第5話
僕の飼い主である少女が料理を作り終えてから少しばかり。
「ただいま……」
家の扉が空き、作業服を着込んだ一人の女性が部屋の中へと入ってくる。
「って、なにこれ!?」
部屋へと入ってきた女性は家の変わりようを目の当たりにして驚愕の声を上げる。
まぁ、それも当然だろう。僕が来る前と来た後ではこの部屋のあり方が百八十度違う。
「おかえり、お母さん」
部屋の中へと入ってきた女性に対して少女は声をかける。
「う、うん。ただいまなんだけどこれは……」
「ぷぎぃ!」
女性の疑問に対して少女が答えるよりも前に僕は自分の存在をアピールするかのように鳴き声を一つ上げる。
「……ッ!?す、スライム!?」
「ダンジョンで好かれたから連れてきちゃった」
僕を見て驚愕の声を上げる女性に対して少女が何故故に僕がここにいるのかの説明を行う。
「つ、連れてきたって……うちに何かを飼う余裕はないわよ?」
「だ、大丈夫だよ!スライムちゃんはお利口さんなんだよ。家を綺麗にしてくれたのもスライムちゃんなの!汚したり、何か壊したりなんてするわけがないよ!そ、それに食費だってかかるかどうかはわからないんだよ」
「……確かにスライムって何か食べるのかしら?」
スライムたる僕は味覚のオンオフも自由だ。
娯楽の意味で美味しい食事はぜひにと願いたいが……別に食事をしなくとも生命活動の維持に支障はない。
スライムは呼吸も、食事もいらず、寿命すらなく……敵さえ居なければただただ粘体の体を無限永久維持し続けることが可能な存在なのだ。
「ぷぎぃ」
質素な料理が並べられている小さなテーブルの上に器用に乗っかり、鳴き声を上げる。
「「あっ!」」
僕が食べると思ったのだろう……慌てたように声を上げる二人に対して僕はテーブルから降りて距離を取り、体を横に動かす。
そう、まるで首を横にふるかのように。
「「……え?」」
そんな僕の仕草に対して二人は困惑と疑問が織り混ざった声を上げる。
「……あっ、もしかして。料理はいらないってことを言いたいの?」
「ぷぎぃ!」
沈黙の果てに出てきた少女の言葉に頷くようにして僕は体を飛び跳ねさせ、首を縦に振っているかのように見せる。
「……人の言葉がわかっている?」
「ぷぎぃ」
続く女性の言葉に対して頷くように体を飛び跳ねさせる。
「ど、どういうこと……?」
そんな僕を見て、女性はただただ困惑し続けた。
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