第5話 無力
ゾロゾロと押し寄せる黒服たちに対抗する術は持っていなかった。周りを見ると仲間と思わしき黒服が無印のトラックを何台も学校前に止めていた。あの中に積まれるのだろうか。前へ腕を引かれ数歩進まされた。そして山谷を強引に奪い取ろうとしてくる。
「触んなよ!!」
無言で山谷の首に小型ナイフを当てられ、仕方なく離す。
「ら、乱暴するなよ!」
「…君達を傷つけるつもりは無い。少なくともここではな。」
「さてさて…。邪魔もなく大成功、かな。
その怪我の子は治療だ。ここで死なれても困る。」
屈強な男が山谷の傷口に触れた。触れた途端に、目に見える速度で傷が治っていった。
周りは目を疑い驚いた。
「あ、そうだそうだ。あれの回収を忘れてた。」
蝶元はすぐにそれが自分の内ポケットに収まっている本のことだと分かった。幸い、あまり外目からは分からないくらいの膨らみだ。この本を、隠し通さなくては。山谷がひとまず助かり心に少し余裕の生まれた俺は作戦を練る。
「蝶元君…君、魔肝物。持ってるよね?
ほら、能力を譲渡するあれ。今どこにある?」
魔肝物。それがこの本の名前らしい。しかし、なにか違和感を覚えた。わざわざ、魔肝物という名称を用いることに。もしや、本であることを知らないのではないだろうか。いやまずは時間稼ぎだ。
「教室に置いて来ちゃった…。バックの中のお守りの中の札だよ…」
「…っち。バックの中だな?君の席は?」
後ろから2番目の窓側と伝えるとすぐに周りの黒服と会話を始めた。
「MGさんはトラックで同伴して下さい。」
「いや、今すぐWGとコンタクトをとって魔肝物を回収しろ。先に詰め込んでおく。」
「御意。」
屈強なリーダーとみられる男の名はMG。
中で暴れていた女はWG。コードネームか何かだろうと察した。しかしマズイ。このままでは結局バレる。何とかしなければ…。黒服が数名小走りで玄関から入っていった。その間に俺たちは1人ずつスマホを回収され、手足を縄で縛られトラックのトランクに詰め込まれる。中には抵抗しようとする者もいたが、腹に蹴りを入れられると黙った。ここは黙って従うのが正しいのかもしれない。通りの方へ目をやる。通行人がこっちを見て通報するかもしれないからである。そこで気がついた。俺たちの周りに青白く薄い膜がドーム状に貼られていることに。恐らくこれも誰かの能力で外から認知されなくなっているのだろう。そうでなければ何故こんな、悠長に行動できるのだろう。一人一人しっかり持ち物検査をされている。本が見つかった時魔肝物とバレないだろうか。策を講じなければ。黒服はその後も数刻が経つも出てこない。階段がもうないからであろうか。そういえば爆音はしないが窓から爆発の火が見える。何故、音が漏れてこない。いつから。そんなことを考えているうちに次は俺が持ち物検査を受ける番だ。
「ポッケん中全部だしな。」
「あぁ…。」
スマホを無造作に渡し、ポケットティッシュやハンカチ等使いもしないのに無駄に入ってる物をひとつずつ渡した。その際巧妙に1枚ティッシュを抜き取り丸める。そしてポケットからだす。
「…鼻水も欲しいのか…?」
「いらねーよ。さっさとしまえばっちぃ。」
できるだけ背筋を伸ばし誤魔化した胸ポケットの本は見つからなかった。その後手足を縛られトランクに放り込まれる。
「大丈夫か、蝶元!」
草田や春山が身を捩って近づく。なかなかに狭い。しかし換気性は悪くないため息苦しくはなかった。
「なんとかな。」
その時MGの元に黒服が戻ってきているのを見た。その黒服は爛れ、傷をチラつかせていた。
「彼のバック…回収しました…途中でヤツが…」
「関係ない。WGに任せておけ。さあ貸せ。」
無造作に漁りこっちを見る。ホントにあるんだろうなと目が言っている。
「どれだ!どこにある!!」
MGはトランクの端っこにバックの中身を全部だし、どれが魔肝物かと俺に問う。
「あれれ、落としちゃったのかな、こん中にはねぇなぁ…」
ここが肝心である。何の変哲もない生徒手帳をMGに見えるか見えないか位の仕草で体の後ろに運ぼうと体を少しよじる。
「おい、蝶元。何してる。」
すぐに身体を押し飛ばされ生徒手帳を回収される。そこにはお守りが挟まっている。魔肝物でもなんでもない普通のお守り。しかし隠そうとした行動がスパイスとなり、MGは満足そうな顔でそれを手に取りドヤ顔をする。
「最初から出せば可愛いのに。」
「…っやめろっっ!」
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