リクエストSS① 陽菜の日記 2020年12月21日(月)

「うう……今日の内容ってちょっと書きにくいよぉ。でもこの日記を実際に恭ちゃんが読むことなんてないんだからそんなに恥ずかしがる必要ってないんだよね」

 その日の姫川陽菜は毎日の日課である日記を前に悩んでいた。姫川陽菜は今中学2年生。


 ほぼ毎日日記をつけていてその書き出しの9割は「恭ちゃんあのね、」もしくは「恭ちゃんへ」という書き出しで始まる。

 今は会うことが出来ない幼馴染。陽菜の初恋の相手である多々良恭介にあてた手紙のような日記。


 お風呂上がりのピンク色のパジャマ姿でノックのところが猫の形をしたシャープペンシルを唇の下に当てる。

 左手はシクシクと痛む下腹部に手を当ててさするようになでる。パジャマの下のパンツは昨日まで履いていたような白いかわいらしいパンツじゃなくて濃い紺色をした生理用パンツ。ぴっちりしていてズレないパンツに生まれて初めてのナプキンを付けている。相変わらずの母親の準備の良さに陽菜は感心してしまう。


「うう、こんなぴっちりしたパンツ履くのは初めてだし、ナプキンはちょっとこすれる感じがあって気になるなぁ」

 この1年半でちょっと独り言が増えて来たかなと陽菜は思う。彼女はこの世界に精神の入れ替わりでやって来て未だに馴染み切れていない。そのためにいつも夜に日記に向かってその日にあった出来事を報告して一日を振り返っている。


「よし、書こう! だってお母さんがあんなに喜んでくれたんだもん。それに今日思ったことを恭ちゃんに報告したいし」

 誰にともなくそう宣言すると陽菜は日記に向かいシャープペンで文字を綴った。

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 2020年12月21日(月)

 恭ちゃんあのね、今日の朝は大変だったんだよ。

 恭ちゃんもきっとそっちの保健の授業で習ったんじゃないかと思うけど、今日私は生理が来ました。

 初めての生理だから初潮っていうんだって。あんまり詳しく書くと恥ずかしいからちょっとだけ書くけど朝起きたらね、パンツが血で汚れちゃっててお母さんに報告したら抱きしめてくれて「おめでとう陽菜ちゃん」って言われたの。


 学校で習っていたし他の女の子から話はいろいろと聞いていたけど私は来るのがちょっと遅めで実感がなかったからビックリしちゃった。

 だけどお母さんが「これで子供を産める体になったんだよ。好きな人の子供を産めるって嬉しいでしょ?」ってすごくストレートに言ってくるから頭の中に恭ちゃんのことが浮かんじゃって真っ赤になってお母さんからいっぱいからかわれちゃった。


 うん、そうだよ。私の初恋は恭ちゃんだって言うのは知ってるよね。小学生の頃からお互いに好きだってお話もいっぱいしたし。プロポーズまでして貰ったし。

 でもね、今日お母さんから「これからは赤ちゃんが出来るんだから本当に好きな人としかエッチしちゃダメだよ」言われた時に思い浮かんだのが恭ちゃんだったの。


 だから私分かっちゃった。

 恭ちゃんは初恋の人ってだけじゃなくて私が本当に好きな人なんだって。だってこっちの世界に来て会った男の人との間に子供が生まれるなんて想像したこともないもん。


 キスしたいって思うのも一緒に子供を産んで育てたいって思うのも私には恭ちゃんだけだよ。だからひょっとすると私は一生キスすることも……恥ずかしいけど書いちゃうね、エッチすることもないかもって思う。


 だってそういうことをしたいって思うのは恭ちゃんだけなの。もし私がエッチするなら恭ちゃんとだけ。でも恭ちゃんはこの世界にいないから……

 だからお母さんに心配されちゃうんだけどね。奥手で引っ込み思案だって。それに私の心の中に好きな人がいるのはバレちゃってるみたいだし。


 恭ちゃんの世界にはいま、私から入れ替わったこっちの世界の私がいるのかな? もしそうだったら凄く悔しい。

 だって本当なら私がいる場所に……恭ちゃんの隣に私じゃない私がいるんじゃないかと思ったら胸が締め付けられるもん。


 今の私は恭ちゃんと会うことはできないけど、それでも恭ちゃんにつり合うような素敵な女の子になりたいって思ってるよ。まだまだお料理も習い始めたばっかりだけど、恭ちゃんが喜んで食べてくれるような美味しい料理が作れるようになるから。

 そばにいられなくてもこの先ずっと会えなくても、ずっとずっと好きだからね。


 そうそう今日の夕ご飯はお赤飯だったの。女の子にいいことがあった日はうちはお赤飯を炊くんだって。すごく美味しかったからいつか恭ちゃんにも食べて欲しいって思っちゃった。

 会いたいな……ってゴメンね。でも恭ちゃんはいつでも私を助けてくれるから。こうやって思ってくれることを聞いて貰えるだけでも幸せ。

 恭ちゃんは私のヒーローだよ。私が本当のピンチになったら助けに来てね。なんちゃって。


 大好きです。おやすみなさい。

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 その日の日記はここで終わっている。

 姫川陽菜が川に落ちたこの世界の多々良恭介を助けようと冬の川に飛び込んで、入れ替わったである元の世界の多々良恭介に助けられたのはちょどこの日記から2年後の今日のことになる。



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 こちらの作品はサポーター用にリクエストで書き下ろしたものでした。3年前の今日12月21日の日記になります。

 実は最後の部分を書きたいがために陽菜視点の一人称でなく三人称になっています。

(日記部分が一人称みたいなものですが)


 ちなみにさらにその半年後の誕生日直前に日記に気付いた恭介にこの日記もばっちり読まれちゃってます。この日記を読んでるのにお預けくらった恭介の心中はいかに。

 このSSは元々リクエストで書かれたものですが、リクエストなどあればお気軽にコメント欄にてご要望ください。最近コメント欄が寂しいのでリクエスト嬉しいです。


次の更新は23日18:00になります。

クリスマスSSは23日24日で2話の更新になります。

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