第12話 パーティー

 ダンジョンに入る前に出席を取る。


 みんなそれぞれパーティーを組んでる中、少し離れたAクラスからやってきた水無瀬さんを見て、クラスメイト達が驚く。


「お待たせ~こっちは出席終わったよ」


「僕もいま終わったとこ。行こうか」


「うん」


 僕と水無瀬さんは初めてパーティーとしてダンジョンの中に入った。


 入ってすぐに僕の前に画面が表示される。


《パーティーメンバーを確認。メンバー:水無瀬紗月。承認しますか?》


 当然【はい】を選んだ。


 僕と同じ動作をする水無瀬さん。


《パーティーメンバーを確定しました。》


「へぇ~パーティーってこうやって決まるんだね?」


「そうみたいだね。聞いてはいたけど、私も初めてだから」


「まあ、初めて同士、頑張りますか~」


「は~い」


 少し気の抜けた返事だけど、嬉しさが込められている。


 僕も少しウキウキしている気がする。


 お互いに何も言わなくても、僕達は自然と東を目指して歩いた。


 途中で出て来る魔物は彼女が殆ど倒してくれた。


 彼女が使う武器は刀。


 すらりとした体なので、刀がより似合う。


 刀身は珍しく黒い刀身なので、刀をさやから抜いていると非常に目立つ。


 さらに目立つのが、彼女の刀術とうじゅつ


 とにかく美しい。動きが流れるような芸術を眺めているかのようで、相手を斬った時も彼女が持つ技と鋭利な刃物が相まって、抵抗を全く感じさせず流れるように斬っていた。


 ふと、僕の視線が気になったのか、こちらを向いて「どうしたの?」と言わんばかりの可愛い表情を見つめる。


「いや、綺麗だなと思って」


「……君ってそういう褒め方、誰にでもしちゃ誤解されちゃうよ?」


「そ、そうか?」


「そんなもんです!」


 ぷいっと後ろを向いた彼女は少し足早に歩き出した。


 どうやらこういう言葉を口にしたら怒られるらしい。


 姉さんとは違って難しいものだ。でも本心でそう思ったからな……。


 アッシュラットゾーンを越えて、アッシュスパイダーゾーンでも彼女の圧倒的な実力で倒しながら、最終オークゾーンに辿り着いた。


 そういや、【オークガードの大盾】を持って来れてないので、木剣しか使えないか。


「あれ? いつの間に木剣を?」


「ん? ずっと持ってたよ」


「そ、そう?」


「水無瀬さんばかり戦わせて、僕ばかり経験値を得ているんじゃ申し訳ないから、僕も戦うよ」


「う、うん」


 経験値獲得システム的に完全分割制なので、僕が戦わなくても彼女が倒しても経験値が入る。


 オークを倒した時に得る経験値は4。それを二分割して2ずつになる。


 ただ僕の場合、差による経験値が倍増して増える分は元の数値4からの倍増となる。


 つまり、今の形態でオークを倒した場合、僕一人の場合得られる経験値は10。でも二人で戦ったら基礎値4が半分になるので、現在得られる経験値は8である。


 僕が倒しても彼女が倒しても経験値が8ずつ入るので、一人の時よりもずっとずっと高い。


 これは本当に助かるな。


 オークを見つけて木剣を叩き付ける。できれば伸ばして倒したいけど、それはまだ見せない方がいいかなと思って、普通に戦う。


 やはり、一撃でオークを倒すことができた。


「…………どうして一撃なの?」


「ん? あ~ほら、これのおかげだよ」


 左腕を見せる。赤い装飾がある腕輪。怪力の腕輪だ。


「姉さんが買ってきてくれた腕輪で、腕力と攻撃力が上がる腕輪だよ。一撃は多分そのおかげかな?」


「ふう~ん。そういうことにしておくね」


「…………」


 後は何も言わずにお互いにオークを次々倒していく。


 水無瀬さんのレベルがいくつか分からないが、少しでも経験値の足しになってくれたら嬉しい。


 暫く戦い続ける。一緒に戦うというよりは、少し距離を離して、それぞれでオークを倒しながら、離れすぎないように


「あ……上がってしまった……」


 少し離れた場所から落胆する声が聞こえてきた。


「水無瀬さん?」


「あっ。ご、ごめん。なんでもない」


「なんでもあります」


「…………」


「レベル6に上がってしまったんだね?」


「…………うん」


 申し訳なさそうにそう話す彼女。怒られた猫みたいだ。


「じゃあ、次は二層だね」


「二層……?」


「二層に行ってみるか」


「いいの……?」


「もちろん。オークが一撃なんだから、二層でもなんとかなるでしょう。それにもし厳しそうなら一緒に戦えばいいし、パーティーなんだから協力し合うのは当然だよね」


 彼女の大きな目が潤う。


 大きく首を縦に振る姿が、子供みたいだけど、それがまた愛らしい。


 もし彼女がいなければ、僕はずっと一層にいたかもしれない。現状でも十分経験値を得られるから。


 でもこれをきっかけに二層に行くことは、ある意味僕にとってもチャンスだと思う。


 夢にまでみた探索者。


 いつか姉さんを追いかけるのが夢だった。


 僕は彼女と共に――――初めての二層に入った。

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