ふところ島のご隠居・第四部・絆編
KAJUN
第四部 絆 編 (きずなへん)
第一章 八つ的 (やつまと)
第1話 鎌倉の大祭、ひらかれること
第四部
第一章
一
奥州合戦終了の同年、建久元年。
空は、からりと晴れている。
夏の暑さは薄れてきてはいるものの、すこし体を動かせば、じっとり汗ばんでくる。
心地よい浜風が、
「
その風を背に受けながら、大勢の人々が、にぎにぎしく鶴岡八幡宮にむかって歩いてゆく。
男の
男たちは
女たちは、買い物と世間話に夢中。
子供たちは、てんでに追いかけっこして、はしゃぎ回っている。
蒸し餅、
人々は米や布を貨幣にして、近頃は、宋銭も飛び交っている。
人々の楽しげな喧騒がむかう先には、激しく打ち乱れる
怪力自慢が大岩を持ちあげる。
女の
辻法師たちが荒くれ声を張りあげて、怪しげな説法をまくしたてる。
……そんなにぎわいの果てに、朱塗りの大鳥居が見えてくる。
ここにもたくさんの「宇宙静謐」「干戈永収」の
人々は、源平池にかかる、朱塗りの木橋を渡る。
すると遠目にも映えるのは、紅白の塗りもあざやかな鶴岡八幡宮正殿で、北山の緑を背負って、
正殿の手前に見えるのが、
これは参道を一直線に横切る、細長い馬場である。
あたり一帯、すでに群衆のざわめきに埋めつくされており、
馬場殿の中央の畳に座り、馬場を見おろしているのは頼朝である。
盛綱と結城朝光が、左右を固めている。
「
「はい」
「乳をもて」
「ハッ」
なみなみと満たされた乳の鉢を、景義は、ぐいと、ひと息に飲み干した。
この時、ひとりの雑色が慌てた様子で駆け込んできて、頼朝の御前に大事を報告した。
射手のひとりが、稽古中の事故で怪我を負い、まったく動けぬ状態だという。
御家人たちのあいだに、ざわめきが広がった。
すぐに代役を立てねばならない。
熟練の武者なら誰でもいい、というわけではない。
神事の射手であるため、数日前から精進潔斎して、身を清めている必要がある。
祭り気分に浮かれたこの鎌倉に、そのような武者が、いようはずもない。
「このような
「いかがする?」
「射手が揃わねば、神事は進められぬぞ」
するとこの時とばかりに、景義が杖を突いて立ちあがり、頼朝のほうを向いて、かしこまった。
「二品様、ご心配めされまするな。この景義、このような万一の場合に備え、ぬかりなく代役を準備してございますれば」
「さすがは、大庭平太。――代役は、誰ぞ?」
頼朝が尋ねると、景義は野太い声で、はっきりと答えた。
「河村三郎
「河村の……三郎……?」
頼朝は目を細め、首をかしげた。
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