クリスマスSS-⓪ クリスマスの前哨戦?
「へぇ……性の6時間ってこっちにもあるんだ」
みおに教えて貰って思わず感心してしまう。女性が性欲が強いこの世界でも男性はクリスマスをロマンティックに感じてやっぱり女性の誘いに乗りやすくなるってことなんだろうか?
今は12月15日(金)の昼休み。みんなでお弁当を食べながらみおがクリスマスについて話題に出してそこから「性の6時間」の話題になった。
ちなみに「性の6時間」というのは12月24日(クリスマスイブ)の21時から翌日25日(クリスマス)の午前3時までが日本で一番多くのカップルが性行為を行っているという俗説のことである。
実際にそういうデータがあるっていう話も聞いたけどこっちの世界だとどうなっているか分からないから断言はさける。ちなみに2番目はハロウィンという話もあるけどそっちは本当に真偽が分からない。
どっちにしても俺は「性の6時間」に関しては未経験者。
何しろ去年の6月に元の世界でヒナと付き合い始めて、向こうで死んじゃってこっちの世界と入れ替わったのがクリスマス直前の12月21日だから……考えてみると後3日生きていたらヒナとの「性の6時間」だったのに……って、その時点で寝取られてるのか。
はぁ……ヒナは元気にしているのだろうか? ひょっとして新しい恋人とかいたりして? あ、なんだか凹む。我ながら独占欲強いなぁ……ヒナは元々こっちの貞操逆転世界の女の子なんだから理解の無かった俺の言動にも問題あったと思うし、その後どうなっていても死んだ俺にはどうにもできないんだけど。
こっちで幸せになった俺はせめて彼女の幸せを祈っていよう。
「恭っちの元いた貞操逆転世界だと男子がヤル気マンマンなクリスマスなんでしょ? 楽しみにしてるからね、恭っち」
流石にその部分は小声で……今日のみおはお昼休みの席順くじで俺の隣を引き当てたから俺の耳元で囁いてきてその吐息にビクンって反応してしまう。
確かに元の世界(俺的には貞操逆転世界扱いは不満)では、男子が積極的に女子をリードしてクリスマスを迎えていた。それが逆転しているわけで俺の周りでもクリスマスの前哨戦? はなかなか大変な様相を呈している。
2年5組はあの「みんなの恭介くん」を乗り越えてきたおかげで今さら俺に告白しようなんて女子はいないんだけど、12月に入った頃から特に1年生と3年生の女子からは毎日のように告白される始末。
ヤリチン(という噂)の多々良恭介とクリスマスイブを過ごせば確実に「性の6時間」を楽しめると考える肉食系女子たちの思惑がビンビン伝わってくる。そんな告白は流石にちょっと遠慮したいんだけど数が多いから断るのも大変だ。
正直モテ期が来たと喜ぶ気にもなれない。毎日登校すると下駄箱に告白場所への呼び出しのお手紙が入っているのだ。あの生徒会長選挙なんかで陽菜と俺のラブラブっぷりを見せつけたはずなのに……やっぱりこっちに来たばかりの頃の素行が悪すぎたってこと? グスン……
元の世界の男子はヤリたいからってそういう噂のある女の子に声かけるのは控えめにしてあげてね。結構傷ついてるかもよ。
現在俺の下駄箱は陽菜によって蓋を釘で打ち付けられて貼り紙がされている。「売約済!!」(みおの入れ知恵)
うん、陽菜が独占欲が強いのは知ってるし他の女子に俺を渡す気はないのが分かってるからそんなに心配しないで。たまに陽菜の行動がヤンデレって言われるのはそう言う所だよ。
下駄箱を封印された俺は毎日陽菜の下駄箱に上履きを入れて帰り、学校に着いたら通学用のランニングシューズ(うちの学校は指定のローファーとかはない)を袋に入れて教室に持ち込んでいる。
ちなみにしずくとみお、ひよりにまるも男子から相当数の告白を受けていて断るのが大変みたい。
元の世界でも女子からクリスマス前に告白ってあったもんね。俺はされたことないけど……バレンタインデーに1人告白してくれた女の子がいたけど。そう思いながらしずくを見ると告白の手紙にお断りの手紙を書いていた。
「今年もサンタさんを子供たちは待ってるんだよ」
のどかの発言でみんなの視線が一瞬でのどかに集中する。な、なんだ……まさか、のどかってひょっとして、いや流石にそんなことは。
あの陽菜でさえ小学6年生でサンタさんがいないことに気付いたって言うのに。ちなみに陽菜の夢を守るために「サンタはいない」情報から俺が全力でガードしていた事実は内緒だ。
小学4年生からは「サンタさんが来るまで起きている」って言い張る陽菜に「体のために早めに寝ないと」ってイブの夜に陽菜のベッドで添い寝して一緒に早寝するのが俺の役目だったりした。クリスマスの朝に目が覚めると俺の分と陽菜の分のプレゼントが枕元に置いてあって「恭ちゃんの分までここに届いてる。やっぱりサンタさんは凄い!」って感心する陽菜が可愛かった。
俺? もちろん俺からも毎年プレゼントはしていたよ。髪飾りとか小物が多かったけど、全部元の世界に残してきちゃってるから残念ながら陽菜の手元にはないんだけどね。
それはそれとしてのどかのサンタさん発言だ。流石にのどかでも高校生になってもサンタさんが実在するって信じてるわけないよな。
助けを求めるようにしずくにアイコンタクト。のどかの幼馴染であるしずくならのどかがいつまでサンタさんを信じていたかを知っているはず。
「まるちゃんが言ってるのはシークレットサンタのことなの。恭介さんはアメリカの『シークレットサンタ』って知ってる?」
「シークレットサンタ? 誰からの贈り物か分からなくしてプレゼント交換するやつのこと?」
なんとなくグループ内でのプレゼント交換の時に差出人不明にしてくじで選ぶやつが思い浮かぶ。
「今はそっちが言葉としては主流なのかな? アメリカって格差社会だからクリスマスに富める人が恵まれない人に贈り物を送るの。それがシークレットサンタ」
「そのシークレットサンタとまるがどう関係しているの?」
「しずくちんのところの琴乃ばーちゃんがまるのサンタさんなんだよ」
のどかが凄く大切ことを伝えるように俺に教えてくれる。どういうことだ?
「まるちゃんのお父さんとお母さんがいない話は聞いたんだよね? それはまるちゃんがまだ幼稚園児だった頃にご両親がトラックの事故に巻き込まれて……それがちょうどお二人がまるちゃんへのクリスマスプレゼントを買った帰りだったの」
トラック事故に巻き込まれたのどかの両親の車は炎上。焼け跡から見つかったのは焦げて壊れた特撮ヒーローの変身ベルト(のどかは特撮ヒーローに憧れていたそうだ)、クリスマス直前の事故ということもあってのどかの祖父母も葬儀などに追われてクリスマスプレゼントのことに気付かなかったそうだ。
「そのことに気付いたのはまるちゃんの変身ベルトを見せてもらった私だったんだけどその話をしたら琴乃おばあ様がまるちゃんのベルトをこっそり修理して正常に動作するようにしてベルトの強化アイテムをプレゼントしてくれたの。正体を隠して……ね」
そのあと何年も琴乃刀自はのどかにプレゼントを贈り続け、のどかをきっかけとしてみどりの市の児童養護施設やひとり親家庭まで「サンタさんあてに手紙を書く」ことで本当にサンタさんからプレゼントが届くシークレットサンタプロジェクトが始まったのだそうだ。
「しずくちんは他人事みたいに言ってるけど、琴乃ばあちゃんにその話をしてくれたしサンタさんの活動が広がるきっかけを作ってくれたのはしずくちんなんだよ」
「それを言ったらまるちゃんだってみおちゃんだって、アルバイトの新聞配達のお金の一部やインフルエンサーの収益の一部を提供してプレゼントを送ってるじゃない」
「しずくっちだって同人売り上げの一部を寄付してるでしょ? 知ってるんだよ」
結局3人ともサンタさんなんじゃん。なんだか胸が熱くなる。
っていうか、陽菜とひよりは泣いちゃってるし。
「うう、私も何か協力できることがあったら何でもするから」
「しずくちゃんたちは水臭いぞ。話してくれたら私だって協力するのに」
というか途中から聞き耳を立ててたクラスのみんながそういう事ならって少しずつ協力しようとしてくれている。
ああ、このクラスで良かったなって思う。
そして、将来琴乃刀自の元で働くのがちょっと楽しみになってしまった。初めて会った頃は琴乃刀自のことをあんなに苦手だと思っていたのに本当にズルいくらいカッコいいんだから。
クリスマスの前に楽しみがもう一つ増えたよ。
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ちょっとした小話
「えっと、今日はクラスのクリスマス会ということでみんな集まってくれてありがとう。みんなのおかげでシークレットサンタの方も児童養護施設にサンタさんとしてプレゼントを持っていく手配が出来て本当に感謝してます。
今日はみんなで楽しみましょう。カンパーイ!」
チンッ チンッ
俺の音頭であちらこちらでグラスの合わさる音がする。パーティールームでクラスのクリスマス会。
一昨日の15日に話をして17日の夕方にはシークレットサンタの手配や近くの公共施設を借りてのクリスマス会なんだからしずくとみおの手際の良さには感心する。
今日は身内のシークレットサンタってことでくじを引いて男子の用意したプレゼントが女子に、女子の用意したプレゼントが男子にわたるようになっている。
ちなみに自分のプレゼントが当たった人に自分からのプレゼントだって教えるかどうかは本人次第。教えてもいいし教えなくてもいい。
確率は低いけど意中の人に受け取ってもらうことが出来たら告白チャンスにもなるってことで。確率がざっくり16分の1なのは辛いけど(男女とも16人いるから)。
まあ、男子も女子も異性からのプレゼントってだけで嬉しいよね。
俺と陽菜たちは昨日一緒にプレゼントを選びに行って誰に当たってもその人には教えないってことになっている。お互いに他の人にプレゼントが行っちゃったら悔しいからね。ちなみに俺が女子に用意したのはハンドクリーム。陽菜が準備したのはヘアワックス。
「あ、私のプレゼントは多々良くんに当たったんだ。メリークリスマス」
「早川さんのだったんだ。1週間早いけどメリークリスマス。これ、ちょっと嬉しいかも。本を読むときに使わせて貰うね」
俺の手元には皮製の文庫本カバーが来ている。早川さんは林間学校の時から仲良くさせてもらってる3人娘の1人。クラスの男子の田中とちょっとイイ感じかと思ったけど俺と話に来てるってことは違ったのかな?
「あ、でも他の女の子からのプレゼントって使いづらかったら多々良くんが使わないで陽菜ちゃんにあげちゃってもいいからね」
気遣いが凄い。ずっと俺たち2人を応援してくれてるんだよなぁ。
「うん、俺も結構本を読むから……もし陽菜が欲しいって言ったら俺が自分で陽菜にプレゼントするよ」
「そっか、えへへ。何だろう、多々良くんが使ってくれるって思ったら嬉しいな」
シークレットサンタにも協力してくれるし本当にクラスに恵まれてるよ。
ちなみにみおの選んだプレゼント、業務用コンドーム144個入り一箱は受け取った男子にはめちゃくちゃ不評だった。
俺に当たれって願っていたんだろうけど、確率を計算して欲しい。
次の更新は21日18:00になります。イレギュラーで100万PV記念SSが挟まるかも!?
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