お正月蔵出し④ 姫川家の食卓 さちえさんと日奈子さん2

※1月3日公開分は長いので分割されてます。先に「お正月蔵出し③」をお読みください。



 ここからは私が元の世界のお母さんたちから聞いた話をまとめたお話だから事実とは多少違ってるかもしれないんだけど、小学生の時の私がお母さんに恋バナをせがんで聞かせてもらった話。


 あ、作中の俊彦(としひこ)さんがうちのお父さんの名前で、晃介(こうすけ)さんが恭介くんのお父さんの名前だよ。あれ、お父さん達って多分初めて名前が出たんじゃないかな。


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 日奈子は悩んでいた。高校2年生の学園祭を前に幼馴染4人組が分裂の危機にあったのだ。


 家が近所で小さい頃からずっと一緒だった4人。

 晃介と俊彦、日奈子とさちえ……ずっと4人で一緒だと思っていた。だけど私たちは男女だったから小学校の高学年から中学生の間はなんとなく気恥ずかしくてつるむこともなくなっていた。

 その間に日奈子は背が伸びて胸こそそこまで大きくはないがスタイルの良く育っていた。髪型はショートボブで明るい茶髪に染めている。

 さちえの方は背こそあまり伸びなかったもののその分胸に栄養がいったのか大きく育ちその背の低さと相まって思わず振り返られてしまうようなアンバランスな魅力があった。長い黒髪をポニーテールにまとめて、本当に駿馬の尻尾のようにフワフワと揺れるそれはさちえの元気さをアピールしているようだった。


 中学時代は晃介と俊彦は男同士、日奈子とさちえは女同士でずっと親友だったけど、高校に上がって同じクラスになった4人は再び幼馴染としてグループを作るようになっていた。気心の知れた気の置けない幼馴染4人。

 高校二年の学園祭はそんなころにやって来て1つの嵐を運んできた。


「もう俊彦なんて知らない! アイツ他の女子に学園祭準備の買い出し頼まれて一緒に街に買い物に行っていたんだよ。

 なによそれ、まるでデートじゃない。私に黙って他の女のとデートするなんて……日奈子だって腹が立つでしょ?」

 さちえが日奈子に問い詰めるが、日奈子から見るとそれは可愛らしい嫉妬なんだけどなぁって思う。

 俊彦が女の子と出掛けた3日前からさちえは何度この話題で怒っていることだろう。思い出しては怒っている。週末の学園祭本番の土曜日まではあと3日しかないのに。


「俊彦にも事情を聞いたけど、『みんなで買い出し』って聞かされて出かけていったら他の子の都合が悪くなって仕方ないから2人で買い出ししたって話だったよ。

 相手の子がしたたかだったんだから許してあげたら? 俊彦は被害者だよ」

「い~やっ! 浮気者の俊彦なんて許さないもん。あ~あ、学園祭誰と回ろうかな……晃介ならあいてるかな。アイツは他の女の子の誘いきちんと断って私たちのために時間を取ってくれるもんね」

「確かに晃介は私たちに優しいけど……」

 実際は日奈子と晃介はすでに2人きりで学園祭をまわる約束をしていたりするのだが、俊彦とさちえに遠慮してまだそのことを伝えてなかった。幼馴染ってこういうとき難しいなぁと日奈子は思う。




 学園祭当日、結局意地を張ったさちえは俊彦と仲直りすることが出来ず、晃介と2人で回ることになった。

 2人のあとをつけている俊彦が楽しそうに晃介とともに歩くさちえをちょっと恨みがましい目で見つめている。もちろんその隣には晃介を取られた日奈子の姿もある。


「はぁ、ため息つきたいのは私の方だよ。さちえに振り回されるのは慣れてるけどせっかく晃介と学園祭デートできると思ってたのに……あ、ごめんね。俊彦がイヤなわけじゃなくて」

「ああ、そんな……今さちえが転びかけて晃介が腰に手を回して……顔が近い! 顔が近すぎるから……ああ、さちえもあんなに照れた表情を……もうダメだ、鬱だ死のう」


「聞いてないし……こら! 私の話を聞いてないうえにさちえがそんなに気になるなら土下座してでも謝って一緒に回ってもらいなさいよ。

 もうっ、晃介は頼りになるからさちえを任せたけど、これでさちえが晃介と付き合うとか言い出したら俊彦のこと一生許さないからね」

「そんなこと言われても……ああ、今度は晃介の差し出したチョコバナナを咥えて……何てうらやま……じゃなかったあんなの公序良俗に反するから風紀委員に密告して!!」


「だから、どこの世界に学園祭デートの邪魔をする風紀委員がいるのよ……はぁ、さちえと男の趣味が違うとは思っていたけどここまでとは……俊彦って真面目だけど世話を焼かないといけないタイプだから私とは絶対合わないわ。世話焼きのさちえがついてれば上手くいくと思うけど私には面倒見切れないわ」

「日奈子? 何ボソボソ言ってるの? もう、このままじゃ晃介とさちえを見失っちゃうよ? って何あの薄暗いテント? なんで晃介に手を引っ張られてあんな怪しいところに入ってるの!? あれって大丈夫なの?」


 「占いの館」と看板に書かれているテントは確かにちょっと怪しかった。学校の普通の4本足のテントに暗幕をかけて周りも暗幕で覆っていて中は真っ暗なようだ。

「大丈夫もなにも占いの館でしょ? どうせ相性占いでもして晃介とのことを占ってもらうとか思ってるんでしょ」

「う、う、占いで最高の相性って出たらどうするの? 晃介がさちえと付き合ったら日奈子だって困るでしょ? 晃介のことが大好きなくせに!」

 知られていないと思っていた自分の気持ちが鈍感な俊彦にまでバレてると分かって日奈子は真っ赤になってしまう。


「ちょ、か、関係ないでしょ。そ、それに……晃介なら絶対に浮気なんてしないし」

 実は晃介と日奈子は初体験を済ませたばかりで晃介から一生幸せにするというプロポーズじみた告白までされているのだ。


「浮気って……え!? エエッ!! そうなの? 晃介ってついに日奈子に告白したんだ!? 言ってくれればよかったのに」

「私たちが報告しようとしたタイミングで俊彦たちが痴話げんか始めるからでしょ! そのせいで私は晃介との学園祭デートを我慢してるんだから本当に私にも土下座して欲しいくらいだわ」


 日奈子が腹を立てるのも無理はない。学内の3トップのうちの2人と言われる日奈子とさちえがフリーとなったら学園祭デートを申し込む男子が殺到するのが目に見えていたから仕方なくボディーガードとして晃介をあてがったのだ。

 もしあそこで日奈子が「晃介は私のだから~」ってさちえが晃介に学園祭デートに誘うのを許さなかったら、さちえがどこの馬の骨とも分からない男と付き合うことになるかもしれないし。


「ま、今回は晃介に感謝しないと。あそこのテントの中、なんとあの生徒会長の西園寺さんがたった一組のためだけの特別なタロット占いをして貰えることになってるんだから」

 西園寺グループの息女にして、碧野みどりの高校の生徒会長が学園祭の多忙の中、この時間だけオカルト研の占いの館に出張占いをしてくれるのだ。

 それもこれも西園寺会長から信頼の厚い晃介が頼み込んで仕組んだからだ。


「そろそろかな……あ、ほら、さちえが1人で出てきた。あ、暗い中から明るいところに来たから目をシパシパさせて……くぅ、気の強いさちえのああいう所って本当に可愛い!

 ほら、キョロキョロしてるから手を振ってあげなさいって」

 そういうと日奈子もさちえに向かって手を振って自分の居場所を伝えている。つられて俊彦も手を振る。


 2人の姿を見つけて走ってきたさちえがものすごい勢いで俊彦に抱きつく。

「グェッ……」

 体力のない俊彦はカエルが踏みつぶされたような声を出している。


「ごめんね……俊彦。俊彦が謝ってるのにちゃんと受け止めて上げなくて。これからは俊彦のことをちゃんと信じるから。私、自分の気持ちがやっとわかったから……もう俊彦のこと離さないから」

 学校の3大美少女の一角であるさちえの告白に周囲がどよめくが、俊彦が頷いて「僕も」と抱き締め返したところで大歓声に代わり拍手に包まれる。


 晃介が日奈子の隣にこっそりとやって来て日奈子の手をギュッと握る。

「お疲れ。どうにか上手くいったみたいだな。本当に世話が焼ける2人だよ」

「晃介こそ……まあ、あの才女の上に美人で不思議ななにかを持ってるとしか思えない西園寺さんにあの薄暗くしてろうそくの明かりだけで雰囲気たっぷりの中、『意地を張らずに素直にならないと本当の想い人に不幸が訪れる』なんて占いされたら優しくて純真で真っすぐなさちえなら飛び出してくるよね。全く、あの忙しい西園寺さんにニセ占いさせるなんて晃介にはやっぱり叶わないよ」

「はは、俺も一刻も早くあの2人に仲直りして貰って日奈子とデートしたかったから」

 そういうと晃介はみんなの注目がさちえたちに集まっているのいいことに日奈子の頬にキスをした。


 真っ赤になる日奈子、ニコッと白い歯を見せて笑う晃介。

「わ、わたしも同じ気持ちだったから……晃介大好き。じゃあ最初はチョコバナナから……」


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「なにそれ!? 向こうの世界の晃介さん、カッコ良すぎでしょ!? 交換して欲しいんだけど。クーリングオフ? それとも消費者庁に連絡すればいいの!?」

 小学校の頃にお母さんたちから聞いた話を書きとめていた日記を見ながら私は話をし終えた。日奈子さんが大声で叫んでいる。

 こっちの世界の恭介くんのお父さんが凹んでるから止めてあげて下さい。いつものスルー力はどこに行っちゃったの!?


 う~ん、でも確かに晃介おじさんって元の世界だとちょっと恭介くんっぽかったかも。ああいう人と一緒だからむこうの日奈子さんは何が起きても動じない安定した人になったのかもしれないね。


「恭介くんって晃介さん似だったんだ……こっちの世界の晃介さんとは全然似ても似つかないから突然変異かと思ってた……っていうか向こうの私って結構逃げちゃうタイプだったのね。ちょっと意外かしら」

 お母さんの発言も地味にこっちの恭介くんのお父さんを傷つけてるからね。


 それにしても全然違う過去なのに私が入れ替わった瞬間の夫婦関係とか親子関係がみんな一緒だったのは不思議だよね。惹かれあう相手って運命なのかな?

 きっとそこは何か不思議な力が働いたんだと思ってスルーすることにしておこう。


 それと元の世界でこの話を聞いたときは名字が違うから気付かなかったけど、しずくちゃんのお母さんも生徒会長だったんだね。

 ひょっとして向こうの世界でもしずくちゃんが生徒会長になってていたりして……あはは、流石にそんなことはないかな。

 でもみんな向こうで元気にしているといいなぁ。

 そんな風にしてお盆の夜は暮れていったのでした。

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 ちょっとした小話


 さちえ「今日の夜はチョコバナナよ! たっぷり食べちゃうんだから」

 陽菜「お母さん! 変なことを言わないの!? お父さんに火傷だけはさせないでね」

 日奈子「あの奥手だった陽菜ちゃんがこういうの分かるようになったんだ。なんだかうちの恭介のせいでごめんなさいね」


 という親子の会話が交わされたとか交わされなかったとか。



※サポーター限定でこんな感じでキャラクター掘り下げをしていました。

あとは「ゆうきとゴリマッチョ」「二つの世界のゆかり先輩」が残っています。

(後日公開予定)

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