第17話

 珠美の言葉を受け、イムは無表情かつ無言を保つ。


「私は、ずっと憧れていた……ずっと、ずっと。ひたすらに貴方を追いかけ、憧れ、慕ってきた……貴方の言われた通りに私は頂点を目指した。そして、その後は……イム君がいて、イム君の正体に気づいてからはイム君が世間から本当の意味で誰からも受け入れられるように、って……!」


「リンタナ」


 涙ながらに訴える珠美に対してイムは彼女のハンドルネームを口にする。

 当時、まだ人間だった頃のイムの配信でコメントを送ってきた少女のハンドルネームを。


「学校で虐められ、友達からも親からも認められず、見下されていることに苦心し、周りを見返したいと言った少女に対して、僕は何かにおける頂点に立てばいいと告げた。自分の上に誰もいない頂点に立てれば自分を見下す人なんて存在せず、君は自分を誇れるようになると」


 イムはどこか懐かしそうに目を細めながら言葉を話す。


「そして、僕は君を自分と同じ配信者になるよう誘った……厳しい道のりになることは当然だし、不可能としか思えぬ道。されども君は迷うことなくこの道に来た」


「私は成し遂げた!言われた通りに!!!成し遂げられたら、褒めて、くれるって!!!共に立ち、私を誰よりも認めるくれるって、イム君がぁ……!なのに、なんで……一度も私を褒めることなく、殺意を、向けるの……?」


「何を勘違いしている?まだお前は僕を超えていない。アイオーンチャンネルの登録者数は僕のチャンネルを超えていない」


 かつてのイム君のチャンネルであった『タルタロスの作業部屋』の登録者数は未だ日本一である。

 多くの人気コンテンツにおいて絶大の存在感を放った当時のイムは他と比べて圧倒的だったのだ。


「実力でも珠美は僕に適わない」


「そ、それは……!」


「あの日、言ったはずだよ?僕すらも食うつもりで来いと……君は僕を超えてない。まだ頂点に立っていない」


「……ッ」


「僕を喰らい、頂点に立て。そして、世界を、自分の友を守れ、リンタナ」


 イムは涙を流す珠美に対してそう告げるのだった。

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