第8話 ・じゃあ、俺だけで走って逃げよう。そうすりゃあ助かるぜ

・じゃあ、俺だけで走って逃げよう。そうすりゃあ助かるぜ


 大通りは大パニックへと陥った。

 人々は我先へと、町の外へと逃げ出そうと、門の方へと殺到していく。


「なんてついてないんだ、俺は」

俺はもう一度、頭上を見上げた。空には巨大な召喚獣バハムートが羽ばたいている。

その巨大な口の中には真っ白い光のエネルギーが充てんされているようだ。

シュオオオオォォォォ・・・・・・・。

なんだか甲高い音が響いている。

こんな光景は見たことがない。でも、直感的にわかるさ。魔法だか何だかは、わからないけれど、アレは俺の知らない未知の高エネルギーの塊だ。そうだろう?

あの口から、エネルギー弾がビームみたいに発射され、それが地面に直撃したら、半径数百メートルは灰燼に帰す、というワケだろう。

その時、俺はどうなる?

「俺は、死ぬ!」

 異世界に転移してきたばかりで、どうしてこんな目にあわなければいけないんだ。

「ゴオオオオオォォォォ・・・・・・・・・・!」

 これまた頭上から轟音がとどろく。

 後ろを振り返れば、これまた伝説の召喚獣である、大地の巨人ゴーレムがおたけびをあげている。

「おいおい、どんだけでかいんだ。五十メートルはあるんじゃないか?」

 こいつが少し足を動かすだけで、辺りは地震が起こりまくりだ。とても立っていられない。さっきから、ずっと俺はよろよろとこけまくりだ。見なよ、この町の人々もよろよろしてる。

 次々にレンガや石造りの中世ヨーロッパのような町並みの家々が崩れだしている。

 もし、このゴーレムがダンスでも踊りだした日にゃあ、やっぱり町が消滅するのは目に見えている。

 ボボボボボボォォォ!

 はい、そしてこちら、俺の目の前でかめ○め派でも繰り出しそうなポーズで真っ赤に燃え盛っていらっしゃるのが、やっぱり伝説の召喚獣イフリートだ。

 体長は3メートルってところ。

 わかってるって、背は低いけど、どうせ強いんだろ? 

その手の中の火球を打ち出したら、大爆発ってわけさ。

おまけにどういうわけか、その目線は俺の方を向いているし。


町の人々はゴーレムの起こす地震でぐらつきながらも、我先へと逃げ出していく。

だが、本当に門の外まで逃げたところで、助かるのだろうか……。でも、逃げるしかない!

「俺たちも逃げないと……! ラル!」

 俺は爆風で倒れていたラルの手を引っ張り、引き起こす。

「い、痛っ!」

 立ち上がりかけたラルが、地面にへたり込んだ。

「どうした、大丈夫か?」

「あ、足が……。どうやら足をひねってしまったみたいだ」

 見るとラルの足首が真っ赤にはれている。どうもラルのアンタッチャブルアーマーは攻撃は確かに自動回避するようだが、自分で足をひねったり、抱き着いたり、手を握ったりと言った、攻撃っぽくないものは回避できないのかもしれない。

「ラル、俺の背中に乗れ!」

「ありがとうジンゴロウ! でも、あたいのことはいい! あたいよりあそこのこども達を頼む!」

 ラルが指さした先には大通りで遊んでいたのか、小さなこども達が数人うずくまって泣いていた。

「し、しかし! お前は死ぬぞ!」

「いいんだ! これもメルクリン家の宿命。弱き者の盾となる、それが我が一族の務め!」

 ラルの瞳は強く光っていた。何のことかはよくわからないが、ラルの決意が固いことはわかる。そして、その気高さが、何物にも代えがたいほど、素晴らしいことも。

 絶対に助けたい! 心の底からその気持ちが沸き起こる。

 だが、困ったぞ。ラルを背負って逃げるにも、俺の体力じゃあ、門の外まで逃げ切れるかどうか分からない。

 ましてや、こども達を背負うこともできはしないだろう。

 もたもたしてたら、俺はここで死んでしまうだろう。

『じゃあ、俺だけで走って逃げよう。そうすりゃあ助かるぜ』

 俺の頭の中で声が響く。

いつもネガティブなことばっかり言う、俺だ。

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