ひな祭りSS 陽菜ちんがお雛様ってどういう事(陽菜視点)
「そう言えば陽菜がお雛様だったよね?」
ひな祭りを数日後に控えたある日のお昼休み、お弁当を食べながら恭介くんが私に向かってそう言った。思い出すのはみんなが貞操逆転世界と呼んでいる元の世界での幼い頃のひな祭り。
—―――
幼い恭ちゃんのそんな言葉を思い出す。まだ幼稚園児だった私と恭ちゃん。その恭ちゃんがひな祭りという行事を知った時に私の名前と音が一緒なことで盛り上がったのはある意味では自然だったかもしれない。
「陽菜ちんがお雛様ってどういう事なんだよ? お雛様はお姫様だから陽菜ちんがお雛様ってこと?」
まるちゃんが聞いてくる。他のみんなも分からないって顔してる。
「ああ、俺と陽菜が小さい頃は雛飾りの前で毎年俺がお
恭介くんが確認してくる。あの写真は今も元の世界にあるんだろうか……懐かしいけどもう見ることも出来ないからちょっと寂しい。
と、そんな風に思っているとスケッチブックを取り出したしずくちゃんがサラサラと4Bの鉛筆を滑らして何かを書いている。
「こんな感じ? 七五三で着るような子供向けの着物をひな祭り用にアレンジした感じで書いてみたんだけど……」
おお、流石はしずくちゃん。イラストのベースは前に写真で見たこっちの世界のヒナちゃんと多々良くんの小さな頃だけど凄く雰囲気が出てる。
「そうそう、こういう感じ。懐かしいなぁ……お雛様の陽菜がめちゃくちゃ可愛くって……あの写真がもう見れないなんて本当に残念だよ」
しずくちゃんの書いてくれたスケッチを見る恭介くんの目がめちゃくちゃ優しい。
うう、確かに2人で撮ったあの写真はもう一回欲しいかも。
「そもそも、お内裏様とお雛様というのは結婚式を挙げている花婿と花嫁のことではないのか?」
ひよりちゃんが質問してくる。確かに!? そういう意味では幼稚園児の頃から恭介くんと毎年結婚式の予行練習をしていたってこと? 今さらそのことに気付いて恭介くんと2人で真っ赤になってしまう。
「陽菜っちは恭っちときちんと籍を入れて結婚するつもりなんだよね? その時はきっと今風にウエディングドレスだろうから、お雛様の格好で写真撮影してみるのはいいんじゃないの? せっかくのひな祭りだしあーしが写真撮ってあげる」
みおちゃんが写真撮影の提案してくれて、しずくちゃんが西園寺家の蔵から十二単の着物を準備してくれるって段取りをつけてくれてあっという間に私と恭介くんのひな祭り写真を撮ってもらえることになった。
「ああ、陽菜ちゃんは恭介と結婚できるから羨ましいな……私たちは恋人と言っても
ひよりちゃんがちょっと寂しそうに言う。あれ? なんでひよりちゃんは恭介くんのお嫁さんになることを諦めてるの?
ゆうきくんは放送室にてお昼の校内放送兼生配信をゆうかちゃんと一緒にしていて席を外しているので今は教室にいない。なのでもう少しつっこんだ
「え? ひよりちゃん、そんなこと言っても日本は重婚罪もあるし、陽菜ちゃんが結婚しちゃったら私たちが恭介さんとエッチしたら不貞行為になっちゃうでしょ?」
しずくちゃんが現実的な問題点を聞いてくる。そうだよね。心配になっちゃうよね。もっとしっかり自分の考えをまとめてから話し合うつもりだったけどここで私と恭介くんの考えをしっかり伝えておこう。
「えっとね……しずくちゃん、私は恭介くんとちゃんと結婚するけどみんなには一緒に住んでもらって、その……子作りも含めて恭介くんと本当の家族になって欲しいって思ってるよ」
「え!? でもそれって重婚罪なんじゃ?」
「重婚罪っていうのは婚姻届けを重複して出すことだから私が
「ということは、まるもきょーちんと結婚式を出来るんだよ?」
「うん、私はみんなと一緒に結婚したい。一般的にはあり得ない関係かもしれないし、みんなが不安だって言うならしずくちゃん達4人に関しては訴えないって誓約書を書いたっていいよ。だから心配しないで一緒に暮らそう」
「「「「陽菜ちゃん(ちん)(っち)」」」」
みんなの目がちょっと潤んでる。そうだよね。一緒にいて欲しいってお願いしていたけどここまで突っ込んだ将来像は話してないもんね。
「まあそう言っても……みんなと一緒に暮らして私だけが子供が出来なくてしずくちゃんやみおちゃんたちだけ赤ちゃんが生まれちゃったら私も流石に寂しいってなるだろうから、赤ちゃんが出来るように頑張る!」
私がそう言って宣言するとみおちゃんがニヤニヤしながら聞いてくる。
「へぇ……陽菜っちは子作り頑張るんだ? どんなふうに頑張るの?」
「恭介くんにお願いしていっぱい
「ひ、陽菜……」
恭介くんが真っ赤になって口元を押さえてる。みおちゃんは大爆笑。しずくちゃんとひよりちゃんは苦笑い。まるちゃんは嬉しそう。だ、騙された!? 自爆に誘導するなんて酷い。
ま、まあイイよね。みんなも一緒に暮らしていくことと結婚式を一緒にすることはちゃんと伝えたいって思っていたし。
3月3日には西園寺家にみんなでお邪魔して十二単の着物を着て、束帯衣装を身に付けた恭介くんと一緒に写真を撮った。
幼稚園児の頃に撮った写真と全然違うし、白塗りこそしなかったもののみおちゃんに薄く化粧を施された着物姿の恭介くんは見惚れるくらいカッコよくって……思わずスマホの待ち受けにしちゃった。みんなも喜んでくれたからこれからもずっとこういう風に楽しくひな祭りを過ごせたらなって思った。
私たちが5人全員で恭介くんの隣でウエディングドレスを着る未来を夢見ながら。
(ヒナ視点)
元の世界の姫川家の和室にて。
「お母さん。うちのお雛様って結構しっかりしてるよね」
七段飾りの雛壇を見ながら私はお母さんに話しかける。今は2人でひな祭りの飾りつけ中だ。
「そうね。亡くなったおばあちゃんが陽菜ちゃんの幸せを願って送ってくれた雛飾りなの。お母さんの実家で飾っていたお母さんの雛飾りでもあるのよ」
代々受け継がれてきた雛人形……凄く大切にされてきたものらしい。
「あれ? お雛様の箱の中に写真が入ってるんだけど……」
箱の中に入っていた数枚のL版の写真を手に取る。そこには小さな男の子と女の子がそれぞれお内裏様とお雛様の格好をして写真に撮られていた。
「か、可愛い……っていうかこれ恭の小さい頃?」
「あら、懐かしいわね。恭介くんが『陽菜ってお雛様みたい』って言って……それでうちも日奈子さんもノリノリで2人に衣装を着せて写真に撮っていたのよね。まだちゃんと残っていたのね」
そこにある2人の幸せそうな姿……ちょっと胸が痛むがこの姿を見ると2人はお似合いだったのだなぁって素直に思えた。
「ひな祭りにはお友達も呼んで一緒に桜餅でも食べましょう」
ちょっと涙ぐんでる私を見て見ぬふりをしながらそんな風に優しく言ってくれるお母さんと雛人形を並べていくのだった。
-----------------------------------------------
ちょっとした小話①
ひより「3月3日はひな祭りでみんなで集まるのはいいんだが、3月2日には恭介と一緒に過ごしたいのだが良いだろうか?」
陽菜「恭介くんとの『1日2人っきりで過ごせる権利』を使いたいってこと? もちろんひよりちゃんがその日がイイならひよりちゃんの自由だけど」
みお「あーしが
しずく「みおちゃんじゃないんだからひよりちゃんは恭介さんと一緒にいてもエッチばっかりするわけないでしょ」
まる「ひよりのことだからきょーちんと一緒に稽古をしたいんだよ」
ひより「いや、違うんだ……3月2日は私と恭介が出会った記念日だから……」
一同「「「「「記念日?」」」」」
ひより「こっちに来た恭介が退院して初めて登校して私と会話を交わした日が
3月2日なのだ。だからこの日だけはどうしても恭介と一緒に過ごしたいと思ってしまって」
恭介「ひより……」(ぎゅぅ)
ひより「きょ、恭介……いきなり抱きつかれると驚いてしまうから」
陽菜「ひよりちゃん! 一日権なんて使わなくても言ってくれたら記念日は普通に一緒に過ごしていいから! いいよね? 恭介くん」
恭介「うん、陽菜がいいなら。それじゃあひより……出会って一年。ほんとうにありがとう」
そんな会話の後3月2日は2人で仲良く過ごしたという事でした。
ちょっとした小話②
恭介「なぁ、陽菜。このお雛様……元の世界の姫川家にあったお雛様と同じ七段飾りで立派なんだけど左大臣と右大臣だっけ? が女の人形になってるんだけど……」
陽菜「ああ、それは私もびっくりしたんだけどその2人の
恭介「ああ、雛人形って娘の健やかな成長を願って飾るって聞いたことがあるけどこっちの世界の女の人は出世欲もあるし、どっちかって言うと女性が男性を手に入れるイメージだからその辺のキャラ付けも逆になっちゃっているのか……」
陽菜「そうだよ。今大河ドラマの主役って紫式部で光源氏の出てくる『源氏物語』を書いてるけど、あれの『源氏物語』も全然違うストーリーになってるよ」
恭介「ああ、去年のちさと先生が文学史の授業で説明してたけど光源氏がいろんな女の人に手を出してハーレムを作ったり、若紫を手に入れて自分の理想の女性に育てる物語のはずが全然別物になっててびっくりしたよ」
陽菜「そうだよね。どちらかというと光源氏が女の人に取り合われる物語になっているんだもんね。私もびっくりしたよ」
恭介「紫の上は若い光源氏を囲い込もうとするし、若紫は年上の光源氏を誘惑するし。一応だけど元の世界の正しい(?)源氏物語をから見たらビックリ展開で……まあある意味面白いけど」
雛飾りを並べながら貞操逆転世界ではこんな会話が交わされたとか交わされなかったとか。
二つの世界が絡む話は長くなりますね。小話②はそんなこともあるかなぁくらいで読んで貰えると嬉しいです。
次回更新は3月10日を予定しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます