第19話 少しの後悔
ダンジョンは空気を読まない。
紗月が僕の胸に飛び込んでからも、スケルトンがちょくちょく現れた。
当然、木剣を伸ばして振り払ってる。
攻撃力が二百もあるからか、通常個体なら一撃で倒せている。
しばらく抱き着いている紗月だが、魔物とかそんなものより、紗月の
姉さんもだけど、どうして女性ってこういい香りがするんだろう。
自分の心臓の音が気になって仕方がないが、いま紗月を振り解いたら絶対にいけない気がする。
「ねぇ。誠也くん」
「う、うん!」
「…………もう無茶いないって約束して?」
「ああ。分かった。約束するよ」
ダンジョンでは選択一つで命を落とす。
今はまだ一層二層で魔物も
中には二度と消えない傷を負う者も多く、危険が隣り合わせだ。
「やっと手に入れたパーティーメンバーなの…………貴方に死んで欲しくない。だから約束して……ほしい…………」
「ああ。悪かった」
こういう時って頭を撫でてあげないといけないんだっけ。いつも姉さんがそうしてって言ってたからな。
ゆっくりと右手を動かして紗月の頭を撫でた。
撫でる度に僕の胸が少し押されて、彼女の温かさが伝わってきた。
◆
「誠也くん! ドロップ品だよ!?」
「お、おう……」
実はスケルトンキングを倒した時にドロップした装備がある。
一層のオークガードの大盾同様、スケルトンキングの装備ドロップ品。
どうやら装備品はフロアボスの特徴だからなのか、落としたのは普通の
どうやら双剣がセットかな?
足早に向かって双剣を拾って、自分の刀も拾ってきた紗月は、全てを僕に渡してくれた。
「紗月!?」
「ドロップ品は全てリーダーが所有するの! それと、この刀。どういう仕組みかは分からないけど、前よりも
「双剣は百歩譲って分かるけど、刀は紗月のだから!」
「じゃあ、それも誠也くんが持ってて。毎回貸してくれると嬉しいな」
彼女のモノを拾って強化して直しただけなのに、どうして僕に預けるというのか……。
多分これ以上言っても聞いてくれなさそうなので、仕方なく刀も貰うことにした。
ひとまず、まだ少し授業の時間が残っているので、紗月には休んでもらい、僕は近くのスケルトンを倒し続けた。
もうバレることもないと思うので、木剣を伸ばして攻撃していく。
幸い一撃なので吹き飛びながら消えていくスケルトン。
暫く経験値を稼ぎ続けた。
授業の時間が終わったので、紗月と一緒に外に出て、いつも通り食材を買い込んで家に帰った。
今日も姉さんはダンジョンのようで、明日には帰れるかもとメールが届いている。
紗月は率先して料理を手伝ってくれて、目利きが良いのか皿を準備してくれたり、食卓を拭いてくれたりとテキパキ動いてくれる。
相変わらず、一つ一つ「美味しい~!」と嬉しそうに笑みを浮かべて言ってくれる。
自分が作った料理を美味しいと言いながら食べてくれるので、嬉しくなる。
食事を終えて紗月と一緒に皿洗いをしてソファーで一緒にアイスクリームを食べる。
「誠也くん」
「ん?」
「あの子はどうするの?」
あの子というのは、今日助けなかった男子生徒のことだろう。
「これから仕入れに行こうかなと思ってるよ」
「えっ!? これから?」
「うん」
「私も一緒に行っていい?」
「夜遅くなるけど大丈夫なのか?」
「うん! だって……家に帰っても誰もいないから……ね」
仕方ないとはいえ、家に一人でいる寂しさは知っているつもりだ。
強がってはいたけど、姉さんが探索者として大成するようになり、四日に一度しか帰ってこれない日々が続いた。
もう慣れたし、高校生にもなったから寂しいと思わなくなったけど、中学二年生の頃はご飯も簡単に作って食べたりと、色々考えさせられた。
彼女も同じ苦境だと思うと、分かる部分が多い。
「さあ、行こうか」
「うん!」
デザートを食べ終わったので、マンションを出てお店を目指した。
空はすっかり暗くなったが、それを上回るくらい街灯が眩しい光で道を照らしてくれる。
けれど、それとは逆に街灯の向こう側は眩しさで見えなくなってしまう。
それが時折怖いと思った時もあった。
一緒に歩いている紗月がニヤニヤしていて、それがほっこりして、暗闇の怖さなど一瞬で忘れられる。
僕達がやってきたのは、探索者のための【探索者センター】と呼ばれている建物だ。
ここでは探索者を支援する全てが集まっていて、パーティー募集から依頼掲示板があり、二階は飲食スペースがあったり、相談窓口からドロップ品買取窓口、三階には装備品を売っている店もある。
建物や探索者を管理するのは国だが、三階の店は全て企業の店で、いまや便利で強い装備品を売っている店が大人気で色んな企業が参加している。
エレベーターに乗り込んだ僕達は三階を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます