第13話 ・フォルって呼んでください。お友達ができて、嬉しいです!

イフリートは突然降ってきた巨大な岩石のような手のひらを打ち砕くべく、太陽のような火炎玉を上空へと打ち出した。


ゴーレムの手のひらは跡形もなく、吹き飛ばされた。


「ジンゴロウ! 見ろ! 火炎玉が上空へと打ち出されたぞ!」


 ラルが叫んだ。助かった。火炎玉で今すぐ死ぬことはなくなった。なんて幸運なんだろう。


 でも、幸運はそれだけじゃなかった。


 ボガアァァン!


 イフリートの渾身の太陽のように燃え盛る火炎玉は、天空の覇者バハムートの脇腹へと直撃し、大爆発を起こした。


 それはまさに、バハムートが核融合光線を打ち出そうとしていた瞬間だった。


 カッ! バシュウゥゥゥゥゥ……!


 大爆発の反動で、バハムートは態勢を大きくくずした。核融合光線は空の彼方へと打ち出されていった。


「ギョアアアアアァァァ!」


 バハムートはそのまま羽ばたきを止め、ゴーレムの頭部へと真っ逆さまに墜落してきた。


 ズドオォン!


 バハムートの落下の衝撃で、ゴーレムの頭部は吹き飛んだ。




「えへっ、ラッキーでハッピー♪」


 フォルがくるりと振り返り、まぶしい笑顔で微笑んだ。




 いまのいままで俺は、俺たちは死の淵に面していたはず。


 それなのに、俺の眼前には、バハムートの落下の衝撃により、頭部をつぶされてピクリとも動かない大地の巨人ゴーレムがいる。


「ケエエエエエエエエェェ……」


 バタバタと翼を動かしていた天空の覇者バハムートは、奇声を発したかと思うと、こちらもピクリとも動かなくなってしまった。


 残るは炎の魔人イフリートだ。あいつ一体でも伝説級の召喚獣ってんだから、まだ安心はできない。


「ん?」


 イフリートも動いていない。どうやら先ほどのゴーレムの全体重を乗せた平手打ちで大ダメージを受け、最後の火炎玉放出により力尽きたようだ。


「ど、どうなってんだ? 助かったのか?」


「えへっ、言ったでしょ? 私は幸運の女神だって」


 フォルが俺の横に立ち、微笑んだ。


「ジンゴロウ! やったな!」


 ラルは膝立ちのまま俺たちの元へとやってきて、飛びついた。


「おわっ!」


 俺とフォルはバランスをくずして、そのまま仰向けに倒れた。空には青空が広がっていた。


「フォルって言ったね? あたいはラル! 助けてくれて、ありがとう! あたいとも友達になってくれよな!」


「あっ、あのっ、こちらこそ、フォルって呼んでください。お友達ができて、嬉しいです! よろしくお願いいたします!」


辺りは蒸気のような煙が立ち上り始めた。どうやら召喚獣の身体は、絶命すると煙を上げ、気化していくようだった。


だが、わからないことがある。


「なぁラル。ゴーレムはバハムートの衝撃で死んだだろ? イフリートはゴーレムの衝撃だ。でも、どうしてバハムートは墜落して、そのまま死んだんだろう? あんなすごい召喚獣が、墜落したくらいで死ぬとは思えない」


 俺は寝転がったまま、ラルに聞いた。


「ああそれだな。思い当たることがある。一緒に来てくれ。いてて、肩をかしてくれ」


 俺とフォルは足を痛めたラルに肩をかして、気化しつつあるバハムートのところへ歩いて行った。


「あったぞ、アレだな」


 ラルはバハムートの脇腹部分を指さしていた。


 そこには、手のひら大の、一枚の光り輝く金色のウロコが気化することもなく、残っていた。


「わぁっ、綺麗ですね!」


「ああ、綺麗だ。これがたぶん、バハムートの逆鱗だ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る