番外編⑰ 貞操逆転世界の合コンの話②
「それじゃあ、3年5組合コンを始めたいと思います」
生徒会長とクラス委員長を兼任しているしずくが(普通は生徒会長が出たクラスは新たなクラス委員長を立てるらしいけど)、宣言する。
居酒屋の二階、お座敷席なのでクラスのみんなの私服姿が珍しくちょっと面白い。
しずくが目配せしてくるので立ち上がって乾杯の音頭をとる。
「えっと、今日は3年5組36人、全員参加ということで本当にありがとう。せっかくだからクラスの懇親の機会だと思ってみんなで楽しんでもらえると嬉しいです。カンパ~イ!」
俺の乾杯の合図で全員がドリンクを掲げる。
「「「カンパ~イ!!」」」
チンッチンッとグラスが合わさる音がして合コンが始まる。
今回のクラス合コン? は男子17人+ゆうき1名、女子18人をそれぞれ3人ずつのグループに分けて一テーブルに女子と男子が一組ずつついて6人のテーブル6つでスタートする。
テーブルは長方形でそれぞれ片側に3つずつの座布団が置いてあるので普通にそこに座って向き合う。
男女のグループが合意すればテーブルのチェンジもでき、シャッフルタイムがあるので色んな相手と話せるルール……なのだが俺のテーブルだけ変則的。
恋人席ということで彼氏や彼女がいるメンバーが集められている。
俺と陽菜、しずくとみお、ひよりとのどかがそれぞれ付き合っていると思われているので俺の参加しているグループは俺、陽菜、しずく、ひより、みお、まるの6人。要するにカレシ、カノジョがいるのに俺達私達の邪魔するんじゃないという隔離テーブル。
みおとひよりがタチ? というか男側ということで俺の方の席に座ってるけどいいのか?
テーブルごとの自己紹介が始まる。あくまでも一高との合コンに備えるための練習を兼ねているのでクラスメイトだけど自己紹介からだ。
「それでは自己紹介を始めたいと思います。まずは私から。3年5組のクラス委員長をしています西園寺しずくです」
「えっと、俺は多々良恭介。ドリンク担当なんで飲みたいものがあったら注文は俺まで」
「
「藤岡みお、あーしはインスタグラマーで卒アル委員してるから今日の写真も撮っちゃうからね」
「姫川陽菜です。えっと……合コンは初めてなんで頑張ります!」
「まるなんだよ! 今日は楽しみなんだよ! 一番になるんだよ!」
握りこぶしを握ってやる気になっている陽菜が可愛い。そしてのどかは何をして一番になる気なんだ!?
俺達の間で自己紹介する意味があるのか分からないけど、とりあえずこのメンツで下からクラス全員の分のドリンクを運んだり、唐揚げなんかの料理を準備して持ってきた。
原材料費なんかはみおが出してくれたし、他のみんなはスナック菓子とかだけど陽菜たち弁当組が唐揚げとかポテトみたいなみんなの分の料理を昨日から準備してくれた。
「えっと……このテーブルのみんなのおしぼりの向きは?……」
陽菜がブツブツ言っている。
「おしぼりの向きって?」
陽菜のいうことなら何でも気になる俺が聞いてしまう。
「うん、クラスの女子で打ち合わせをして同じテーブルの男子で『この人良いな』って思ったらターゲットが被らないように自分のおしぼりで手を拭いてテーブルに置くときに、狙っている男子の方におしぼりを向けて調整しようって話になってて……あ~、このテーブルは全員恭介くんの方を向いちゃってるね」
陽菜が苦笑いをしている。いや、地味に嬉しいけど誰かにこのテーブルを覗き込まれたらなにかとマズいので。
おしぼりを陽菜が弄っているなぁと思ったら「ひよこ!」と陽菜が言って皆におしぼりヒヨコ(ひよこの形に丸めたおしぼり)のおしぼりアートを見せてくれた。
おお、陽菜凄い! 多分俺たちを喜ばせようと思って真面目に合コンを調べたんだろうなぁ。1000円札でターバン野口英世を作る合コン芸とかあるよね。
「おちんちん!」と言ってみおが出したのはリアルなズル剥けおちんちんのおしぼりアートだった!
どうやって作るの?
「いや、みお、それをクラスの他の女子には絶対に教えるなよ! 一高の男子にやったらその時点で脈がフラットになって赤い糸が切れちゃうから」
さあ、改めて合コンってここからなにをするんだ?
俺はこういうことに慣れていそうなみおの顔を見る。今回の企画でクラス委員長のしずくのブレーンをしてくれていたのはみおだった。
「合コンの定番ってやっぱりゲームだよね」
俺の視線に気づいたみおがそう言って立ち上がる。みおが何かを提案しようとした瞬間、のどかが大きな声を上げてこれまた大きな箱をテーブルに置いた。
「人生ゲームなんだよ! まるはこれが楽しみで昨日は眠れなかったんだよ」
ご、合コンで人生ゲーム!? それってありなの?
「合コンで人生ゲーム? えっと、まるっちそれは流石に……」
みおが否定しようとするが、のどかの悲しそうな顔を見て途中で言葉が出なくなる。
「「「「「うん! 人生ゲーム最高!」」」」」
俺たち5人の声がハモってそれを聞いたのどかが嬉しそうににぱーっと笑った。
どうしても俺たちはのどかを甘やかし気味だ。というか本当に裏表もなくていい子なので全員がのどかのことを好きだったりするから仕方ない。
今日だってひよりの恋人(本当は俺の恋人だってちゃんと主張したい!)ということになっていなかったら、男子はこぞって裏表がなくて安心できるのどかに声をかけてきただろうし。
ということで、他のテーブルではお互いを知るための「ペアゲーム」や「第一印象ゲーム」、仲良くなるための「山手線ゲーム」や「マジカルバナナ」、やるなと禁止したはずの「女王様ゲーム(元の世界の王様ゲームと同じルール)」をしている中で俺達のテーブルだけ人生ゲームが始まってしまった。
「えっと……六が出たぞ。一、二、三、四、五、六……と、升目に書いてあるのは……『隣の人から借金をしてしまい返済が滞って一回休み』……うう、また休みなのだ。そもそも、私は人から借金などしないのに、なぜ借金とか賭け事の
ひよりがかなり熱くなっている。のどかじゃないけど、負けず嫌いだしあんまりこういうゲームをしたことがないからなぁ。
のどかはお金が減ったり増えたりしながらその度に10000円の券じゃなくて1000円の券で貰おうとするので手元にお札の数だけはめちゃくちゃ増えて本人は凄く嬉しそう。
しずくは手堅い堅実ルートに進んでコツコツと着実に前に進んでいく。所持金もコマの位置も現在トップ。
みおはハイリスクハイリターンルートを選び、さっきから所持金もコマの位置も乱高下、評価しにくい。でも楽しそうな人生ではある。
そして俺と陽菜なんだけど……今俺のコマが刺さっている車のフィギュアの上には陽菜のコマも刺さっている。
言っている意味が分からないかもしれないけどこうなってしまったのだから仕方ない。
ゲームが始まってしばらくしてから俺が結婚のコマに止まったのが事の起こりだった。
「1、2、3……と。あっ、『結婚』のコマに止まった。『パートナーを車の助手席に乗せる』って書いてあるからピンを一本取って」
俺がお願いした瞬間、みんなが自分のコマになっているピンを差し出してきた。
えっ!? 場にあるピンから一本受け取って刺すんじゃないの?
「恭介くん、私に小学校6年生の時にプロポーズしたのに、私以外と結婚する気なの?」
「恭介さん、ゲームの中くらい私と結婚してもいいわよね?」
「恭介、このゲームは結婚したら子供が生まれることもあるのだろう? 私を孕ませてくれないか?」
「恭っち、2人だったら出入りも均一化できるから……ほら、ポートフィリオってやつだから。リスクヘッジできるから結婚してお願い」
「まるは一生きょーちんと一緒なんだよ。だからまるのピンを隣にさすんだよ」
いやいやいやいや、決してイヤなんじゃないんだけどゲームのルールがおかしいから。
最終的に「もしも私たち以外の誰かと結婚したら恭介を切って切腹する」と熱くなったひよりが言い張るので諦めて5人のうちの誰かと結婚することにした。
なんで俺は好きな女の子達との結婚なのに嫌々みたいになってるの?
なんやかんやあって、
みんなが諦めきらずに勝手に盤上に『このマスに止まったら離婚する』とか書き込むので陽菜が切れてたのがおかしかった。
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ちょっとした小話
俺が結婚のマスに止まった後、
まる「それじゃあ、こっちにあるトランプを引いて一番強いカードを引いた人がきょーちんと結婚するんだよ」
しずく「ジョーカー抜きの52枚。何の不正もないトランプなのは確認させて貰ったわ」
みお「ここ一番でカードが引ける確率……恭っちに教えてもらった確率の勉強が火を噴くし」
ひより「南無八幡大菩薩! 我が国の神明! 日光の権現! ……」
ひよりが何かぶつぶつ言ってるけど「平家物語」の那須与一かな?
陽菜「小学校6年生で誓った絆は誰にも負けないんだから」
恭介「恨みっこなしで頼むよ。さあ、みんな同時に引いて」
俺が扇状に広げたトランプからみんなが一斉にカードを引く!
まる「8!」
しずく「12! ハートのクィーン!」
みお「カスった! 3って……」
ひより「来たぞ! 王様だ! 三つ葉の王様!」
クラブのキングかな? 13だよね。
陽菜「1!? うう、ハートの
まる&しずく&みお「「「負けた~やっぱり嫁は陽菜ちゃんだった!」」」
ひより「???」
この後、みんなでひよりにトランプでは
せっかく13を引いてくれたのにごめん。
〈作者の独り言〉
この話、バカバカしすぎて気に入ってしまいました。
ちょっと膨らませて別の話を書くかもしれないです。
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