第12話 ・股間に高速バットを当てられたのだから、まぁ気持ちは少しわかる

 なんて俺はついていないんだろうか。


フォルは相変わらずニコニコ笑顔でヘンテコなダンスを踊り続けている。


何がラッキーハッピーダンスだ。何が幸運の女神だ。


 目の前には怒り狂うゴーレム、後ろには灼熱のイフリート、頭上にはバハムートだ。


 どうやったって、ここから助かるなんてラッキーは起こりようがないだろう。


 


 人生、詰んだ。




 それもこれも、元をただせば、俺がラルに


「必殺! 大! 不幸! パンチ!」


 なんて言いながらふざけてパンチを繰り出したからだ。


 なにが『説明しよう! 大不幸パンチとは、俺の不幸オーラを拳に集約して、打ち出すパンチだ。もしも当たったら、その相手にも不幸が次々に訪れるってぇ必殺技だ! もちろんいま適当に考えたんだけどね』だ!


 どうやら俺には本当に大不幸パンチが打てるらしい。なんてこった。


 やっぱり俺はついてない!




 ズシーン! ズシーン!




 一歩ずつ、ゴーレムが歩いてくる。どうやら俺たちを踏みつぶしたいようだ。


 股間に高速バットを当てられたのだから、まぁ気持ちは少しわかる。


 でもね、死にたくないんだよね。分かるだろ?


 でも、ムリだな。自称幸運の女神さまがいたって、どうしたって無理さ。


 俺はフォルをチラリと見た。


 フォルは相変わらずニコニコ笑顔でヘンテコなダンスを踊っている。


「ダメだこりゃ。オーマイゴッド!」


「あのっ、いま、呼びました? でも、正確には私は女神ですから、オーマイガーデス! ですよ?」


「どーでもいいよ! もう本当に オーマイガー! ですよ!」


 その時、フォルの全身から強い光が出た。


「まぶしっ、なに? なにこの光?」


「あっ、来ました来ましたー! 私のラッキーハッピーパワーが全開になりましたよー♪」


 なんのこっちゃ。


 その時、当たりが急に暗くなった。どうやらゴーレムの巨体の陰に入ったんだな。後数歩で俺たちは踏みつぶされるだろう。


「終わった。もう数秒で俺たちはゴーレムに踏みつぶされるか、イフリートの火炎玉で焼き殺されるかバハムートの核融合光線で消し飛ぶか、いずれかで、死ぬ、な」


 とそのとき、ゴーレムが急にバランスを崩した。


 両手をバタバタとさせ、俺たちめがけて前のめりに倒れこんで来た。


「ギャー! つぶされるー! 死ぬ―!」


 俺の脳裏にはどうでもいいシーンばかりの走馬灯が浮かんで、消えた。


 ズドドドオオォォォンンン……!


 辺りはすさまじい粉塵に包まれる。まだ手足の間隔はある。


「死ん……でない?」


 どうやら、俺たちはゴーレムの足と足の付け根、つまり股間付近の空間にいるようだ。


 ラルもこども達も、フォルも、みんな無事だ。


「た、助かった!」


 ゴーレムの足元を見ると、巨獣グルーガンが運んでいた塔が転がっていた。


「アレは、さっきのゴーレムの地震で転がっていたはず。そうか!」


 どうやらアレを踏んで転んでしまったらしい。


「ゴギャアアアア!」


 すさまじい雄たけびが聞こえた。今度は何だ。奇声の主を見ようと、ゴーレムの股越しに、声のした方角を見た。


高台の上にいる炎の魔人イフリートだった。


なんとイフリートはゴーレムの手のひらに掴まれている。


ゴーレムの50メートルはあろうかという巨体が倒れこんだ時に、偶然にもその長大な腕がイフリートの上へと落ちてきたようだった。


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