第6話

 人間の言葉を完全に理解するスライムを前にして困惑の表情を浮かべていた少女の母親である女性だったが最終的に少女が僕のことを飼うことを認めてくれた。


「……」


 そんな日の夜。

 少女も女性もペラペラな布団で完全に眠りへとついた頃、僕はスライムである自身の体を小さくし、自分で埋めた部屋の穴から飛び出す。


「……」


 外へと飛び出した僕はそのままスライムとしての体を滑らし、地面を疾走する。

 暗い、暗い夜の世界で小さき存在でしかない僕は誰からも気取られることなくこの世界を疾走する。

 貧民街を抜け、繁栄の色で輝いている街を駆け抜ける僕は一つの高層マンションへとたどり着く。


「……ぷぎぃ」

 

 マンションの壁を疾走し、最上階へと登り、とある一室のベランダへと降り立った僕は魔法を発動させる。

 あらゆるものの侵入を拒む結界を、前世の僕がかけていた結界を解除して、前世の僕の家の中へと帰ってくる。


「……あー、あー」

 

 スライムとしての体を揺らし、魔法を駆使し、スキルを駆使してなんとか前世と同じ声を出す声帯を作り上げ、体を動かして人の形を型どる。


「よし、ただいまっと」

 

 前世の家へと帰ってきた僕は360度一切隙のない『視界』でもって周りを見渡す。


「どこも変わってない……誰も来てないね。良かった。えーっと、何処まで持っていけるかな?」


 僕しか入ってこれないようにする結界を貼っていた前世の家には誰も入ってこれていないようだ。

 誰も僕の家の中に何があるのかわかっていない間に取っていけそうなものは取っていってしまおう。


 ……配信用のカメラに……機材に……高価なアクセサリー……お気に入りの服。 

 たとえ誰かが入ってきたとしても、荒らされていないと判断出来る程度の少ない数のものを自分の体に取り込んで収納する。


「まぁ、こんなところかな?」

 

 前世において、アニメ化するほどに売れた小説を書き、様々な依頼が殺到するほどに名の売れたイラストレーターであり、かなり有名な動画投稿者でもあり……他にも様々な分野に手を出して多くの黒字を出していた前世の僕の収入はかなり多く、家にあるものも高価のものばかり。

 少しだけでもかなりの収穫となる。

 高性能なカメラ一つで少女の家の財産を超えるだけの金額となるほどだ。


「帰るか。収穫はもう十分」


 自身の家への久しぶりの帰郷。

 得るものを得られた僕は満足して再びベランダから飛び出し、再び結界を貼る。


「さようなら……もう二度と来ないよ」

 

 声帯を消し、人型となっていた自身の体を元の小さなスライムへと戻した僕は来た道を戻った。

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