第25話

「神……?」


 ルシアの口から出てきたその言葉に悠真は首を傾げる。


「そう、神さ。私たちは神話に残る悪魔のような存在であり、そして、その敵は神様に決まっている。そうだろう?」


 ルシアは悠真の言葉に対して楽しそうに口を開く。


「私たちはひとつであり、ひとつでなき存在。人々の伝承と共にその姿を性質をも変える。例え忘れ去られようとも。また新たなる神がどこかで信奉されればそれとなる。かつては隆盛を誇った今も尚モアイとしてその面影を残す海洋の巨神兵が空飛ぶスパゲッティーになったのは流石に笑ったわ」


 ルシアの口から出てくるあまりにも現実感のない話に和葉たちはただただ呆気に取られる。


「さて、本題に入りましょうか。今、神はお怒りになられているわ。戒律を守ろうとしない人類に。その怒りは全人類を滅ぼさんと燃え上がり、天罰の用意を始めた……あぁ、でも、私たち悪魔はそれを許さない。彼を見て?」


 ルシアはイムを指さしながら話を続ける。


「うにゃ?」


「人の生命をおもちゃのように弄び、自分の欲を満たす。命を命と思わず、されど、彼は人類を滅ぼさない。それどころか神のように人を導くことさえある?悪魔とはね。そういう生き物なの。何よりも人を愛し、何よりも1で楽しむもの……まぁ、私のようにただ神が気に食わなくて悪魔となったものや、そこのマザーのようにただ人を愛すものもいるけれど。割と個性豊かな悪魔たちの面々だけど、私たちに共通しているものがひとつある。それは人類の滅亡を望まないってことよ。おもちゃは大切に扱うものでしょう?知っているかしら、どのような媒体においても、神は悪魔よりも人を殺しているものなのよ」


 ルシアは立ち上がり、両手を広げる。


「これはね、人類の前に立ち塞がる選択の時なの。己が信じてもない神の手による天罰を、滅びを受けいれるか。それとも己が生き残るために悪魔と契約を結ぶか、その究極の二択の」


 ルシアは嗤う、悪魔のように。

 彼女を見る全てが理解する、目の前の存在が確かに醜悪なる悪魔だということを。


「願わくば、貴方たちが私の大嫌いな神を殺す尖兵となることを」


 ゾッとするほどに美しく、まさに悪魔のような笑みを浮かべるルシアは実に自分本位で自分勝手な祝福を、人類へと押し付けるのだった。


「ふふふっ」


 悪魔は常に人を魅了し、堕落させる。

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