第一章 五、賑やかな旅路 1

 サラは、目覚めて愕然とした。

 そこは、何故かいつの間にか、宿の自分の部屋だったのだ。

 何時の間に、戻って来たのだろう?

 慌てて起き上がり、思わず顔を顰める。どうした訳か、酷い頭痛だった。


 「姫様!」

 窓の側に立っていたモーンが、目を覚ました彼女に気付いて、素早く飛んで来る。

 モーンの苦い顔を見つめながら、サラは細い首を傾げた。

 「モーン、何故わたくしはここに居るのかしら?」

 なんだか、自分が酷く間抜けに思える。


 けれど、尋ねない訳にはいかなかった。どうにも、記憶がはっきりしないのだ。

 「昨夜、奇妙な男が姫様を抱えて来たのです。お酒をお召しになったようですな、あまり、いい姿ではございませんでしたぞ」

 モーンに言われて、あっと声をあげた。


 そうだった、確かシャークと酒場に行って・・・・。酒を飲んで、酒場を出る瞬間までは覚えていた。しかし、それからの記憶が無い。


 その先は、どう頭をひねっても全然思い出せないのだ。

 益々頭が痛くなって、こめかみを手で押さえた。

 「もし姫様に何かあったら、このモーン死んでも死にきれぬ所でしたわい」

 モーンは、益々渋い顔になり、長い溜め息を吐いた。


 「・・・・分かったから、そう大きな声を出さないで。頭に響くわ」

 「自業自得でございます」

 冷たく言い返され、流石のサラも返す言葉が無い。

 「悪かったわ、心配させてしまって・・・」

 珍しく、神妙な顔で謝った。

 記憶は無いとは言え、みなの前で無様な姿を見せた事を、少しは後悔しているようだ。


 しかし、それもこれも、シャークがあんなきつい酒を飲ませたからに他ならない。

 面白い奴だけど、男としては最低だ。

 それが、サラのシャークに対する女としての評価だった。


 「・・・ところで、レドルドは?」

 部屋の中を見回し、彼が居ない事を不思議に思うサラ。たとえサラが苦手であっても、仕事に徹する男なのである。旅に出てから、片時も側を離れた事は無い。

 サラが命令しない限り、常に傍らにいる男だった。


 「アリナ殿の部屋におります」

 重々しい声で言ったモーンに、彼女はにやにや笑いを送った。

 「へぇ、すみに置けないわね。何時の間に、そんなに仲良くなったの?」

 こほん。老紳士は、苦々しい様子で咳払いした。


 「只今、説得中にございます。姫様の命令通り、あの者はどうにか旅を止めさせようと七八苦しているのでございます。アリナ殿は、相当の頑固者でございますぞ」

 なんだ、そう言う事か。


 「・・・全く。好きな女の一人や二人、上手く説得して見せろって。————仕方ないわね、アリナをここに連れて来て頂戴」

 サラは、頭を押さえながら、面倒臭そうに言った。


 「そうは言いますが、惚れられた女性ならともかく、惚れた女性には、男と言うのは弱いものなのでございます」

 「そう言うものかしら?まあいいわ、さっさと呼んで来てよ」

 「はぁ・・・・」

 嫌々ながら部屋を出たモーンは、しばらくしてアリナと共に戻って来た。

 その後ろには、すっかり意気消沈したレドルドがいた。

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