番外編⑬ 賢者の贈り物①(陽菜視点)

 桜祭りでバタバタした春休みも無事に終わり、私たちは3年生に進級した。2年と3年生ではクラスが変わることもなくいつものメンバーがそのまま3年5組として揃うことが出来た。担任もおなじみの谷垣先生。

 医学部受験を目指すしずくちゃんはとっくに受験勉強が本格化していたけど、生徒会長のお仕事もあって忙しそう。


 恭介くんとひよりちゃんとまるちゃんは6月の竜王旗剣道大会に向けて猛特訓中。今年は3人+石動さんと石川さんの女子大生2人を加えて最強メンバーで挑むんだって。

 もっとも石動さんの抜けた志望大学のチームは今年の大会は4年生まで入れた本気のメンバー(一昨年までは舐めプ? っていうのをしても優勝だったらしい)で挑むそうだから流石に優勝は難しいのかも。それでも私は応援するだけだけど。

 みおちゃんはメイクの専門学校、私は短大の家政科が目標だから私たち2人は受験勉強的には少し楽で2年生までとあんまり変わらない日々を過ごしている。



「それでね、姫川さん。今日ファミレスに来てもらったのは相談があるからなの。ちょっと恥ずかしいんだけど私が付き合い始めた田中くんとの話……」

 今日の放課後は同じクラスの早川里歩りほさんに呼び出されてファミレスに来ている。ちょっと奥まった周りに誰もいない席に早川さんが座ったからなにかと思ったら恋バナだった。

 恋の相談来た~ッ! って私は実は内心のテンションは上がっている。早川さんを不安にさせたらいけないから顔には出さない。人狼ゲーム最強私のポーカーフェイスは伊達じゃない。


 あ、でもでも私がラブコメをカクヨムに連載し始めたときに恭介くんが言ってた。「ラブコメで友達キャラの恋愛を扱いだしたらその作品は終わり」(意見には個人差があります)なんだって。メインカップルの恋愛が終わった時点ですっきり物語は終了するべきで友達キャラで引き延ばしや延命を図ると大抵のラブコメはつまらなくなっちゃうって力説していた。

 だとしたらこの物語で早川さんの恋愛話をしていいんだろうか? そもそももうとっくに最終回を迎えてずっと番外編をやってるこの作品なら問題ないのかな?


「え、えっと……どういう相談なの?」

 ちょっと動揺してしまった。頑張れ人狼ゲーム最強!

「あのね……恋愛エッチについての話だからいつも一緒の綾ちゃんや雅美ちゃんには話しづらくて」

 ちなみに綾ちゃんが松本さんで雅美ちゃんが野田さんの名前だ。野田さん、早川さん、松本さんの3人でいつも一緒にいて、恭介くんは扱いしてる。ちなみにあの「みんなの恭介くん」時代に私の応援をしてくれた数少ないクラスメイトだったりする。


「ああ、三人娘の中で恋人が出来たのって早川さんだけなんだね」

「三人娘?」

「いや、こっちの話。確かに恋人に関するお話ってのろけみたいに思われても困るもんね」

 わかるわかるみたいに頷いて見せる。恋バナしちゃってるなぁ。

「そうだよね。陽菜ちゃんの周りもみんな失恋しちゃってるもんね。岩清水さんが藤岡さんと、小烏こがらすさんが丸川さんと付き合ってるんだっけ?」

 そうだった……3学期になってもいまだにその誤解は解けていない。4人とも恭介くんの恋人だなんてハーレムに入ってるなんていえないし、4人は4人で男子避けにちょうどいいって誤解を解く気もないんだけど。


「う、うん。それで早川さんの悩みってどんな悩みなの? 私で力になれるか分からないけど聞かせてくれたらちゃんと答えるから」

 隠し事だらけだ……頑張れ私。人狼ゲーム人狼ゲーム。

「えっと……本当にこんな相談姫川さんにしか出来なくて。男の子とエッチする時ってどうやって誘えばいいの? それと私……ちょっと体に変なところがあって、そういうのって男の子にどう思われちゃうかが気になってどうしても勇気が出なくて……」

 思いつめたような表情に思わずテーブルの上に身を乗り出して両手で包み込むようにして早川さんの手を握ってしまう。


 私もずっと……胸の傷のことで悩んでいたから。心臓の移植手術をした大きな傷跡。こんな傷跡があったら誰にも愛して貰えないんじゃないかと思っていたから。しずくちゃんやひよりちゃんが力づけてくれて、恭介くんがそんな不安を吹っ飛ばしてくれた。

 そんな私に悩みを打ち明けてくれた早川さんの力に何としてもなってあげたい。


「早川さん……いや、今日から里歩ちゃんって呼んでいい? 私、力になるから。里歩ちゃんの不安、すごくよく分かるよ!」

 ちょっと前のめりになっちゃってるかもしれないけど、私を選んで相談してくれたんだから全力で力になろう。

「ありがとう、陽菜ちゃん。私も陽菜ちゃんって呼ぶね。こんなことの陽菜ちゃんにしか相談できなくて……本当に助かる」

 え!? えっと……考えてみると私の胸の傷の悩みなんて里歩ちゃんが知ってるわけないんだから別の理由で相談してくれたってこと? しかも私が経験済非処女だからだった……何故か少し凹んだ。


「それでどんなことで悩んでるの?」

 気を取り直して里歩ちゃんの悩みに向き合おう。里歩ちゃんは可愛い系の女の子だ。髪の毛は肩くらいまで伸ばしている黒髪を右と左の両肩のところでくくって二つ結びツインテールにしている。胸はちょっと小ぶりだけどきちんと膨らみはあって、今は冬服の制服を控えめに押し上げている。太っているわけでもないし、身長も150㎝ちょっとくらいかな? 全体的に凄く可愛くて男の子から見ても魅力的なんじゃないかと思う。

 田中くんサイドのことをよく知らないのはあるけど、女子が積極的で男子が消極的なこの世界でも付き合うことが出来たんだし好き合っているなら問題なく次のステップに進めそうなものなのに。


「あのね……キスね、春休みに水族館に行った帰りに近くの遊園地の観覧車に乗って夕日の中で……」

 そこまでで真っ赤になってる里歩さんが可愛すぎる。

「ドキドキだね」

「田中くんが可愛すぎてキスしちゃった。田中くんも目をつぶってくれたしセーフだよね?」


 うう、ここはやっぱり貞操逆転世界だった……女の子肉食獣恋バナハンティングの相談は恭介くんには聞かせられないけど助けて欲しいかも。どうして押し倒しちゃうの? 里歩ちゃん!?

「えっと……その後距離を置かれてないなら田中くんもそろそろキスしてもいい頃だって思っていたんじゃいかな? お互いに話し合いながら合意で進めるのが一番だよね」

「そうだよね。陽菜ちゃんも多々良くんのことを押し倒したの?」

 里歩ちゃんが興味津々で聞いてくる。いや、私はファーストキスも恭介くんからだし、初エッチも押し倒してもらいました。

「えっと、そこはちょっと濁させて貰うってことで……それで話しにくいかもしれないけど体の悩みって?」

 経験豊富を装いつつ話題を変えて悩みの話を進めさせてもらう。


 しばらくモジモジしていた里歩ちゃんだけど覚悟を決めたのか、私は手を引かれてファミレスのトイレに連れ込まれた。あまり大きくないファミレスなので女子トイレは便座も一つしかないんだけどスライドするドアを開いて2人で中に入り鍵をかける。

「えっと? どうしてお手洗い?」

「流石にファミレスの席で見せるわけにはいかないかなって」

 そう言うと制服のブラウスのボタンをプチップチッと外していく里歩ちゃん。

 ちょ、ちょっと待って。


 制止する間もあらばこそ、首元のリボンとブラウスの下のボタンを留めたままの里歩ちゃんが自分の服の胸の部分を右手でグイと引いて右のおっぱいを丸出しにした。小さいけど形のいいおっぱいがまろび出るポロリする

「私ね、陥没乳首なの。陥没乳首の女の子って男の子から見て引かれちゃわないかな? どう思う陽菜ちゃん?」

 そう言う里歩ちゃんの小ぶりなおっぱいの真ん中は薄い色素だけど出っ張りの部分が全然なくて、ちょっと中心が凹んでいた。


 わ、私には貞操逆転世界の恋バナの相談は荷が重かったよ。助けてみおちゃん!

(続く)


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ちょっとした小話-Boy’s Side-

田中「ちょっといいかな? 多々良くん。相談させて欲しいんだけど」

クラスメイトの田中圭一郎が話しかけてきた。K・田中一郎じゃないよ。

恭介「どうしたの? 改まって相談なんて」

田中「最近、クラスの早川さんと付き合い始めて……それでちょっと悩み事があって。こんなこと相談できるのは多々良くんしかいないと思って」

恭介「俺に答えられる内容ならいいんだけど」

田中「クラスで数少ない非童貞経験済みの多々良くんにしか話せない内容だから」

恭介「仕方ない。そういう事なら話を聞こう」

こっちの世界の男子は猥談とか苦手だから仕方ない。元の世界の男子はこういう話は童貞も経験済みもワイワイ話してたけどな。

田中「実はクラスの早川さんに観覧車で押し倒されてキスされて……次のデートで一線を越えてきそうなんだけど……」

恭介「おお、2人が付き合ってるのは気付いてたけどそこまで進んでたんだ。でそれのなにが悩みなの?」

田中「実は……すっごく恥ずかしい話なんだけど僕っておちんちんが皮を被っててる包茎なんだ」

恭介「えっと、包茎だけど問題なくエッチできるかどうか不安ってこと?」

田中「ううん、それもあるんだけど、女の子って男の子がその……皮を被ってたらバカにしたりしないかな?」

真っ赤な顔をして椅子の上で太ももの間に両手を挟むようにしてモジモジしながら相談される。未だに高校生男子の恥じらう照れ顔は慣れない。


いや、そんなことより流石にこの世界の女子の好みは分からないから。助けてみお!


次回更新は3/31です。

友達のラブコメが始まるかと思ったら貞操逆転世界ネタになっちゃいました。

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