第26話 ――始動、ダークフルメイル。

 家に帰ってきて姉さんにせがまれたので、ダークフルメイルを装備してみた。


 一言でいうなら、装備するのめちゃくちゃめんどくさい。


 まず、重い。非常に重くて、腕輪なしでは持ち上げるのも大変だった。


 装備すると腕力が100上昇してくれたので、何とか立ち上がるまでにはなったけど、でも自由には動けない。


 何より、制服の防具としての性能と比べて、体があまりにも重くなりすぎて、むしろ弱くなったまである。


 だが、姉さんは「これなら誠也がどんな攻撃からも身を守れるし、問題ないわね!」と喜ぶ顔を見て、使わないと言い切ることはできなかった。姉さんの愛情を否定したくないから。


 さて、一番の問題は、この防具、全体を覆ってしまうので、右手左手以外の部分を全部占める。


 しかも、制服を着たまま装着しても、何故か強制的にダークフルメイルが反応してしまって、制服の性能が無効化されてしまうのが難点だ。




 次の日。


 いつも通り授業と昼食が終わって、紗月と一緒にダンジョンにきた。


 三層に入ってすぐにマジックパックからダークフルメイルを一つずつ取り出して装備する。


 ダークフルメイルはパーツが全部で兜、鎧、ブーツ、ガントレットの四つ構成だ。


 鎧が一番大きくて着るとほぼ全身が真っ黒になる。


「紗月。悪いな」


「ふふっ。気にしないで!」


 紗月が手伝ってくれて着替えが終わった。


 歩き出してみる。


「うわぁ……体が重いな……」


「うん。見るからに重そうだよ」


「すまん。俺は攻撃に参加できそうにない。盾は持てそうだから、挑発で引っ張るよ」


「分かった! でもちょっと試してもいい?」


「ん? 試す?」


 最初のインプゾーンに入るとインプ達が僕の挑発に引っ掛かって、一斉に飛び掛かってくる。


 カ~ンと良い音が響いて、インプ三体が僕をボコボコに叩いてくる。


「うわぁ……全然痛くねぇ……」


 前回盾だけで防いだ時は、それなりの衝撃が手に伝わってきたけど、今は一切何も感じない。防御力が高いだけでこうなるのか、はたまた僕が知らないこの鎧特性なのかは分からない。


「物理攻撃にはめっぽう強そうだね」


 紗月が鮮やかにインプを倒してくれた。


 僕の歩く速度は非常に遅くなってしまって、一所懸命歩いてレッドスライムゾーンまで向かう。その間に挑発に引っ掛かった魔物は、全て紗月の刀の錆となった。


 ようやくレッドスライムゾーンにやってきた。


 レッドスライムのレベルは8。紗月が倒してくれる度に、経験値が16ずつ入るので非常にありがたい。


 ダークフルメイルのレベルを上げることを最優先に考える。ランクはAランク。おそらく三十層辺りの素材で作った装備はAランクになるのかもしれない。


 そのおかげもあって、必要経験値は一万だから、レッドスライムを六百体も倒せば上げられる。元々持っていた経験値とここに来るまでの経験値を足すと、あと二百体で上げられそうだ。


「ダークフルメイルのレベル楽しみだね~」


「そうだな。一人で戦わせてごめんな」


「んも! それ言わないでってさっきもいたよ?」


「あはは……ごめん……」


 ホブゴブリンゾーンを通り過ぎる時に、同じ事を言ったら怒られたっけ。


「それに挑発のおかげで、私は無傷で戦えるから、むしろ助かってるよ? それに腕輪のおかげで思うように体を動かせるから、凄く楽しいよ~?」


「そっか。それならよかった」


 それから時間いっぱい戦い続けた。


 授業が終わる前にレッドスライムを二百体倒して、丁度経験値が一万貯まった。


「紗月~貯まった!」


「わあ~! おめでと~」


「ありがとう。さっそくレベルを上げてみるよ」


《装備【名匠のダークフルメイル】に経験値10,000を付与して、レベルを上昇させますか?》


 もちろん――――【はい】を押す。


《装備【名匠のダークフルメイル】が【名匠のダークフルメイルLv.1】に進化しました。》


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 【名匠のダークフルメイルLv.1】

 カテゴリー:鎧

 レアリティ:Aランク

 防御力+1500、腕力+100

 耐性+100、ノックバック耐性

 再生、同化

 Lv1:同化

 Lv5:挑発、広範囲挑発

 Lv10:腕力+300、耐性+300

      物理耐性

 Lv15:魔力+500、魔法耐性

 Lv20:身体能力+50

 Lv25:防御力+1500

 Lv30:武術

 Lv35:体力自動回復

 Lv40:超再生

 Lv45:ダメージ反射40、魔法反射40

 Lv50:身体能力+100

 Lv55:防御力+2000

 Lv60:武神

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 レベル1の効果は…………同化? それだけ?


 同じAランクだった制服と比べて随分と弱い・・? できれば、身体能力が上がってくれたらよかったけど……よくよく見ると身体能力が上がるのはレベルが20にもなってからだ。


 名匠の称号が付いている時点で、通常のダークフルメイルよりもずっと強くなるはずなのに、不思議とそうならないのか……?




 ――――と思ったその時。




 僕の体に異変が起きた。いや、僕ではなくダークフルメイルだ。


 ボギッボギッと骨が折れるような音が聞こえて、ダークフルメイルが――――僕の体にジャストフィット・・・・・・・・する。


 さっきまで鎧に少しの隙間ができていたのに、その空間が全てなくなって、まるでパジャマを着ているかのような着心地になった。


「誠也くん!? 大丈夫!?」


「ん? 僕は大丈夫だけど、なんか鎧が変なんだ」


「う、うん……それはそうよ。凄く――――変わったから」


「え? 変わった?」


「ふふっ。さっきまではカッコよかったけど、ちょっと大きくて着せられている感じだったけど、何かスリムになってものすごくカッコよくなったよ? それに全体の姿も変わったね」


 そう言われて、自分の体を眺めてみる。


 さっきは兜を横にしかずらせられないし、視界も狭かったのに、まるで兜ではなく自分の顔のように視界が開けているし、自分の体も見える。


「ぬわあ!?」


 ごつごつしていた鎧の姿はなく、紗月が言ってくれた通り、スリムな衣装みたいに変わった。


 全体的には黒いけど、所々に赤色が混じっていて、テレビに出てくるダークヒーローのような衣装だった。


「兜も凄くカッコよくなったよ~それに全身が軽そうだね?」


「ああ。なんか自分の手足かのように動かせるな」


 これって……制服の時よりも軽くないか? 身体能力はないので、制服の時みたいに走ることはできないけど、体の重さは全く感じない。


 近くに現れたレッドスライムが僕に向かって跳んできた。


 カ~ンと気持ちいい音が響く。


「防御力も健在みたい。まったく痛くないや」


 レッドスライムを蹴り飛ばしてみると、体を自由自在に動かせることが分かった。


 レベル1で解放された【同化】。正直にいえば、凄く舐めていたけど、内容は僕の想像を超える凄まじいものだった。


 そして、新しいスキルまで獲得した。


《スキル〖非戦闘モード〗を獲得しました。》


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 〖非戦闘モード〗

 レベルを与えた装備品を装備したまま、

 非表示させる。

 ※攻撃力、防御力は反映されないが、

  特殊効果は全て反映される。

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 非戦闘モードにすると、装備していたダークフルメイルと木剣、オークガードの大盾が装備されたまま・・・・・・・姿を消して、制服の姿に変わった。


 制服を着ているのに、装備はダークフルメイルの効果を受けており、木剣と大盾のステータスまで反映された。

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