第27話 一緒に風呂に入る?

 授業が終わって帰ってくると、姉さんは休みで家でのんびり過ごしたようだ。テーブルの上が食べかすだらけである。


「ただいま」


「おかえり~」


「お、お邪魔します! 夏鈴姉様」


「いらっしゃい~紗月ちゃん~」


 ソファーに横たわって、足をパタパタさせながら雑誌を読む姉さん。休日の姉さんはダメダメ人間そのものである。


 普段から命がかかった狩りを家ではゆっくりしてほしいので、極力だらけさせている。


「あ、テーブルは私が片付けるね!」


「悪いな」


「ううん! む、むしろ、夏鈴姉様の片付けをさせてくれてありがとう!」


 僕の中の紗月のイメージがどんどん崩れていく。姉さんのことをそこまで思ってくれるんだな。


 紗月が片付けを手伝ってくれる間に、僕は料理をする。


 下ごしらえをしていると掃除を終えた紗月が手伝いにきてくれて、色々準備してくれる。


 ひとまず準備が終わったので、今度は風呂掃除をしてお湯を溜めたりと、バタバタ動き回る。


 夕飯の準備が終わって、テーブルを三人で囲んで、今日も一緒にご飯を食べ始めた。


「誠也? 鎧はどうだったの?」


 おもむろに姉さんが聞いてきた。


「あ~中々よかったよ。何とかレベルを1だけ上げたら、かなり使いやすくなったんだ。それに新しいスキルを覚えたし」


「新しいスキル!? どんなものなの?」


「えっとね。装備中の装備品を見えなくさせてるけど、装備していることにしてくれるスキル。攻撃力とか防御力は反映されないらしいけど、特殊効果は全部反映されるから、結構動きやすいし、いつでも装備を表に出せるんだ」


 僕の説明で姉さんの頭の上にはてなマークがたくさん飛んでいるのが分かる。


 こればかりは実際見せた方が早いな。


 椅子から立ち上がって、鎧を戦闘モードに戻すと、ダンジョン同様黒い鎧をまとった状態になった。


「わあ!? 一瞬で変わった!? しかも、形まで変わってない?」


「うん。レベル1で獲得した効果が、装着者の体に合わせて形を変えてくれるみたい。しかも装着感もないから凄い動き安いんだ」


 両手と両足をぷらぷらと動かして見せる。


「ほら、可動域も体そのものなんだ」


「す、すごいわね……」


「そして、これがスキル」


 鎧を非表示にすると制服姿に戻る。


「わあ~! 本当に見えなくなった!」


「ありがとう。姉さん。これも全て姉さんのおかげだよ」


 すると姉さんがじっと僕を見つめて、顔を横に振った。


「ううん。確かに鎧は私が買ったかもしれないけど、それをちゃんと使えるのは誠也の力と頑張りだよ。今まで何人もの人を見てきたけど、すぐ匙を投げる人ばかりだよ。誠也がレベル成長限界が1だとしても努力を怠らなかったからこそ得られた力だからね。私は誠也が弟で凄く鼻が高いよ!」


「姉さん……」


 まさか姉さんがそこまで考えてくれたとは思わなかった。


 いつか肩を並べてダンジョンに立ちたいと本気で願っていたし、自分でできる範囲で努力してきたはずだ。


 それを本人から認められるって、なんだか嬉しいね。


「それに紗月ちゃんもありがとう。誠也一人だときっと心細かっただろうし、色々大変だったと思うから」


「い、いえ! 私こそ誠也くんに助けられてばかりですから。むしろ……何も返せられなくて……」


「ふふっ。もし誠也に恩義を感じているなら、あまり急がなくていいのよ。パーティーメンバーっていつか必ずお互いの力が必要な時がくるからね。『仲間を大切にすることこそが探索者として大成する方法である』だよ?」


「はいっ! 私、これからも頑張ります! 誠也くん。改めてよろしくお願いします」


「こちらこそ。よろしく頼む」


 姉さんから紗月とのパーティーを認められた気がした。


 食事の後、デザートを食べてみんなで紗月を家まで送って、姉さんと二人で帰ってきた。


「姉さん。風呂できてるよ~」


「誠也~」


「ん?」


「一緒に入ろう?」


「はあ!?」


「ほら、久しぶりに私が背中流して――――」


「さっさと入って来い!」


 姉さんの背中を押して風呂場に押し込んでやった。


 僕だってもう高校生だというのに、姉さんと一緒に風呂に入れるわけないじゃんか!


 ふと、姉さんの全裸姿を想像してしまって、顔が熱くなる。


 僕は実姉の裸に興奮するのか……? いや、弟の僕から見ても姉さんは世界でも有数の美女だ。年齢だって二十歳を過ぎたばかりだしな。


 はあ……姉さんが変なことを言うから、おもわず、紗月の裸の姿まで想像してしまった。


 …………邪念を払うためにソファーの上で座禅を組む。


 しばらくして扉が開く音が聞こえた。


「……誠也? 何してるの?」


「邪念を振り払ってるんだよ」


「邪念……?」


「気にしないで」


「う、うん……」


 それにしてもとても不思議なのが、ダークフルメイルを装備しているままだけど、そのまま制服を脱いで風呂に入れた。


 ダークフルメイルなどの装備のおかげでステータスが上がっていて、裸になっても特殊効果は付与されたままだから身体能力は今まで以上に高くなってる。


 その感覚が不思議だなと思いながら、風呂にゆっくり浸かった。


 座禅のおかげで何もなかったかのように風呂から生還することができた。

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