番外編⑧ ゆうきと村上のイヤホン
※数年後の未来のお話です。このお話は三人称で視点人物は固定されていません。
「ふ~ん、きょーすけは元の世界の村上祐樹(ゴリマッチョ)とそんなに仲が良かったんだ」
自分の方から元の世界の自分の話を聞きたいと言っていたくせに、恭介の話を聞いたゆうきの機嫌がどんどん悪くなっていく。
ゆうきとゆうかがアイドルユニットυ's(ユーズ)としてブレイクしてからもう数年の月日が流れている。
今日はゆうきとゆうかがオフで恭介たちの住む家に泊まりに来ていた。
今2人がいるのはみおが建てた恭介たちが住む家の一室。恭介の遊び部屋だ。
恭介の寝室は別にあり、そちらは一緒に住む女の子たちが陽菜をはじめとして毎日一緒だから恭介個人の時間も取れるようにと趣味の部屋を作ってもらえたのだ。
みんなと一緒に過ごす時間が一番楽しくても、1人でじっくり読書したり音楽を聴いたり、プラモデルを作ったりする時間が欲しくなる時があるのだ。
みお自身も趣味人ではあるし、他のみんなの了解も得たうえで「恭介の遊び部屋」と呼ばれる部屋が作られた。
作業用、兼パソコンディスクとしての机、作りつけられた棚には恭介が作ったプラモデルや極門島に遊びに行くときに使う釣具やラジコンなんかも置かれている。
「いや、仲良かったって……男同士だしそのぐらい普通じゃないか?」
恭介が村上と一緒にイヤホンを片耳ずつ使って動画を見たりしていた話をしたとたんにゆうきの機嫌が悪くなった。
恭介にはなぜゆうきが機嫌が悪くなるのかが分からない。相変わらず女心? に微妙に鈍感なところがある恭介だった。
「じゃあ僕が恭介と一緒にイヤホンを共有して1つの動画を見ても問題ないってことだよね?」
そういうとゆうきは部屋の中にあるソファに恭介を引っ張っていく。この部屋はあくまでも遊び部屋であるが恭介が仮眠したくなったらそこで寝られるようにベッドとしても使えるようにソファベッドが置いてある。
ちなみに家族のルールではこの部屋ではキスまで、エッチは禁止ということになっている。
「え!? ゆうきと2人でイヤホンを共有? そ、それは問題ないけど……」
そういうと恭介はイヤホンの片方をゆうきに渡す。渡されたゆうきはプルプルと震え、そのブルートゥース接続の無線イヤホンを恭介に投げつけた。
ペシッ!
「アウッ! ひどいよゆうき、イヤホンを投げつけるなんて」
「酷いのはきょーすけだよ! なんでこの場面で無線イヤホンの片方を渡してくるの? 当然有線の……繋がってるやつじゃないと意味がないでしょ!?」
至極当然なゆうきの怒りにいまいち要領を得ていない恭介。
「ああ、村上とイヤホン共有した時は確かにコードのついたイヤホンだった……どっかにあるかなぁ」
そう言いながらゴソゴソとデスクの引き出しをひっかきまわす恭介。その姿を唇を尖らせて眺めるゆうき。ちょっとため息が出そう。向こうの世界と恭介が入れ替わってやってきたこちらの世界。村上とゆうき、恭介はどちらも親友というがなんだかむこうの村上の方が仲がいい気がしてなんとなくモヤモヤする。
「これでイヤホンはあったけど大画面のモニターで動画を見るとか言ったら本当に怒るからね」
恭介ならやりかねないと先にくぎを刺すゆうき。一応恭介の方でも村上との動画視聴を再現するつもりなので大画面のモニターで動画を見るつもりはなかったけど。
「あ、あったあった。最近はこんな有線のイヤホンなんて使わないからなかなか出て来なくて。はい、ゆうき」
そういうとゆうきに右耳用のイヤホンを渡し、自分はゆうきの右側に腰かけて左耳用のイヤホンを耳に差し込む。
スマホに繋がったイヤホンのラインは二又に別れてそれぞれ恭介とゆうきの耳に繋がっている。
「僕が動画を選んでいい?」
恭介のスマホに入っていた動画を適当にタップする。
『ひ~な ひ~な ひな さちえのこ~ かわいいひながやってきた~♪ ひ~な ひ~な ひな ふくらんだ~ まんまるおなかの女の子♪』
二人の右耳と左耳にそれぞれ聞こえてきた曲は、恭介がパブで飲んだ後にみんなで遊んだ人狼ゲームで負けた恭介が歌わされた、小さい頃の恭介が歌っていたという有名なアニメの替え歌だった。
周りが爆笑しているが恭介は酔っているからか楽しそうに歌い続けている。もちろん音程は外しまくっている。
「ギャーーーーー! こ、これはなし。人狼ゲームで陽菜に狙い撃ちされて罰ゲームした時のやつだから」
慌てて再生を止める恭介。笑いをこらえきれないゆうき。あまりにも楽しくてさっきまでのモヤモヤなんて吹っ飛んでしまった。
その後はゆうきと恭介の思い出の動画。水着撮影会で極門島に行った時の動画、ゆうきが水泳部の大会で一番後ろをもたもた泳いでいる動画、恭介が必死で泳ぐが惜しくも4位で地区大会で敗退して泣いている動画、二人の思い出の動画はそれこそいくつもあって……
1つの画面を眺めていた二人はいつの間にか肩を寄せ合うように眠りに落ちていた。
コンコン……
この家のちょっと変わったルール。ノックに返事がなければ開けていいのだ。
これは陽菜がもし万が一意識を失いでもしていて返事が出来ないなんてなった時に返事がないからと開けなかったらどうなってしまうのかという不安から作られたルールなんだけど。
ガチャッ
ドアが開いてそこに顔を出したのは少し大人びた陽菜だった。
「二人でぐっすり寝ちゃって……フフ、本当に仲いいんだから」
そういうと3時のおやつのケーキを載せたお盆を持ち帰り、毛布を準備してきた陽菜は2人に毛布を掛けてやる。
「夕食の時間には起こすから……それまではゆっくり寝てていいからね、恭介くん、ゆうきくん」
そういうと陽菜は扉を閉める。
暖かな夕日が差し込む部屋の中で2人は幸せそうに肩を寄せ合い眠り続けた。
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2023年11月4日に公開したサポーター限定近況ノート作品です。
次回更新は1月14日になります。
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