第7話 暗闇で見た希望

その後どうなったかって…?俺が聞きたいよ。

気がついたら木に逆さに吊るされてる気持ちになってみてよ。ここは何処で、何があった。


「クッソが……。」


木の枝から一気に起き上がり、そっと下を確認して飛び降りる。幸いそこまで高さはなかった。その代わり木の幹のささくれが腕に傷を作りやがった。そんなことに少々腹を立てながらも勘頼りに歩みを進める。立ち止まって何もしないよりいくらかマシだと思ったからだ。みんなが無事かも気になる。学校にテロが起きて山谷は血を流した。外へ出てみれば急にトラックに詰められて誘拐。その後は空の旅という訳だ。考えただけで頭が爆発しそうな情報量だ。


「結局…俺の能力は訳の分からんタイミングで空を飛ぶ。ってことであってるか?インチキ」


グチグチ文句を垂らして歩いていると遠くに道路が目に入った。しかも見覚えのある。


「あれは…家の近くじゃないのか??」


道路の方へ近づいて確信に変わった。ここは家の近くのちょっとした自然だ。無駄に木々が多いけどなんでここだけ残しているのか、という地点はここに限らずよくある。緑を少しでも残してエコだの環境を守るだの垂れているのか?

くだらん。そんなことでは何も変わらないっての。さて、ここから行くならまずは学校だ。健太と名乗る男の生死すら俺には分からない。そう考えると疲れきった足を動かして前へ前へと進んだ。

ようやく学校が見えるところまで来た、訳だが。凄い数の消防車や警察が居るではないか。

不発に終わった爆弾に着火した可能性が高い。

正直今の状況を詳しく知るには話を聞くのが近道だ。だがリスキーでもある。俺がどうやってここまで戻ってきたか。本、敵の曖昧な情報。根掘り葉掘り聞かれるだろう。中には常人には都合の合わない非日常的要素が含まれているものもある。

なんなら正直に話しても頭を打ったとか何とかで病院なんてこともあるかもしれない。

コソコソと物陰から遠目に学校を見ていると、

後ろから肩を叩かれた。


「ちょっと君、何してるの?」


「わわ、すいません、!」


振り返るとそこにはニヤニヤした健太がいた。


「驚かせるなよ!!…ったく、」


健太はニヤニヤしながらもかなり疲弊していた。服はビリビリになっているし、怪我もしている。黒いTシャツに大きく空いた穴から露出した腕やみぞおちに赤黒い火傷をおっている。他にもあちこち怪我していて立っているのがやっとかと思われる容貌であるものの、彼は笑顔で立っている。


「はは。悪いな。ところで蝶元、他のみんなは……?」


「……分からない。俺だけが能力で助かってしまったんだ。」


「ふむ、すぐに助けるのは危険すぎる、状況をと整えよう。」


「いやいやいや。まずは健太さん、あんただよ!その傷大丈夫なヤツか?!」


健太は火傷を撫でるように手を当て笑顔を崩さず大丈夫と俺に伝えた。その後ついてくるように言われた。こんなことの後だ、知らない人について行かないだのなんだのはどうでもいい。何かあればテロに巻き込まれたとでも報道してくれれば満足だ。そんな投げやりな気持ちを持ちつつ健太のボロい軽トラに乗って彼の家へと向かう。


「少し町外れだけど、心配しないで。変なことはしないさ。」


「はっ。不審者が他人のために重症負うか?」


案外長いような道のりはあっという間ですぐに町外れの健太の家に着いた。家、と言うよりかは廃墟であった。コンビニくらいの大きさの鉄製の建物で所々赤く錆びている。家の周りも雑草が覆い茂り、辺りに他の家も見当たらない。遠くに小さく街が見える。その程度で他は木々と植物の森である。この建物だけ社会から疎外されたような孤独感がある。


「ずーいぶんと、古臭い家だな…」


「酷いこと言うなぁ、これでも素敵なマイホームなんだぜ?…まあ実際ぼろだけど。」


そう言って中に案内してくれた。内装は学校の理科室を頑張って家風にした、としか言いようがない。理科室特有の黒く角張った机にいくつか丸っこい椅子が付属している。洗面所も白い排水溝にホースのような蛇口。酷く水垢がついていて、排水溝には気色の悪い色のドロドロがへばりついている。電気も切れかかった蛍光灯が細々と灯している。


「な、内装はなかなか…」


「無駄なフォローは要らん。ボロくそさ。悪いがそこの包帯を腕に巻いてくれんか。」


「あ、あぁ。」


新品の包帯から切り離されて置いてある包帯の裏には黄緑色のナニかが塗ってあり、それをつまみあげて俺はほんとにいいのかと健太と目を見合わせる。無言で頷く健太の腕のあまり目立たぬ切り傷に包帯を巻き付けてやった。そして片手を上げ礼をしつつ、話題を切り出す。


「さて、何から話そうか。まずは生きていてくれてよかった。守りきれなくてすまない。」


謝罪されるとは思っておらずキョトンとするが、すぐに泡のように疑問がフツフツと湧いてくる。


「…守りきれない、とかそんなのはどうでもいいんだ。アイツらはなんだ、。俺のクラスメイトはどうなるんだ。」


「このままだと死ぬかヒトでは無くなる。」


「…!!アイツらは、、嫌な奴も嫌いな奴も、いるけどさ、。一応……仲間だったんだよ。みすみす黙って殺すことは…。」


「…。分かってる。私は…な。今まで奴らに捕われていた身なんだ。」


「…!奴らに……?」


「ずっとずっと脱出の機会を狙っていた。奴らの会話から君について知り逃げ出してきた。

君が……私の……最後の希望なんだ。」



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人鳥伝記 光竹 @magic-bb

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