第22話

 ダンジョン二階層で複数体の魔物は避け、強力な個体も避け、一人でうろちょろしているゴブリンやスライムなどの弱い魔物をパイプで倒していくご主人。


『ふぅむ……なんか強力な個体が多いな』

 

 僕は歩いて移動するご主人の頭の上に乗った状態でプラカードを抱える。

 

「え?そうなんです?」


『そうだよ。基本的には強力な個体はなかなか生まれないんだよ。いないことがほとんどで、居ても一体。なのにこの階層には三体いる。何か面白そうなことが起きそうな予感』


「え?それって大丈夫なんです?」


『僕がいる限り大丈夫だよ』

 

 不安そうな声を上げるご主人に対して僕はそう返す……ん?何だこの反応。

 僕は己の魔力察知が感知した特殊な魔力の動きを前に首を傾げる。


「ぷぎぃ」


 って……あれか。

 首を傾げたのは少しだけ、すぐに特殊な魔法の動きの原因に思い至る。

 

「スライムちゃッ!?」

 

 鳴き声をあげた僕に反応して声を上げるご主人は急に強く鳴り響いた鈴にびっくりして体を震わせる。


「な、何事!?」


『イレギュラーエンカウント。自由自在にダンジョンの階層を行き来することが可能な特殊な魔物だよ』


 僕はご主人へとなんでもないことを教えるかのように、今起きていることを教える。


コメント

・イレギュラーエンカウント!?

・ま、不味くね…?

・スライムちゃん冷静すぎでしょ。

・逃げて!!!

・これは……。


 コメント欄が荒れ狂っているのを横目に僕はご主人の頭から降りる。


『ご主人。動かないで。こいつにご主人じゃ勝てない。僕に任せてよ』


「だ、大丈夫なの……?」


『任せて、問題ない。王ごときに負けるつもりはないよ』

 

 僕は絶対の自信でもって断言し、自分の体をにゅるにゅると動かす。


「ひぃぃぃぃぃ!?な、何あれ!?」

 

 イレギュラーエンカウント。

 その第一幕が姿を現したのは僕たちの会話のすぐ後……通路全てを覆うほどの大量の魔物が姿を表す。


コメント

・オーガ!?

・違う!ハイオーガだッ!

・めっちゃおるやん。

・なんかまずい感じ?

・な、なんで下層な魔物が…

 

 驚異的な数。

 これだけの数がいたら、前世の僕であっても苦戦は免れなかっただろう。


「ぷぎぃ」

 

 だが、今の僕に数は意味をなさない。


「……え?」


 己の体を一瞬で膨張させ、まるで津波のように前へと伸ばしていく。

 僕の体が一瞬で大量の魔物たちを呑み込み、溶かし、進む……何人たりとも逃れらない絶対の死がダンジョン内を駆け抜け、全ての魔物を僕が呑み込んだ。

 

「……やば」

 

 僕は自分の体を元へと戻し、元の大きさになってからご主人の頭の上へと戻る。

 残された者はなにもない……まるで何もなかったかのように大量の魔物たちは綺麗サッパリその姿を消した。

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