第4話 連鎖

囮になろうとした春山を見つめる怪しい女。

しかし写真のようなものを懐から出し、見比べて嘘は直ぐにバレる。


「んん、警戒されちゃったものね。君達全員って訳じゃないんだけど。蝶元本人を1人渡してくれれば済む話なのに…。」


この女は恐らく生きてる世界や主観が、普遍的なものからかけ離れている事だけが辺りに伝わった。その時、廊下を一周して後ろに回り込んだ他クラスの先生が刺股をもって横から女を壁に取り押さえた。


「動くな!不審者!

そしてみんな、4階が火事だ!真ん中の階段を使って避難を……」


「邪魔…しないでくれる?」


刺股が折れることも無く女の方から刺股が粉になっていく。高い金属音が響き、刺股を持った屈強な男性教員の腕の筋肉が膨らみ、破裂した。


「うぉあああっ……?!あぁああっ…!!あ。」


叫びがかき消されるように先生の頭がプチャという音を立てて破裂した。


「うぉお?!みみ、みんな!下がれ…!」


他クラスの屈強な男性が有り得ない死に方をして、動揺しつつも、生徒を守ろうとする先生。

しかし、生徒の不安が消えるはずもなく、みな立ちすくむ。俺はと言うと山谷といつも一緒にいる女子達に支えられていたのだが、教員の死を目の当たりにして驚き俺の支えを解いた。

床に打ち付けられ、咳き込んでしまう。


「蝶元。みーっけ。怪我してる子が蝶元だったのね?」


死ぬ覚悟というのはすぐには出来ないものである。これといった才能や趣味もなく楽しい人生は送っていなかった。それでも、死んでしまえば何もかもおしまいになってしまう。


「…なん……で?なん…デ俺…なん…ダ…、」


心の底から出た声。差し伸べられた手はいつも自分で無下にしてしまう。その結果ろくな結果にはありつけやしない。そして最後には訳の分からない女に粉々のグチャグチャ。笑えるオチではない。その問いに女の目が細まり、マスク越しでも分かるいやらしい笑顔。


「そんなの…決まってるわ。

あなたが生きているからよ。」


「はは…ははは……。冗談…キツ…ィナ。」


段々と身体が痛み意識が朦朧としていく。最後の最後まで全否定されてしまったが、俺の人生はここで終わりかもしれない。女が近づいてきているのを薄目で確認した。


「彼に触るな!うぉあああ!!」


教員がタックルしようと女に走っていき、肩と首がお別れした。小さな水素爆発のような音と共に派手に火花が上がり室内がシャワールームと化した。草田と、春山が駆け寄りなにか声をかけている。他はどこへ行った?逃げた?死んだ?…もう助からないしどうでもいい。


「ま、どうせだし??派手にした方が警察にもバレないよね。……起爆ー!!!……。」


…何も起こらなかった。戸惑いつつも気分を悪くした女はさっさと攫おうと蝶元に手を伸ばす。

今度はその手が爆発した。


「あぁああああ?!…!!!」


女の手首から先が黒く腫れ上がった。酷い火傷である。最後にいいものが見れたと、少しだけ思った俺であった。


「状況が悪すぎやしないか??

お前に復讐に来たぞ。WG。」


「…モルモット風情が…!!」


女をWGと呼び、現れたのは本を寄越した男、健太であった。彼と、女の目には両者明らかに殺意があった。


「山谷を…助けテ…!」


俺は健太の背中に話しかける。しかし答えたのは女だった。


「そんな女、もう死ぬんだから置いて逃げればいいのに。ごちゃごちゃ五月蝿いわね…!」


「あ…?」


手を焦がされ苦痛の中皮肉を垂らすWGに俺は腹を立てた。人を人と見ていないその目玉も、穏便に近づくための黒い服も、やり方も、言葉も全て気に入らない。薄れゆく視界を振り払ってよろよろと立ち上がる。


「蝶元。気持ちはわかるが逃げろ。堪えるんだ。その子を抱えて階段から逃げろ…。」


「……っ…。」


震える女子から動かない山谷を引き取り持ち上げようとするも、膝を着いてしまった。俺には女の子1人持上げる力すら残されてはいなかった。唇がちぎれるほどに噛んでいた。


「…早く行くぞ。さぁ、来て。」


春山が山谷を草田の背中に乗せ、今度は俺に手を差し伸べた。ヨタヨタと歩いて階段に向かった。


「お前の相手は私だよ!」


背後から凄まじい爆音がした。爆発により崩れる建物の音、火が4階から火がついたものが沢山降ってきたのだろう。焦げ臭さも増した。健太の身を案じることも出来ぬまま前へ進む。階段は幸い崩れていなかったため、他クラスの奴らもそこそこいる中、落ち着いて下へ下へ進んだ。爆発は度々起こり、いつこの学校が崩れるかも予想ができない。外靴を出す余裕はないため、上靴のまま外へ出る。学校から出て、振り返ると火事が起こる中爆発も起こり、傍から見るとテロであった。


「はぁ…はぁ。何とか逃げきれたな…。」


校門の方へヨタヨタと歩きながら呟く。健太は大丈夫だろう。彼には力がある。そう簡単には死なないだろう。そう信じることにした。廊下を上手く使い、避難してきたヤツらが校門前に少し居た。およそ100人と少し…、1年生は火事の起こった4階で生活していたため、かなり少なくなっている。逆に2階の3年生は2クラス分くらいいた。残りは2年生。少ないことに変わりは無いが、全校の6分の1くらいが避難できていたのだ。山谷を背負った草田と肩を貸してくれた春山もほっとした顔をしていた。


「蝶元、なんだったんださっきの、、」


「WGは知らない。初対面だ。健太さんは会ったことあるけどね。」


草田と、春山に説明した。そして山谷を助けなくては。保健室の先生どころが、先生が1人も見当たらない。やられてしまったのだろうか。


「あれれれれ、沢山でてきたと思ったらまさか君もいるとはねーー?」


屈強な、肉体を持ったタンクトップの男が

校門の影から出てきた。そして俺のことを知っているということは、こいつはまさか。


「WGは強かったろ?逃げきれたのか?」


「……あんたは…WGの仲間か…?」


「…まあまあ、そう焦るなって。」


やっと整ってきた体調の中、また厄介な人物と出会ってしまった。WGの仲間で間違いはないだろう。幸いこちらには100人以上の味方がいる。しかし、こいつがWGと同じ能力者であれば、、


「俺はWGみたいに乱暴じゃないからさ。

抵抗しなければね。捕らえろ。」


草や、影から大量の軍のような列を組んだ男達がぞろぞろと迫ってくる。やはり、現実は上手くいかないらしい。今度こそ逃げられない気がした。

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