第13話 二層
二層に向かう方法は二つ。
一度でも二層に入っていれば、ダンジョンに入る際に強く念じるか、一層で一定の魔物を倒すと二層へ行ける資格が得られる。
僕と彼女は既に資格を得ていたので、ステータス画面で【次層へ】のボタンを押すだけだった。
視界が一瞬ブレて、周りの景色が変わる。
北側に見えていた山が消えて、方向が全然分からなくなった。
「平原で所々に森があるから基本的には変わってないみたいだね」
「そうみたいだな。二層もそう戦いにくくはなさそう。下層よりも森が多いか」
「しばらく一緒に戦ってもいい?」
「もちろんだ。むしろ、一撃で倒せない魔物が見つかるまで進めて、二人で戦った方がいいかも」
返事が返ってこない水無瀬さんに視線を向けると、口をパクパクしていた。
「どうしたんだ?」
「!? わ、私……連係とかできるのかな……」
「俺も初めてだし、ゆっくりやっていこう」
「うん!」
水無瀬さんと並んで適当な方向に進む。
最初に現れた魔物は、緑肌を持つ小鬼が三体集まっていた。
「噂のゴブリンだね。三体ずついるから厄介みたい」
「事前にリサーチしておいたのか?」
「うん。そろそろ一層では限界を感じていたから。二層に行けなかったのが、最初の魔物がゴブリンで三体ずついるから……一人だと怖くて」
「そうだな。いくら制服が硬くても、ダメージを無効するわけではないしな」
「えっと、どうやって仕掛けよう?」
「前線を任せていいか?」
「うん! その方がありがたいよ。私が先に行くね?」
「ああ。サポートするよ」
水無瀬さんが飛び出していく。
ゴブリン三体が水無瀬さんに気付いて、襲い始めた。
両者がぶつかる直前、僕は木剣を超速で伸ばして、彼女から一番遠い右側のゴブリンを攻撃して、超速で縮ませる。
パッと見、ゴブリンが何もないのに吹き飛んだように見える。
水無瀬さんは全く気にすることなく、ゴブリン二体を舞うように刀を振り回して、倒した。
入った経験値は6なので、ゴブリンのレベルは3という計算になる。
一層のオークのレベルが4だったのを考えると、それより低くなっているが、数が多いので、一瞬で経験値18を稼げた。
ゴブリンを倒して、亡骸が光の粒子となり消え去る。
その場に残ったのは、緑色をした小さな宝石だ。ビー玉のような小さなサイズだ。
「核がドロップするなんて珍しいね」
「これが核か……初めてみた」
核というのは、ドロップ品の一種で、全ての魔物がドロップするものだ。
これを素材として使うことで、特殊な効果を持つ装備を作る事ができる。
現実の素材に核を足して、製作スキルを持つ人が装備を作れるのだ。
僕達が着ている制服も、高級布に高級核を使った装備だ。もちろん、作り手側の実力もあるので、非常に高額な物だ。
中には、オークガードの大盾のように装備が直にドロップするケースもあるが、通常ドロップは【核】になるのだ。
「はいっ。木村くん」
大事そうに両手で核を渡してくれる。
「えっ? いや、それは水無瀬さんのでしょう?」
「そんなことないよ? リーダーの木村くんがまとめた方がいいと思う」
「リーダー!? 僕が!?」
「そうだよ……?」
普通に考えれば、レベル成長限界値が高い彼女がリーダーになるべきだと思う。
でも今までパーティーを組んでもらえなかったことから、僕に委託したいのかも知れない。
「分かった。一応……仮でいいか?」
「ふふっ。よろしくお願いします。リーダー♪」
核を受け取る。が、入れる場所がないので、ちょっと困った。
「あれ? 木村くんってマジックパック持ってないの?」
「マジック……パック?」
「それだけ強い装備を持っているんだから、マジックパックくらい持っているものだと思ってた」
そう言いながら、腰に掛けられた可愛らしい赤いポーチを見せてくれる。
中を開くと、空っぽだった。
「中身は空っぽだけど、私にはアイテム一覧が出て、こうやって押すと現れるよ」
目の前に一本の刀が出現する。
「高価なので、普通のリュックを持ってる人が多いけどね。じゃあ、核は私が持とうか?」
「ああ。よろしく」
探索者になるための基本は色々仕入れていたはずなのに、マジックパックという言葉は初めて聞いた。
そういや、ドロップ率に関わるという運の数値が上がったから、ドロップ品を入れるものを用意しておかないといけなかったと反省する。
運が1だとほぼドロップしないからと、ドロップ品の対策を一切行ってないことに反省だ。
それから二層をさらに進み、次のゾーンで空を飛ぶ鳥人間のハーピーを倒したところで、夕方になったので、狩りを終えてダンジョンを後にした。
「木村くん……! 今日は本当にありがとう! 私……初めてパーティー凄く楽しかった!」
「僕もだよ。一人よりパーティーメンバーと一緒に戦えるって楽しいんだね」
「うん! 明日も……お願いします!」
「こちらこそ、よろしく」
水無瀬さんは嬉しそうに笑顔を見せながら帰っていった。
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