第11話 レベル1の反撃

 日が明けて月曜日が始まる。


 二週間目の学校に向かう。


 一週間も経つと、仲良くなって学校に一緒に向かう生徒も多い。


 学校に着いて、午前中の授業が始まる。


 探索者の基本知識をみっちりと叩き込まれて、昼食。


 みんな今日はこうするああする話し合っている。


 昨晩、水無瀬さんが言っていた『一人では何もできない』の言葉が頭を過った。


 今の僕は何とか一人で戦えているが……すぐに限界がくるのだろうか? そもそも、レベル成長限界値が1の僕は、最初から限界だった。


 限界を超えたからこそ、一人で戦うことに違和感を感じなくなったのかも知れない。


 昼食が終わり、ダンジョンに向かおうとした時、校舎を出る前に僕の前を男子生徒達が塞いだ。


「よ~レベル1の無能~」


 またこいつらか……。


「前言っていた五千円。持って来たんだろうな?」


「前にも言ったけど、お金は渡さない」


「ちっ……! 無能雑魚が!」


 当然、彼のパンチが飛んでくる。


 しかし、あまりにも――――――遅い・・


 実は右手の中に一センチまで縮小したレベル10の木剣を握りしめている。少しでもステータスを上げておきたかったから。


 でもレベル1制服だけで十分過ぎる・・・・・くらい、彼の動きが見える。


 飛んできた拳をギリギリに顔をずらして避けると、体重を乗せた彼が前方に倒れ込んでくる。


 その刹那、男子生徒と僕は目が合う。


 驚きに染まっている目。その奥から見せる小さな恐怖・・の感情。


 以前姉さんに護身用のために格闘術を教えてもらった。人体の急所・・ならもう頭に入っている。


 そのまま喉と鎖骨が繋がる部分に指を刺しこめば、一撃で倒すことができるだろう。


 でも誰かを傷つけるために身に付けた力じゃない。


 だから軽めに投げ飛ばす。


 避けた腕を握りしめ、もう片手で胴体を持ち上げて投げ飛ばした。


 巨体が宙を舞って落ちていく中、僕を助けにやってくる水無瀬さんの驚く表情が見えた。


 昨日あれだけ言ったから嫌われたかもと思っていたのに、こうして助けに来てくれる彼女は、本当に優しい人なんだなと分かる。


 後ろで怒声が聞こえてきて、男子生徒の仲間二人が同時に襲ってくる。


 僕が前方に五十センチほど一気に飛ぶことで、殴りかかった二人が何もない場所を殴り、お互いがぶつかる。


 何も手を加えなくても、それだけで二人は倒れ込んだ。


 全力で人を殴り飛ばすって、どういう神経をしていたらできるのやら……。


「水無瀬さん」


「木村くん……助けはいらなかったね」


 ちょっと寂しそうな笑顔だ。


 昨日から彼女の寂しそうな笑顔しか見てない気がする。


「そんなことはない。水無瀬さんが見てくれたおかげで、僕が弱い者イジメ・・・・・・をしていないって証言してもらえるからね」


「ふふっ。その時は、ちゃんと証言するね」


「ありがとう。お礼にダンジョンまでお供するよ」


「それって、逆じゃない?」


「そうとも言う。さあ、水無瀬お嬢様。どうぞ」


 我ながら、女性にこういう態度を取れるとは思わなんだ。


 小さくふふっと笑った彼女が僕の手を取って、歩き出す。


 さすがに手を繋いで歩くのはしないが、姉さん以外の女性と手が触れるのは少し緊張した。


 ダンジョンまでの道を歩く。


 いつもよりも周りの景色が少し輝いて見える。


「君って前回はわざと受けたの?」


「あ~いや、あれは本気で見えなかったよ」


「そうなの?」


「ああ。週末で強くなったからな」


「へぇ~」


 レベル成長限界値が1で強くなれる方法。それはとても単純で強い装備を身に付ける。


 装備は何もダンジョンの中だけ効果を持つわけではない。


 装備判定になる装備品は、ダンジョンの外でも効果をもたらすので、こういう時の護身にもなるのだ。


「姉さんが護身用に装備品をたくさん買ってくれてな。僕の力ではないよ」


「木村くんの家って凄いお金持ちが住む所だったものね?」


「自慢の姉さんだね。姉さんがいなかったら、僕はこういう人生を送っていなかったかもな」


「ふふっ。でも努力したのは君自身でしょう? それは君が偉いんだから」


「そっか。ありがとう。それは水無瀬さんもだよな。毎日ダンジョンで頑張ってるし」


 するとまた暗い表情を浮かべる。


 きっと彼女がダンジョンに入るのは何か事情があると思う。


「今日も組んでくれる人は見つからなかった感じか?」


「そう……ね……」


「昨日の約束。守れそう?」


「…………ごめん。守れないかも」


 彼女の事情にズカズカ足を踏み入れるのは避けたい。ならば――――


「それじゃ仕方ないな。俺が見張ってあげようか?」


「えっ?」


「また無茶して倒れられても困るというか」


「…………」


 そもそもだ。彼女がこうなった一番の原因は間違いなく・・・・・姉さんにある。僕が彼女に協力する理由はあるのだ。


「それは嬉しいけど、見てもらうだけ?」


 そう言いながら首を傾げる。


 彼女の綺麗な黒髪が波を打つ。


 その中にチラッと見える水色の髪の毛が見える。


「いや、もし倒れたらまた運ぶよ?」


「違うっ! そういうことじゃなくて……んもぉ…………パーティー……組んでくれないの?」


「っ!?」


 い、いや……僕が水無瀬さんとパーティーを!?


 待てよ。そもそも見守ってやるって言葉すら…………あっ…………。


 顔をくしゃっと笑った彼女は、僕の言葉を待ち続ける。


「僕、レベル1だけどいいのか?」


「君は私のレベルと組みたいの?」


「いや……そういう訳じゃないな。水無瀬さんなら信頼して背中を預けられそうだからな」


「うん。私も」


 レベルがどうこうとかではなく、誰よりも優しくて努力している彼女を応援したいから、最強になる未来が約束されながらも苦悩する彼女に、レベル1として絶望した自分が重なるから、どこか同じ悩みを持つ同士だからこそ、パーティーを組みたいと思った。


「水無瀬さん。僕とパーティーを組みませんか?」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 僕達はぎこちない握手を交わしながら、笑顔に染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る