第9話 ・でも、俺は変わりたいんだ!
・でも、俺は変わりたいんだ!
『どうせ無関係な人間だ。ラルも、こども達も。こいつらなんて、放っておこう』
そう……かもな。
『さっさと逃げて、この異世界で、いままでついていなかった人生の負けを取り戻そうぜ!』
逃げて、逃げて、取り戻す、か。
「あーあ、せっかく異世界に転移したのに、いきなり死にそうなんて、やっぱり俺には運がないな」
俺は思わずつぶやいた。
『何をしているんだ。俺よ。さあ、いまなら間に合うぞ。異世界でやり直せ』
「ジンゴロウ! 何をしている! 早く、こども達を!」
ラルは足を引きずりながらもこども達の方へと進んでいく。
ああ、なんて美しい姿なのだろう。ラルの行動は、キレイごとじゃない。ラルは、凄いやつだな。
『逃げろ! 逃げろ! 自分だけ逃げろ!』
そのラルのあまりにも美しい姿が、行為が、俺の中のネガティブな俺を、ぶち壊した。
「俺は、死ぬ!」
「ジンゴロウ! まだあきらめるな!」
あきらめたんじゃないさ。
ま、確かに、きっと俺はここで死ぬだろう。でも、俺だけ逃げて、この異世界で楽しく暮らす? そんなの、ごめんだね。
分かってるって、生きた方がいいんだろ? 希望を残しとけっていうんだろ?
でも、俺は変わりたいんだ! いまわかった。変わりたかったんだ。ネガティブな自分を変えたかったんだ。
もしかしたらその気持ちがあったから、この異世界に来てしまったのかもしれない。
これから数分以内に俺は死ぬと思う。
でも、俺は変われる! 変われたんだ! その意味は、きっと大きい!
「あーあ、こりゃどうあっても、俺は死ぬ。無関係な町の人々も一緒に死んでしまう。やっぱり俺はついてない……オーマイゴッド!」
俺はラルを再び抱き起し、右の肩に担いだ。
「ジンゴロウ! あたいのことは放っておけって!」
「放っとけないさ! せっかくだから、一緒にこども達を助けようぜ!」
もう後戻りはできない。でも、いい。前へ進むんだ。今度こそ。
俺とラルは、ゆっくりとこども達の方へと歩いて行く。
それにしても、地面が揺れる。ゴーレムのせいだ。
ようやく泣き叫ぶこども達の前へ着いた。ラルはこども達の方へ膝立ちで進んでいった。
でも俺は、ゴーレムの振動でそのまま態勢を崩し、しりもちをついてしまった。
「おっとっと」
ドスン。
むにゅ。
「ん? むにゅ?」
俺の尻は、固い地面にしりもちをついたが、左手からはむにゅむにゅと柔らかい感触が伝わってくる。
むにゅむにゅ。
もうすぐ死んでしまうかもしれないという、極限の緊張感の中、なんだかこの柔らかさが俺の気持ちを弛緩させる。
「なんだろう? へへっ、なんか気持ちいーなー」
ゴーレムの振動で揺れるさなか、天を仰ぎ見ながらそうつぶやいたとき、誰かが俺の手をクイクイと引っ張った。
「あのっ、あのっ」
下を見ると、一人の少女がゴーレムの地ならしの揺れで寝転がったまま、潤んだ瞳で俺を見ていた。直感的に、年は俺と同い年くらいだと思った。
「はい? な、なに?」
少女はほこりまみれでぼろぼろの服装だった。髪もほこりでぼさぼさだ。でも、顔はとってもかわいい。
こどもばっかりだと思っていたが、俺と同い年くらいの人もいたのか。
「ああああ、あのっ。わ、私のおっぱいを揉むのをやめてもらっても、いっ、いいですかっ」
「え?」
はたと気が付いた。俺が先ほどからむにゅむにゅと揉んでいたのは、この女性の胸だったのだ。なんとついていないのだろう。
これではまるで俺がまたしても変態みたいではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます