第5話 分からない距離感

 初日、あんな大胆だいたんに、前世での逢瀬おうせを語ったのに、登川とがわ君は、予想に反して、不自然なくらい距離を置いてきた。

 

 あれ以来、帰り道に待ち伏せとか、尾行びこうなんてストーカー行為こういをされたら、どうしようかと気にしてたけど……


 私の余計な心配だっただけで、そういうの、登川君のキャラでは無いらしい。

 

 教室内では席も離れているし、登川君の周りは、いつも取り巻き女子達が5-6人くらいいて、私とは挨拶あいさつひとつわす事なく時間がぎてた。


 ホッとしたような……

 

 何だか物足りないような……


 もしも、登川君が言うからの因縁いんねんが有るなら……

 教室に出入りする時、ドアの所で鉢合はちあわせになったり、学校以外でバッタリと遭遇そうぐうしても、不思議は無いのに。


 そんな偶然ぐうぜんも何一つ起こらなくて、今となっては、あの登川君の言動が、現実だったのか疑わしい。

 

 まさかと思うけど……


 登川君の方からえさいて、引っかかるかどうかは、私におまかせって、放置ほうちプレイのつもりでいる……?

 そんなつもりで登川君が私の出方でかたを待って楽しんでいるなら、超ムカつく~!


 そんな魂胆こんたんに引っかるもんか!

 

 私には片想いだけど、原田君がいるんだから!


 そう、原田君……

 原田君は、私が登川君からアプローチされてた時、どう思った……?


 少しは、気にかけていた?

 それとも、誰に言いられても、気にならない?


 あ~!

 そんな事、考えている場合ではない!


 来週は、中間テストが始まる!


 週始めに登川君が来てから、気持ちが落ち着かなくて、勉強が思うようにはかどらない!

 家に帰ると、お兄ちゃんのゲーム音、夜は、両親の口喧嘩げんか邪魔じゃまされるし……


 久しぶりに、図書室でも寄る事にしよう!

 試験前の図書室は混んでいるから、席が有るかな?

 

 図書室のドアを開けて、まず、視界に飛び込んで来たのは……

 登川君!


 髪色と肌色が、周りと全然違うから、どこにいても目立つ!

 だから、こっちは登川君にすぐ気付くんだけど……

 登川君は、多分、私が入って来た事にも気付いてない。

 私は、登川君と違って、目立たないから。


 もしも、ホントにからの御縁ごえんが有るなら、こんな目立たない私が入って来ても、運命的に目が合ったりするんじゃない?


 目が合う事も無ければ、気付かれる事すら無いなんて……

 やっぱり、前世でってたっていうの、うそっぱち?


 せっかく、勉強しようと教科書広げても、内容が頭に全然入って来ない。

 こんなで、私、中間試験、大丈夫……?


 登川君が、立ち上がった!

 もう、ここから出るつもり?

 

 私の横を通り過ぎていく時、さり気なく教科書の上に、小さく折った手紙を落して行った。

 対角線上2角が折りたたまれた長方形の手紙。


 気付かれてないと思ったのに……

 私がいる事に気付いていたんだ!


 それだけの事なのに、心にともしびともったかのように暖かくなった。

 

 手紙を広げると……


 登川君の書いた文字は、草書体そうしょたいのように線が細いけど達筆たっぴつで、


『玄関で待っている』


 って……

 

 どうしたの、私?

 涙腺るいせんがおかしくなった……?

 

 勉強しながら目をうるませてたら、ヘンだよ。

 登川君の待つ玄関にだって行けない……

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