クリスマスSS-① サンタさんを何だと思ってるの?

「そうだよね!! サンタクロースさんはおじいちゃんだったよね!」

 クリスマス前の扮装の打ち合わせ中に陽菜が我が意を得たりとばかりに大きな声をあげる。


「え? サンタさんは性別とか年齢に制限があるの? 確かに大元は『聖ニコラウス』っていう聖人でそのオランダ語読みが『サンタクロース』って話だから、本物がいるとしたら男性でおじさんなのは間違いないとは思うけど……」

 しずくに事情を聞いてみるとこっちの世界にある『サンタクロースの伝説』も俺が元いた世界と同じようにトナカイの引くソリに乗って北国からやって来て煙突から不法侵入するおじさんだったのは間違いないらしい。


 ただ、この貞操逆転世界では元の世界以上に母子家庭も多いし女性が自立してるからサンタクロースが男性に限るってルールが廃れるのが早かったんだろうな。考えてみると元の世界でも正体不明のおじさんが、今どきの家にありもしない煙突から入ってくるなんて子供に信じさせるのは無理だと思うけどね。


「だから中学一年生で手術の後こっちの世界に来てサンタクロースがいないって知った上に、OKってなってるのを見たときはびっくりしたもん」

 いや、元の世界の無理無理な設定なサンタさんを小学6年生まで信じていた陽菜らしい言葉だとは思うよ。

 そっかぁ、俺たち俺とさちえさんが秘密にしてきたサンタさん情報を知っていたのは元の世界で中学生として入れ替わったヒナの方だったわけか。心臓の移植手術で入れ替わって陽菜はこっちの世界でサンタさんの真実を知り混乱し、ヒナは知っていたサンタさん情報が変わってビックリするってことが起こっていたわけだ。


 ということは、こっちでは女性があの赤いサンタさんの上着とズボンを着ていても違和感はないってことらしい。

 実はシークレットサンタの話から琴乃刀自で伝手で児童福祉施設や保育園のクリスマスイベントに参加させて貰うことになったのだ。みんながどういう扮装をするかを話しているときに普通に「誰がサンタ役をやるか」を決め始めたので男の俺一択だと思っていた俺は驚くハメになったってわけ。


「えっと一応確認するんだけど、ミニスカサンタとか赤いビキニ着たエッチなサンタさんコスってないのかな?」

「はぁ!? 恭っち何言ってるの? いつもいつもドスケベなことを思い付く貞操逆転男子だとは思っていたけど今回は特にひどい! 子供の夢のサンタさんを何だと思ってるの?」


「サンタさんは琴乃おばあちゃんみたいにおばあちゃんもやるんだよ。きょーちんは琴乃おばあちゃんをエッチなサンタさんにするつもりなんだよ!? まるも許せないんだよ」

「ど、どうしても恭介がをしてくれというならにもにも思い入れがない私なら出来ないことはないと思うが……」

「「「「ひよりちゃん(ちん)!!」」」」

 みおとまるとひよりの3人が俺のエロサンタコス発言に反応して、最後のひよりの返事にみんなが抗議の声をあげる。


 うう、エロコス禁止かぁ……ハロウィンとは違うんだな。一応、俺の発案ではなく元の世界ではそういうクリスマス文化があったのだとささやかながら抵抗しておく。

「へぇ、流石は貞操逆転世界。冬コミには間に合わないけどいずれネタに使わせて貰うね」

 しずくがネタ帳になにか書き込んでいる。うう、ますます元の世界が変態扱いされてるみたいで辛い。


 でも考えてみると「サンタクロース コスプレ」って画像検索したら「ミニスカサンタ」ばっかり出てくる元の世界がおかしいんだよな。普通のサンタクロースの画像が出てこないってどれだけ男性の欲望が強いのかって話だよ。冬なんだから長袖長ズボンの暖かいサンタさんが正解なのだ。

 ということで紆余曲折あったが児童養護施設と保育園、幼稚園への訪問の準備を進めていくのであった。




「メリークリスマ~ス! 今年一年良い子にしていたみんなにサンタさんからのプレゼントだよ」

 真っ赤なサンタクロースのコスチュームに身を包んだ陽菜が大きな白い袋を背負ったまま、園児たちに挨拶している。

 今日は12月23日、今年は24日が日曜日だから23日の土曜保育の日にクリスマス会を企画している保育園がいくつかあったのでそこに参加している。手分けして参加しているので俺と陽菜、しずくとのどか、みおとひよりという組み合わせでそれぞれ二つずつの保育園にサンタさんとトナカイのコスプレをして参加してイベントを盛り上げる。


 サンタクロースのコスプレはきっちりと長袖長ズボンで白い髭も付けないしもちろんセクシーさはない。

 みんなに教えて貰った通りサンタクロースのコスプレでエッチな雰囲気にしようという発想自体がないのはちょっともったいない。

 いや、園児相手にセクシーさを出しても仕方ないし、この貞操逆転世界では女性の胸でイヤらしさを感じる人自体がほとんどいないわけだけど。


 逆にトナカイの方は着ぐるみ系で結構リアルなトナカイのマスクの被り物をしているので体のラインはバッチリ出てしまう。

 ……ということで俺とひよりとのどかの3人がトナカイの格好をしている。これは陽菜やしずくが全身タイツのコスプレをして体のライン(特に巨乳)が出るのを嫌がった俺の独占欲のせい。


 この世界では女性の体のラインが出ても反応されない(元の世界で男の全身タイツに反応する人がいなかったのと同じ)ので、問題は俺の気持ちだけなのだけどそこはみんな理解してくれた。

 いや、ひよりたちなら平気ってわけじゃないけどあの2人ならトナカイマスクを被ったら男か女かの区別も……いや、ひよりの目が怖いからこれ以上の言及はよそう。


「「「「「サンタさんだぁ!!」」」」」

 保育園児たちが陽菜に群がってお菓子の詰め合わせセットのプレゼントを受け取っていく。今は俺たちの担当する保育園のクリスマス会なのでプレゼントは簡単なお菓子になっている。2つ目保育園でここを配り終わったら俺たちの担当は終了だからのんびりしたものだ。

 最初に行った児童福祉施設では西園寺グループの準備した本気のクリスマスプレゼントを陽菜サンタの手から手渡していた。そっちでは本当に感動されていたけどこっちではあくまでもクリスマス会の余興、子供たちもガチでサンタさんを信じている子もすでにサンタクロースが親の作り話だと思っている子もいる感じ。


「ねぇねぇ、サンタさんって角のついたオスのトナカイさんばっかり連れているけど、なんでそんなにオスのトナカイが好きなの?」

「え!? オスのトナカイ?」

 1人の女の子の疑問に陽菜が目をパチクリさせている。鳩が豆鉄砲を食らったみたいなビックリ顔の陽菜が可愛い。


「角がついてるのがオスだよね? トナカイのオスばっかりはべらせて……サンタさんはトナカイハーレムでも作るつもりなの?」

 う~ん、保育園児なのにハーレムとか悪い言葉を使っちゃいけません。え? ハーレム作ってるお前が何を言うのかって? 心に棚を作るのは大人の特権だから。


「えっと、あ、シカって角が生えてるのはオスだけなんだっけ? えっとカッコいいから?」

 陽菜が一生懸命考えて答えてるけどむしろ「カッコいい男を侍らせてます」みたいになってるから。


 仕方ない……ここはトナカイ博士(陽菜サンタのトナカイになりきるためにトナカイをググって色々調べた)の恭介くんがフォローしてあげよう。

「トナカイはシカの仲間で唯一メスにも角が生えるんだよ。だから実はオスもメスも角が生えるんだ」

 ネットで調べた成果を園児に教えてあげる。俺も知らなかった衝撃の事実なんだけどね。


「え? じゃあトナカイのお兄ちゃんはメスなの?」

「これがねぇ、難しいところなんだけど実は角の生え変わりシーズンから考えると、冬のこの時期に大きな角が生えてるトナカイはいないんだ……冬に大きな角がついてるトナカイは去勢されたオスなんだよ」

「去勢って?」

 俺の説明は理解できたようだが去勢って言葉が難しすぎたようだ。


「たまたまとかおちんちんを取っちゃうこと。そうするとホルモンバランスが崩れて角が落ちなくなるから、大きな角でソリを引くトナカイが見られるってわけ」

 可哀想な赤鼻のトナカイ……お前は去勢されてたんだな。

「ふ~ん、そうなんだ」

 そう言うとトコトコと俺の目の前に近づいてくる園児。年長さんくらいかな? 目が大きくて好奇心旺盛って感じ。ショートボブくらいに整えられてちょっとこけしっぽい?


 むぎゅぅ もみもみ


「角のあるトナカイは去勢されてるって言ってたけど大きいのがついてるよ? マイが確認してあげたから。良かったね、サンタのおねぇちゃん」

「○%×$☆♭#▲!※」

 陽菜が園児におちんちんを揉まれている恋人の姿を見て言葉を失っている。

 やっぱり貞操逆転世界、イタズラ男子みたいなのが女子になってるから相変わらず油断ならない。


「こらっ、トナカイさん相手にそんなことしちゃダメだよ! 恭ちゃん!? あとでお説教だから」

 り、理不尽だ。まあ、変な蘊蓄を保育園児に対し語った俺が悪いと反省することにしよう。

 保父さんにはいっぱい謝られました。あ、すごくどうでもいいけどこっちの世界は保母さんよりも保父さんの方が多かったりする。

 その後は無事にイベントをこなして保育園を後にした。

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 次の更新は24日18:00になります。

 貞操逆転世界のクリスマスと保育園の風景。


 クリスマスSS-②のクリスマスのパーティー風景です。

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