第10話 ・なんか頭悪そうな感じ。女神感ゼロなんですけど。

「あっ、ごめん! その、わざとじゃないんだ! 俺は変態じゃ……」


 そこまで言いかけた時、少女は涙目のまま、俺の前に膝を正してちょこんと座りなおした。


「あのっ、私は幸運の女神フォル・トゥナって言います。新人研修を終えて、この世界に新任の幸運の女神として着任しました。でも、契約をしないと力が使えません。あ、あのっ、私と契約してくれませんか? そしたら、きっとみんな助かります」


「なんてこった」


死ぬ間際に変な奴に声をかけられたもんだ。


「あんたねえ、こんな時に……」


 ふざけたこと言ってるんじゃないよ? と言おうと思ったんだが、少女が会話をさえぎった。


「あっ、フォルって呼んでください!」


「フォルね。はいはい、俺は神木ジンゴロウ! 世界一ついてない男さ!」


ってそんなことどうでもいい! こんな時にこんな変な少女に出会うなんて、やっぱり俺はついてない!


「あっ、じゃあ、ジンゴロウ君だね! よろしく!」


 フォルは屈託のない笑顔で微笑んだ。


 


 このフォルと名乗る少女が女神だって? しかも幸運の?


 俺は改めてフォルを観察した。ショートカットの銀髪に青い瞳、白い肌。服こそ砂埃まみれだが、とても高潔な人にも見えなくも……ない、かな。


 フォルはニコニコとほほ笑んでいる。


 いまにも死にそうなときになんだが、フォルの笑顔は暖かった。その笑顔を見ているだけで、こんな状況なのに幸せな気持ちが俺を包み込む。 


 ……まぁ、どうせ死ぬんだから。話を聞いてみるか。


「えっと、フォル?」


「あっ、はい」


「その、契約ってどうやってやるんだ?」


「食べ物をくださいっ。そうしたら、契約成立です。助けてあげます」


「えっと、いまいち要領を得ないのだが……」


「あのっ、そのっ。つまりですね。この世界で最初に私に貢物、つまり食べ物をくれた人と自動的に契約することになるんです・だから食べ物をください」


 グウウウウゥゥ・・・・・・。


「あうっ」


 フォルのお腹からすごい音がした。慌てて自分のお腹を押さえる。


フォルはよほど空腹なのだろうか。もしかすると、先ほど横たわっていたのは、空腹のせいだったのかもしれない。


 それにしても、フォルが女神?


でも、本当に幸運の女神さまとやらがいるとは思えない。


だってそうだろう?


 そんな女神に出会うなんて、よっぽど幸運な奴さ。俺みたいについていない男が出会うはずがない。 


 ……でもまあ、どうせ死ぬのなら、最後に女子と仲良くしておくのも悪くないな。


俺はポケットの中に一つだけあった、チョコレートバーを差し出した。富士の樹海で死ぬ前に食べようととっておいた最後の一個だ。俺は包装を破り、フォルに差しだす。


 バッ!


 フォルはそれを半ば強引に奪い取り、むしゃむしゃと食べ始めた。


 数秒間を置き、フォルが驚きの表情で、俺を見上げる。


「きゃー! ナニコレ! 超おいしいじゃないですか!」


 フォルの瞳には星が輝いていた。フォルはそのままの勢いで、一気にチョコレートバ―を食べ終え、背筋を伸ばし、両腕を天高くつき上げた。


「よーし、契約成立です! ラッキーハッピーパワーがみなぎってきましたよー!」


 ラッキーハッピーパワーって、なんだ。


なんか頭悪そうな感じ。女神感ゼロなんですけど。




シュオオオォォォ!




俺が飽きれていると、頭上のバハムートの発する高音がより甲高くなってきた。


見上げると、バハムートの口の中が、いよいよ真っ白な光で満ちていく。


「ありゃ、なんか、いまにも発射しそうな雰囲気だなー」


 まるでゲームのような光景に、俺の脳は現実感を見いだせずにいた。


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