第9話
暇な授業の時間が順調に進んで午前が終わって、昼休み。
「学校に最弱の魔物であるスライムを連れて来るとか、やっぱり琴音は琴音だな!はっはっは!」
「くすくす……」
「ちょっと、礼二。例え事実だとしてもそれは言い過ぎよ!」
「ちょ!礼二よりもお前の言葉の方が切れ味つぇよ!」
僕の主人である和葉は陽キャの男女グループに絡まれていた。
「……ッ」
無言で口を結び、何も言わずにいる和葉へとその男女は心ない言葉を投げかけていく。
「でもまぁ……その最弱が貧乏人であるお前にはお似合いかもなぁ!」
「礼二の魔物であるブラッドウルフとは格が違うよな!」
……何と言う心外。
ブラッドウルフなんかよりも僕は遥かに強いのだが?勘違いもほどほどにしてほしい。
「そうだ!今ここで貧乏人のお前にブラッドウルフを見せてやるよ!」
礼二と呼ばれた男が懐より小さな結晶を取り出す。
召喚石。
己がテイムした魔物を自分のいる場所へと召喚するという効果を持った魔道具の一種である。
「……」
教室に召喚するにはちょっと大きすぎるブラッドウルフを召喚した礼二は自信満々と言った様子で胸を張って立つ。
「おい!見ろ、これが俺のブラッドウルフだ!」
血のように赤黒い毛並みを持った一匹の獣。
ブラッドウルフの視線と和葉の頭の上に乗る僕の視線がバッチリと合う。
「……」
魔物には魔物のコミュニケーション手段がある。
僕ら魔物は目と目を合わせるだけである簡単なコミュニケーションをとるとともに、互いの力の差を知る。
「……く、くぅーん」
「……ウル?」
礼二に召喚されたブラッドウルフは僕に頭を下げて情けない声を上げる。
ブラッドウルフは今、僕と己の力の差を痛烈に理解しているところだろう。
今、彼の目には僕がとんでもない化け物のように見えているはずだ……いや、化け物どころか邪神の類だと思っていてもそこまでおかしくない。
それほどまでに僕とブラッドウルフには力の差がある。
「……ぷぎぃ」
僕は視線でブラッドウルフへと簡単な命令を下す。
「ワンッ!」
ブラッドウルフは機敏な動きで礼二君の椅子と机を口で確保。
何と器用なことに口でつかんだ机を和葉の隣の机に置き、更にその机の上に椅子を乗っける。
「わ……わぉーん」
次にブラッドウルフはそっと和葉の頭の上にいる僕へと前足を伸ばして掴み、僕を恭しく丁寧に扱って机の上の椅子へと乗せる。
「くぅーん!」
そして最後、僕に対してお腹を見せて完全服従のポーズをとるのだった。
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