第19話
「そ、そんな……あの子はッ!あの子は本当に亡くなったんですか!?」
「……申し訳ありませんが、事実です」
「う、嘘だ……そ、そんな。だ、だってあの子はあんなにも元気で……」
「その心内は察せられますが……こちらでも確認の取れた事実となります。こちらが形見として発見してくださった冒険者の方より頂いた少女の身に着けていた衣服と靴になります」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ」
和葉と珠美。
彼女たちが滞在している今、東京で最も大きな避難所となっている東京ドーム。
その一角で悲痛気な女性の泣き叫ぶ声が響き渡っていた。
「……ッ」
その声を陰から聞く和葉の表情はこれ以上ないほどに歪み、硬く閉ざされた口からはこらえきれなかったように小さな息が漏れる。
そんな彼女の表情は心なしか青ざめ、こけているようにも見える。
「……あなたのせいではないわよ。地上を自由自在に移動する魔物なんて初見での対応は不可能よ」
少女を殺したしまったこと、守れなかったこと……それを少女の母親の絶叫を間近で聞きながら自責の念を浮かべる和葉を慰めるように珠美が口を開く。
「でも……きっと、あの人なら、勇者ならば守れた。私なんかでは違うあの人であれば守れたはずなの」
「あの人は別よ……イムくんでさえ人間とは逸脱した実力を持つと太鼓判を押すほどだもの」
「でも、今は私たちが希望だから……もっと、もっと強くならなきゃ……ッ」
和葉の瞳に力強い力が宿る。
「か、かずは…?」
そんな和葉の様子に珠美は困惑の表情を浮かべる……珠美にとって和葉のその言葉は違和感の強いものであった。
珠美の中で和葉は自分に関係ない子への興味は限りなく低く、正義感とは無縁でどこか抜けている女の子であったからだ。
スラム育ちであるが故の過酷な状況への慣れと自身の生活に対する余裕の無さ、スラムの人間に向けられる人々の冷淡さ。
それらが和葉を形作っていた。
「一緒に頑張ろうね……珠美ちゃん。イムちゃんがいない中でも」
しかし、そんな和葉も変化する。
数多の人の優しさと交流、自分の守れなかった少女を見て。
「……うん、そうだね」
和葉の変化を良きものと捉えた珠美は彼女の言葉に優しく頷いた。
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