第14話 ・俺は、成長したんだ! やった! やったぞ!

「逆鱗?」


「いわば弱点だな。たぶん、さっきイフリートの放った火炎玉が、偶然、この逆鱗に当たったのだろう。その衝撃で墜落して絶命したんだろう」


「そっか、ラッキーだな」


 ラッキーと言って、ハッとした。まさか、本当にこのフォルという少女は幸運の女神さまなのだろうか。


「痛てて」


「あっ、大丈夫ですか! あのっ、ラ、ラル、無理せずに座りましょう」


 フォルとラルはそのまま、その場に座り込み、仲良くおしゃべりを始めた。


 俺はその様子を見ながら、辺りを少し歩いてみた。


「ふう、いろいろあったが助かってよかった。……それにしても、綺麗なウロコだな。記念にもらっておこう」


 俺はバハムートの逆鱗をそっとポケットにしまった。


 それからゴーレムの額部分があったところに行ってみると、綺麗な玉みたいなものもあった。せっかくだから拾っておいた。もしやと思って、イフリートのところに行くと、真っ赤な爪のようなものがあったので、これも拾っておいた。


「どれも綺麗だな。記念にもらっておこっと」


 俺はラルとフォルのいるところに戻って、三人で寝転んだ。


「あー、なんだかつかれたなー!」


 俺たち三人は、しばらくの間、無言で寝転がっていた。


 もしかすると、二人はこの短時間で起きた目まぐるしい出来事を、頭の中で整理していたのかもしれない。


 なぜそう思うのか? 


 俺がそうだからだ。おれはこの異世界に転移してしまってからの、出来事を脳内で処理するのに、いま手いっぱいだった。




――それにしても、俺、よくやったな! こども達とラルを置いて、逃げ出さなかった!


 前向きに生きることができたんだ! 


 そうだ! 俺はこの短時間で、元いた世界では体験できなかったような素晴らしい体験をしたんだ!


 俺は、成長したんだ! やった! やったぞ! ――




 俺は、寝転がったまま、一人、拳を強く握りしめた。




 近くでこども達の歓声が聞こえる。遠くからは大人たちの声も聞こえる。


「やったー! 助かったね!」


「うん! ラルのおねえちゃんと、あのフォルっていう幸運の女神さまのおかげだね!」


「おーい! みんな無事かー!」


「ああっ、私のこどもたちが! マイ! メイ! アイ! ここにいたのね!」


 ラルが助けたこどもたちの母親だな。みんなも無事だったようで、よかった。


 マッチョも駆け寄ってきた。


「どうなってんだ。バハムートにイフリート、ゴーレムも、三体とも絶命してやがる」


「まったくだ。どんな奇跡が起こったってんだ」


 町の人々は口々に首をひねっている。


「あのね、マイ見たの! あそこで寝転んでる、ラルのおねえちゃんと、フォルっていう幸運の女神さまが助けてくれたんだよ! すごかったんだから!」


 マイと名乗る長女らしきこどもが、目を輝かせながら説明した。


「まあっ、メルクリン家のラル様! 鎧姿ですからわかりませんでしたわ! 私のこどもたちを助けていただいてありがとうございます!」


「ああっ、幸運の女神フォル様でいらっしゃいますか! この度は町を救っていただき、誠にありがとうございます!」


 町の権力者らしき老人が深々と頭を下げた。


「おお! 町長! そうだ! せっかくみんな助かったんだ! 盛大にお祝いとお礼をしようじゃないか!」


「うむ、町の復旧には時間がかかるじゃろう。まずは、みなの腹ごなしもかねて、みなの無事を祝うお祝いと、ラル様とフォル様へのお礼のパーティを使用ではないか」


 町は人々の歓喜の声に包まれた。


 みんな、町消滅の絶体絶命の危機から奇跡的に救われたことに、喜びを爆発させていた。


「ところで、マイ。あっちの寝転んでる男の人は? あっちの男の人も何かしたの? 助けてくれたの?」

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