第23話
一網打尽。
通路を埋めるほど大量にいた魔物は全て僕が倒した。
「これで終わり、かな……?」
『まだ終わってないよ』
だが、それでもイレギュラーエンカウントは終わらない。
『イレギュラーエンカウント。遥か強力な魔物が上層下層問わず、何処にでも出てくるという脅威。多大な犠牲が出ること必須のイレギュラーエンカウントの中でも、更に強力な個体が『王』の個体。これより始まるは三獣を統べ、鬼を追い落として領土と富を得し桃源の王が侵略』
久方ぶりに戦う王のイレギュラーエンカウントを前に僕は体を唸らせ、いつでも戦闘が出来るような態勢を取る。
「……そ、それって桃太郎?」
『よくわかったね……そう。桃太郎だよ』
霧が立ち込める。
ダンジョンの中に冷たい風が吹き荒れ、霧が荒れ狂い、鳥の鳴く声が響き渡る。
『今、ここに始まるのは昔話の再誕。遥か昔の再誕である。鬼を殺し尽くし、王となりし王が此度は世界を覆って他の生命を堕とせし鬼へと成り果てた人間を殺し尽くしに来た』
僕はプラカードを仕舞い、体内から一振りの剣を取り出す。
「ぷぎぃ」
そして、その剣を三振り。
霧に紛れて近づいてきていた犬、猿、雉を一刀両断する。
「……ふぅむ。お主、ただのスライムではあらぬな?」
三獣が堕ち、霧が晴れたダンジョンの中に。
刀を手に持ち、鎧を身に纏う一人の『魔物』が立つ……その鎧の中に肉はなく、ただただ不気味にダンジョンを照らす蒼い光だけが揺らめいている。
「ぷぎぃ」
声を発することの出来るイレギュラーエンカウントである桃太郎に対してただのスライムでしかない僕は言葉を返すことが出来ない。
「喋れもせぬか……意思なき獣。所詮はただデカく、増えるだけのスライムか。ただの一端末風情が我が三獣を殺すとは。甚だ信じられぬが、まぁ良い。興味もないわ」
ずりずりと桃太郎の方へと近づく僕に対して桃太郎は何の反応も取ることなくしゃべり続ける。
「しねぃ」
神速の一振り。
構えなど取っていなかったはずの桃太郎がいつの間にか刀を抜き、完璧な抜刀術でもって
「……ッ!?」
桃太郎の一刀……だがしかし、それは僕の体に何ら影響を及ぼすことが出来ない。
「ま、まさか貴様ッ!?端末でなく本体!?母なる懸濁粘性体か!?」
不動たる僕を前にして驚愕の声を漏らす桃太郎に対して僕は体を一瞬にして膨れ上がらせ、そのまま丸呑み。
桃太郎を自分の体の中へと取り込んで一瞬でその身を溶かして吸収したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます