
「うん。これからは油断しないようにするね。助けてくれてありがとう」
「油断せずにいこう!」
狼人間にはどうやら特殊なスキルがあるようで、自分に向いた攻撃の初撃を避ける慣習があるようだ。それは僕でも紗月でも変わらなかった。さらに避けてすぐに攻撃した者で追撃を行う。
「避けたらカウンター行動を取るまでは一連の動きみたい!」
「分かった! 最初は俺が囮になる!」
双剣で斬りつけた狼人間がバックステップで避けて跳び込んで攻撃してきた。
それをダークフルメイルのまま受け止めた瞬間に、後方に待機していた紗月の鋭い剣戟が狼人間を斬り捨てる。
刀の攻撃力が随分と上がったのと、彼女のレベルが上がり、より強くなったおかげで狼人間でさえも一撃で一刀両断できた。
「たぶん刀の攻撃力がここまで上昇しなかったら斬れなかったかも」
「そうなのか?」
「うん。刀には一刀両断という特殊な効果があるんだ。魔物に限ってだけどね。これは魔物の防御力を上回った時にしか発動しなくて、攻撃力が五百を超える刀って私が知ってる範囲では最上位くらいしかないの。それでやっと一刀両断できるくらいだと思う」
なるほど……今まで紗月が一撃で倒せているのはそういうカラクリもあるんだな。
そういや、刀のレベル最大で一刀両断1%というのは…………まさか防御力を無視して発動したりするのかな? となるととんでもない効果だと思うし、今まで装備強化をしてきたから、そうなってもおかしくない気がする。
それから僕達は連携を強く意識して狼人間と戦い続けた。
僕が斬りつけて避けられた所を紗月が斬ったり、時折紗月が使う不思議な力で避けさせずに一刀両断で斬り捨てたりと、下層と比べてそう悪くない効率で戦い続けた。
半日ずっと戦い続けて、お昼時間と鳴った時、視界の向こうにひと際大きな狼人間が見えた。
「あれがフロアボス……」
「スケルトンからスケルトンキングになったくらいだし、あのフロアボスは随分と強いかもな」
「うん。一層から五層までのフロアボスでも一番
現在でこそ四十七層に行けるようになったが、ダンジョンが出現して最初は一層だったはずだ。今ほどレベルが上がってるわけでもなく、装備が強いわけでもなかったはず。
その時代に大勢の犠牲を出しながらあれを倒した人々の偉大さは語られるべきだと思う。
「いつか絶対に勝ちたいね」
「ふふっ。誠也くんってそういうとこあるよね。でも今は戦わないでね?」
「もちろんだ。僕だってそんな無茶はしないよ。今までしてない…………ごめん」
ジト目で見つめる紗月は「スケルトンキング戦は?」と言いたげだ。
「まずはお昼食べてから続けようか」
「は~い」
僕達は一度ダンジョンを後にして、家に戻り昼食を取った。
午後からも同じく狩りを続けて、一日で経験値三万というとんでもない量を獲得することができた。
紗月もすっかりレベルが上がり、今日10に上昇したそうだ。
探索者にとってレベルの五の倍数は非常に大きな意味があって、五の倍数の時にはスキルを得ることが多く、どれもが人生を左右する程に大きな効果をもたらす。
例えば、二年生から目覚めて攻略を始める多くの人は、一年間ゆっくり経験値を貯めて、レベルが5に上がったことでスキルを目覚めさせ、それが戦いにおいて有効なため、探索者になれると考える人が多いからだ。
うちの学校もそれを強く推奨しているので、しばらく通常カリキュラムをこなしながら、レベルが5になってスキルを手に入れたら探索者になる生徒が非常に多いのだ。
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