番外編⑥-1 ムカついたから家出してきた!
【番外編⑥は全5話。12/14まで毎日更新です】
ピンポーーーン
ガチャッ
うちのチャイムが鳴るからドアを開く。少し視線を下げるとそこには夏休み以来の生意気な八重歯を見せる満面の笑み。
「恭にぃ、久しぶり」
そういうと心愛ちゃんは俺のお腹にしがみつくようにして抱きついてくる。夏と違ってお互いにだいぶ厚着になっている。今日は勤労感謝の日、11月23日の木曜日の午後になっている。
陽菜はさちえさんと一緒に、勤労感謝の日でこっちに帰ってきているおじさんと一緒にお昼ご飯を食べに行ってそのままお出かけ中。
こういうところをしっかりして
なので今日は陽菜の家でのお泊りもなし。午前中は剣道部にてひよりにしごかれて午後からは学校の課題をこなしつつ自分の写真データを整理することにしていたのだが……
「心愛ちゃん久しぶり。どうしたの、いきなり訪ねてくるなんて」
俺が聞いてないだけで連絡が来てるかもしれないけど……と思いつつ質問する。
「聞いてよ、恭にぃ! うちのお母さんがわからずやで中学校受験をして恭にぃの家に住み込んでこっちの学校に通いたいって言ったんだけど絶対ダメって言われて……ムカついたから家出してきた!」
うわぁ……行動力のある小学生の家出だった。想像していたよりもずっと最悪の展開。
そもそも明日は金曜日で学校があるだろうにここまで実家から新幹線に乗ってきたってことだよな?
「あ、明日は私の学校、創立記念日でお休みだから。合わせて4連休だからずっとここにいるから」
え!? 創立記念日でお休みって本当に存在するの? う~ん、若干怪しい気がするから後で叔母さんに確認する案件かな?
「えっと、家出したってことは叔母さんには伝えてあるの?」
「『恭にぃに相談してきます』って書き置き残してきたから……お金はお年玉を貯めておいた分を使って新幹線に乗ったの」
元の世界だと心愛ちゃんくらい可愛い女子小学生が一人旅ってちょっと心配になるけどここは貞操逆転世界だからそこまで心配しなくてもいいってことかな……何にせよここまで無事にたどり着いてよかった。
プルルルルッ プルルルルッ
まさにそのタイミングでスマホに着信、話題にしていた心愛ちゃんのお母さん、うちの親父の妹である俺の叔母さんからの電話。スワイプして電話に出る。
「もしもし」
「あ、恭介くん? まさかと思うけどうちの心愛がそっちにお邪魔していたりしない?」
ちょっと焦った声。まあ男とか女とか関係なく子供が家出して隣の県まで行ってくるなんて書き置きしてたら焦るよな。
心愛ちゃんがブンブン頭を振っていないって言えって主張しているけど書き置きしてきたのは心愛ちゃんだよね。首を振るたびに弧を描いている茶髪のツインテールはとっても可愛いけどダメです。ここは正直に話すのが吉。
「あ、心愛ちゃんならいま俺のお腹にしがみついて叔母さんの悪口を言っているところです」
心愛ちゃんが口をあんぐり開けて驚いた顔をしている。いや、当然でしょ? 叔母さんを安心せることが一番大事だから。
「あ、本当にそっちに行ってるんだ……しかも恭介くんにしがみつくってあの子ったら本当に恭介くんに懐いちゃって……本当にごめんなさいね」
「えっと、心愛ちゃんが4連休って言ってるけど本当なんですか? 明日学校をさぼらせるわけにはいかないと思うんで嘘だったらすぐに送り返しますけど?」
「あ、それは本当なの、明日は心愛の学校は休みだから」
「そうなんですね。そういう事なら連休中心愛ちゃんを預かりますよ。
でも、進学に関してはせっかく心愛ちゃんが受験してこの家に来てくれても入れ違いで俺がこの家を出てっちゃうことになると思うんで。あ、そうです、俺広島の大学に進もうかと思ってるんで」
心愛ちゃんの目が見開いて顎が落ちそうになってる。
うん、ゴメンね。5年生の心愛ちゃんが受験して
その後、叔母さんとしばらく話をして26日に叔父さんと叔母さんが心愛ちゃんを車で迎えに来てくれることになった。
話をしている俺のお腹で心愛ちゃんはすっかり拗ねて俺のみぞおちに頭をぐりぐりする様にしている。
「恭にぃ酷い……恭にぃがいるからこっちに来ようと思っていたのに。それにさらに遠くなっちゃうなんて、恭にぃって心愛のことが嫌いなの?」
何だろう、捨てられた子犬みたいな目で見つめられるとちょっと俺の中のお世話魂が疼いちゃうんだけど。兵庫の心愛ちゃんから見たら確かに広島は遠いよなぁ。だからと言って俺たちが兵庫に引っ越すって選択肢はないわけだけど。
なでなで。
心愛ちゃんの頭を撫でてあげて落ち着かせる。
「俺が心愛ちゃんのことを嫌いになるわけないでしょ。心愛ちゃんが中学受験を考えたって聞いて凄くしっかりしてるなって感心したくらいだよ。俺の方こそ心愛ちゃんが知らないタイミングで進路を決めちゃってごめんね」
撫でられて真っ赤になってる心愛ちゃん。あれ? 子ども扱いはイヤだったかな?
「あ、あううぅ、恭にぃ……」
下から見上げる心愛ちゃんの目が潤んでる。う~ん、泣かせちゃうのは困るなぁ。
「アンタたち玄関口で何してるのよ。そんなところにいたら体が冷えちゃうでしょ? とりあえず上がりなさい」
スルースキル満点のうちの母親が顔を出して俺たちに声をかける。家にいたんかい!?
いたなら玄関に出てきてよ……あ、俺と電話した後ですぐに叔母さんから母さんに電話があったのね。心愛ちゃんを4日間も預かるんだからいろいろと話す内容もあるよな。
心愛ちゃんの手を握るようにして家の中に連れて入る。そもそも心愛ちゃんは小さなリュック1つでここに来ているので着替えもまともに持って来ていないっぽい。
こういう時に一番頼りになるのは陽菜なんだけど今はまだ姫川家に車が戻っていないし帰って来てくれるまでもうしばらくかかりそうだ。
とりあえず俺の部屋に連れて行ってスマホでも弄ってて貰うかマンガでも読ませてよう。
「恭にぃの部屋、意外と片付いてる。ゴミ箱の中にティッシュがない! 毎日片づけてるの? ベッドの下にもエロ本がないし」
いきなり家探ししないで~、ついでに女子小学生がティッシュとか確認しないで欲しい。そもそも
なんとなく今日は大人しいから忘れていたけど心愛ちゃんって夏休み再会した時はめっちゃメスガキだったのを思い出す。陽菜の影響でメスガキモードが完全になくなったと思っていたけど男子の部屋に入って思いっきり三つ子の魂百までって感じでメスガキの魂が甦っちゃったか。
ちなみに最近はオナニーをする余裕はありません。
ほとんど毎日陽菜の家にお泊りだし、陽菜ともう1人泊りに来てる女の子を相手にする日々の中で
あ、エロ本は紙袋に入れて本棚の後ろだよ。しずくの同人誌とか流石にうちの母親のスルースキルでもスルーしきらないだろうから(普通に親が泣くレベル)絶対バレるわけにはいかないし……最近はお世話になってないけれどもパソコンに入っているさっきまで整理していた夏休みの陽菜たちの水着写真は実用性抜群なんだけどね。
「パソコン、パソコンの中だ! 恭にぃ、パソコン見せて!」
おお、本丸が陥落の大ピンチ。どうやって言い訳しよう。
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今週は毎日18:00に番外編を公開予定。
今まで扱わなかった貞操逆転世界での生活をテーマにした全5話の約1万5000字の短編です。
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