番外編⑱ 貞操逆転世界の合コンの話③

「ふぃぃ……最後はコーラと。これで全部だな」

 ドリンクカウンターでみんなの注文のソフトドリンクをどんどん注いでいく。

 俺が店員の格好をしてドリンクをセルフサービスすることで人件費を浮かせて今日の激安ドリンク飲み放題を実現しているのでここはクラスのために頑張ろう。


「おかえり、恭介くん。じゃあみんなに配って回るね。え~と、まずはウーロン茶の人~」

 俺が二階に持って上がったドリンクがいっぱいに載ったトレイを陽菜が受け取り、注文した人に配っていく。

 うちのテーブルは人生ゲームなんかで遊びつつなんのかんの言って、ホスト側というかお店のポジションでご奉仕中。


「ちょっと、小烏こがらすは風紀風紀言いすぎなんだって」

 女子の声が響く。ちょっと不満げな声、慌ててそっちに向かうとゆうきの体をグイッと引き寄せて女子から守るように自分の後ろに回らせているひよりの姿があった。


「なにがあったの?」

 とりあえず事情を聞くために女子とひよりの間に入る。テーブル配置的にはちょっとチャラい系の女子が3人と男子側にはゆうき、木下くん、皆川くんという俺の男友達3人組だった。

「あ、多々良くん。このテーブルのメンバーでミニゲームをしていたんだけど『ちょっと女王様ゲームをしよう』って話になっちゃって……」


 木下くんから聞き出した話をまとめるとこんな感じだ。


 まず、他のテーブルと同じように女王様ゲーム(本来禁止していた元の世界の『王様ゲーム』と同じもの)をしようっていうことになって女子がくじを作って「女王様だ~れだ?」とゲームが始まった。


 最初は何回かゲームをして男子も女子も均等に女王様になって、決められていた通り当たり障りのないものマネとか変顔とかたわいのないゲームで盛り上がっていた。


 ところがある程度回数をこなしてきたところから何故か女子が女王様になる回が増えてきて、ピンポイントでゆうきや木下くん、皆川くんが狙われることが増えてきて、尻文字とかちょっとセクハラじみたゲームが増えてきた。


 どうも自分が狙い撃ちされていると身の危険を感じたゆうきが「次のゲームで終わりにしよう」と提案。

 くじに何かしら仕掛けられているんじゃないかと疑いつつも、そこまでは言えないので打ち切らせようとしたらしい。


 最後の一回ということで命令されたのが、「全員が3番の胸を揉む」だったのだが3番は狙い撃ちされたゆうきで、ゆうきの胸を揉もうとして女子が動いたところで雰囲気のおかしさに気付いたひよりがゆうきと女子の間に割って入ったということだった。


「う~ん、最初に約束したよね? 男子の嫌がることはしないって……みんながそうやってルールを破っちゃったら一高との合コンなんて出来ないしさせられないよ」

 だんだんゲームが盛り上がっちゃって、最後に羽目を外したくなっちゃったのも分かる。


 ゆうきは今ひよりの後ろから俺の後ろに来て、俺の左腕にぎゅっとしがみついている。

 大丈夫だよという気持ちを込めてゆうきの頭を軽くなでてやる。


「でも、それまではゆうきくんも笑っていたし……」

「だって、服の上からなら許されるかと思って……」

「小烏も恭介くんの胸を触ってたことあったでしょ?」

 いや、男子の胸を揉むのは服の上からでもダメでしょ? 最後のは初めてひよりと会ったあの時のことかな? 確かにひよりは初対面で俺の体を触りまくって筋肉の確認をしたけど、あそこにイヤらしい意味合いはなかったからなぁ。


 はぁ……俺は触られても平気だけどゆうきは嫌がるから止めてあげてって言っても意味合い的には難しいよな。

 ひよりも自分が過去に俺の体に触っているだけにそれ以上は理屈でやり返せないみたいだ。


「し、しかし……男子というのは守ってやりたいと思うものじゃないのか? 私は男子が困っているなら助けたいと思うし……いや、それは男子も女子も関係ない。困っている人間を助けたいと思っているだけだ。それに……私の好きな人は本当に困った時は必ず駆けつけてくれる。そんな相手の前では私だって可愛い存在でいたいんだ」


 ひよりが真っ赤になりながら女子三人に言い聞かせている。理屈じゃなくて感情から……自分の素直な気持ちを語るひよりの顔を見て三人がポカンとしている。


 ひよりが俺の方を見るのでにっこりと笑顔を返す。一方でひよりがあまりに俺への恋心を全開にするのは今の関係だとどうだろう……と思った瞬間、ひよりが慌てて「の、がだな……」と仮初の恋人の名前を出して誤魔化している。これ誤魔化せるのか?


「小烏……そういう顔もするんだな」

「恋する乙女の顔じゃん!!」

「いや、いい話を聞かせて貰った……小烏みたいないい女になって一高男子を落すぞ!」

「「「「「「「「おーーーー!!!!」」」」」」」」

 最後の雄たけびじみた声は三人以外の女子からも一度に上がってちょっとうるさいかも。


「アンタら下まで声が響いてるわよ~。トラブルにならなければ私は知ったこっちゃないけど、店の迷惑になんないようにね」

 おわっ!? いつの間にか階段を上がってきて大部屋の入口のところにちさと先生がいた。相棒? のみなも刑事も一緒だ。

「ん、ちさとと一緒に何事もないかを確認に行こうって言われて」

 俺の目線を受けてみなもさんが答えてくれる。相変わらず先生も過保護なんだから。こっそり見守ってくれたんだな。

 仲間外れにされて寂しかっただけかもしれないけど。


 そこからはテーブルとか関係なく、最後の三十分はみんなで楽しくジュースを飲んだりお菓子を食べたりした。こそっとちさと先生とみなもさんがアルコールを持って参戦して、俺にお代わりを要求してくるのでしっかりと二人の分は別会計にしておく。


 前田店長との約束はクラスのメンバーのソフトドリンク飲み放題ってルールだしね。



 合コン全体を通して女子がみんな大人しく頑張ってくれたので、俺の方から特別サービスで右手の力こぶを作って触らせてあげた。

 酒の席(ではないけど)ってことで俺ならこのくらいはなんとも思わないし……女子はみんなドキドキしたみたい。こっそり大人二人組も混ざっていたりするけど。


 陽菜はそれほど思う所がなかったけどひよりたちにはかなり嫉妬された。貞操逆転世界の女子的には独占欲が湧く部分だったらしい。ちょっと反省。


「は~い、じゃあお開きにしま~す。ゴミは各人持って帰ってね。恭介さんは申し訳ないけどこの後、お店のグラスとお皿洗いだけして貰えると助かります」

 はいはい今回の合コン、俺はいけにえですから。


「恭介、ありがとう。助けに来てくれた時ドキドキした。カッコよかったぞ」

「恭っちはサービスし過ぎ。あーしが男子に太もも触らせたら怒るくせに」

「きょーちんの体を触っていいのはまるたちだけなんだよ」

「恭介くん、お皿洗い手伝うよ。早く終わらせて一緒に帰ろ」

 はい、陽菜だけ平常運転でした。


 後日、合コンのアンケートをクラス全員でとって合コンで一番印象に残った付き合いたい男子、付き合いたい女子の投票してもらったら男子の一位が俺で、女子の一位はひよりでした。


 おかげで男子には筋トレブームが、女子は男子を守れる女になるためのカッコイイ女になるというブームがやってきた。


 そして、今回の合コンで全部で4組もカップルが成立してしまった。う~ん、修学旅行前に恋人が欲しいっていう欲求と、一高の男子と付き合うなら俺達と付き合って欲しいっていう男子の希望が合わさっちゃった結果みたい。


 まあ、合コンを開いた甲斐はあったのかなって思うことにしよう。


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ちょっとした小話


みお「『第一回合コン反省会~!』というわけで恭っち……正座!」

クッションを置いた上で恭介が正座をさせられる。

しずく「恭介さん……なんで今みんなからお説教されようとしてるか分かってるよね?」

恭介「えっと、やっぱりあの二の腕の力こぶを女子みんなに揉ませた件かな?」

まる「そうなんだよ。あれはきょーちんがいくら貞操逆転男子で自分は平気って言ってもエッチすぎたんだよ」

ひより「そうだぞ、あれは風紀委員としては見逃せない破廉恥はれんち行為だったぞ」

いつものみおの部屋、合コンが終わって解散した後でいつもの金曜日の集まりということで恭介と5人で集合した。

陽菜「う~ん、恭介くんが二の腕を触らせるのってそんなにエッチなのかな?」

四人「「「「これだからハレンチ異世界貞操逆転世界バカップルは!!」」」」

恭介&陽菜「「ひ~んっ」」

しずく「恭介さんも陽菜ちゃんも考えてみて。逆にこの世界の女子は二の腕を男子に見せたり、何なら触られてもそこまで特別に感じないけど『陽菜ちゃん二の腕触らせて』って男子が言って来て陽菜ちゃんの二の腕を揉みしだいても平気?」

恭介「絶対ダメ!」

陽菜「絶対ムリ!」

ひより「それなら私たちの気持ちも分かったか? そのぐらい嫉妬してるということだ」

みお「そんなことより、これ見てみなって恭っち」

そういうとクラスの女子グループラインを見せられる。


(ライン画面)

『男子の二の腕の硬さってちんぽの硬さってマジ』

『マジマジ! アソコが硬い男子はやっぱり二の腕もガチガチなんだって!』

『うわっ、じゃあ今日私たち実質恭介くんのおちんちんに触ったのと同じってこと?』

その後はスタンプの乱舞である。お祭り騒ぎになっていた。


真っ青な顔になる恭介。

恭介「そういえば、中学生の頃に『女子の二の腕の柔らかさはおっぱいの柔らかさと同じ』って噂が流れてた……検証したことないけど」

みお「あ~、たまに恭っちがあーしの二の腕ぷにぷにしてるのってそのせいなんだ」

まる「(二の腕をフニフニしながら)確かにこのくらいかもしれないんだよ」

全員の視線がひよりの胸と二の腕に集中する。

「ちょっと待て、お前たち! 言いたいことがあるならはっきり言ったらどうなんだ!!」

この後、みんなでひよりに正座をさせられて、みおが噂の火消しをしてました。


※作者からのお知らせ

公開日時を間違えました。他の作品を同時投稿しているがゆえのケアレスミスです。

次話は24日(金)18:00にアップします。

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