番外編④ 姫川さん、カクヨムでデビューする(理央視点)

 カラカラカラカラッ~


「失礼しま~す」

 現代視覚文化研究会げんだいしかくぶんかけんきゅうかいの部室の扉が開いて背が低くて可愛らしい女の子が顔をのぞかせる。

 盟友であるしずくドロップロック先生の友達、姫川陽菜さんだ。

 背が低いのに私よりも胸が大きくて、多々良恭介という彼氏がいる女の子。

 初めて入室する現視研げんしけんの部室の中を物珍しそうにキョロキョロしながら私の前まで歩いてくる。棚にずらりと並んでいる同人誌やゲーム女子向けエロゲーの箱なんて見たことないだろうから珍しいんだろう。


「姫川さん、よく来てくれた。今日は姫川さんにお願いがあってここに呼んだ。

 きょうすけは今日はどうしている?」

「理央ちゃんのお願いなら聞いてあげたいけど……恭介くんは今日は剣道部の部活だよ。

 ひよりちゃんにしごかれてるはずだから、向こうが早く終わったら現視研ここに顔を出したいって言っていたけど……」

 私の名前は芥川理央。この碧野みどりの高校で現視研の部長をしている。生徒会長のしずくドロップロック先生と同人誌を作るときは原作担当でリーオというペンネームで活動している。


 いや、そんなことはどうでもいい。今姫川さんの発言の中にがあった。

「恭介は今小烏こがらすさんにしごかれてる?」

「え!? うん、剣道部の部活中だしひよりちゃんは厳しいから」

「姫川さん、ちょっと待ってて剣道場まで行ってくる」

 慌てて出ようとした私の襟をつかんで姫川さんが止める。


 グェッ


 変な声が出てしまった。ズレてしまった銀縁メガネの角度を直して姫川さんの顔を見る。

「なんで止める? 私は後学のために小烏こがらすさんに厳しくきょうすけの観察をしたい」

「ちょ、ちょっと待って……剣道場じゃあそんなことしないから……(いくら何でもしてないよね? 恭介くん……)

 い、いや、そんな事してないから。なんでそんな風に思ったの?」


「いや……『しごく』って手に持った細長いものを片手でゆるく握り、引き動かすことだから。つまり、今手コキの真っ最中。やっぱり見学に……」

 言い募る私に大事ななにかはバレてないみたいな表情の姫川さん。やっぱり何か隠し事をしている?

「扱くって言葉には厳しく鍛えるって意味もあるから。と、とにかく用事を済ませようよ」

「まだ何か誤魔化している。ひょっとしてしずくだけじゃなくて小烏こがらすさんもセフレ?」(理央はしずくが恭介のセフレと思い込んでいます ※262話参照)


 ギクゥッ


「姫川さん、今ギクゥってした……私はちゃんと順番待ちしてるのにきょうすけにセフレに誘われていない。抗議してくる」


 ぎゅぅっ


 もう一度部室を飛び出そうとした私は今度は姫川さんに手を掴まれ引き留められる。

「ひ、ひよりちゃんは2番目にセフレになったから、だから理央ちゃんよりも前に予約してたからズルじゃないから(ひよりちゃんゴメンなさい)」

「ん、そういう事なら仕方ない。またきょうすけにセフレにしてくれるようにお願いしておく」


 そんなやりとりの後で姫川さんはすっかりぐったりゲッソリしている。体が弱いらしいからあんまり疲れさせてはいけない。


「ん、本題。姫川さん、カクヨムでデビューするつもりない? 夏休みの同人誌作り、姫川さんの『貞操逆転世界』のアイディアと胸キュンな男子のお話。すごく良かった。

 私はしずくの原作以外はカクヨムというネット小説を発表できるサイトでリーオの名前で小説を発表している。読んでくれた人が感想をくれたりして面白い。

 姫川さんならたくさんPVページビューと☆を稼げると思う」


「えっ!? 私が小説? うう/// 私の書いたお話を読んで貰うなんて出来るのかな?」

「私が保証する。しずくの家で姫川さんのお話を聞いていた時、キュンキュンしてパンツがびしょびしょになってトイレでオナニーしてスッキリしてきた。そのぐらい興奮した」

 それは本当のことだが、あの時はすぐそばにきょうすけがいたのもあったかもしれない。最近の私はきょうすけのそばにいるとちょっと濡れやすい。やっぱりセフレにして貰うのがいいかもしれない。


「そ、そっかぁ……あのね、理央ちゃん。私ずっと日記を書いていて、そこにはきょうっ……男の子の凄くかっこいいエピソードがいっぱい綴られていて、そういうのを発表したらみんな楽しんでくれるのかなぁ?」

「その日記、見てみたい」

「エエッ!? それはダメだよ。恥ずかしいし」

 姫川さんが凄い勢いで首を横に振っている。どうやら恥ずかしいだけじゃなくてみせられない事情がありそうな……小説の取材として面白そうと思っただけに残念。




「えーと、ユーザーIDが@hinakyouで……メールアドレスがhina0625@exweb.ne.jp、パスワードはky・u・uke0606っと……これで送信っと」

 姫川さんが登録メールを開いて本登録まで済ませた。現視研のノートパソコンは結構古い機種だけどカクヨムくらいなら問題なく動く。


「えっと、ペンネーム? どうしようかな」

「とりあえず後でも変えられるから適当でいい」

「そうなの? じゃあ『多々良 陽菜』っと」(←陽菜の考える適当)

「次は小説のタイトル『貞操逆転日記』でいいと思う」

「うん、『て、い、そ、う。ぎゃ、く、て、ん。にっ、き』と……ゴメンね理央ちゃん、パソコン打つのが遅くて」

「気にしなくていい。誰だって最初は遅い……書いていれば速くなってくる」

「そっか……えっと、じゃあ第一話『恭ちゃんへ……』」

 それから1時間ほど姫川さんは真剣な表情でパソコンに向かっていた。


 カラカラカラカラッ~


「お待たせ~陽菜。あれ? 何してるの?」

 きょうすけが現視研の扉を開けて入ってくる。その細いのにちょっと逞しい体と優しい眼差しを見ると、なんとなく私の心臓が弾むように元気になる。

 最近きょうすけを見ると体の芯が疼くのを感じる。セフレにしてくれないせいだと思う。


 きょうすけがパソコンの画面をのぞき込んで何故か真っ青な顔になる。

「陽菜!? これってひょっとしてもう公開しちゃったの?」

「ううん。今理央ちゃんに勧められて下書きしてるところだから公開は時間設定して後日だよ」

 明らかにほっとした顔で胸をなでおろすきょうすけ。ついでに姫川さんの頭を撫でている。うらやましいから私も撫でて欲しい。


「芥川に悪気がなかったのも分かるし、陽菜にちょっとネットリテラシーが不足してたのも今回分かったから、これを公開するのはもうちょっと待ってくれないか?

 みおとしずくにも相談するから。あと陽菜、カクヨムに書くのは日記は禁止であくまでも日記をモデルにした小説にして欲しい」


 それからもう一回姫川さんの頭を撫でてから姫川さんと一緒に帰るというので私も途中まで一緒に帰ることにした。

「じゃあまたな芥川。今日みたいに陽菜に声をかけるときは一応俺にも声をかけてもらえると嬉しい。でも陽菜のためのを思ってくれたんだから嬉しいよ。ありがとう」


 ん、頭を突き出す。感謝してるならして貰えるかもしれないし。

 きょうすけは一瞬姫川さんと顔を見合わせる。姫川さんが頷く。


 なでなで


 きょうすけが私の頭をなでなでしてくれた。

「んっ」

 そのまま、二人と別れて家に帰る。その日は夜までなんだかすごくポカポカして幸せだった。



 後日、「みどりの」という学校名からペンネームを取った姫川さんの「幼馴染と生き別れたが貞操逆転世界で友達を作って幸せになりたいと思う」が意外なヒットになってデビュー作なのに100万PV、☆を1000個集めるとはカクヨム歴4年のこの理央の眼をもってしても見抜けなかった。

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初の貞操逆転世界の女の子視点はまさかの芥川理央でした。

脇役中の脇役である理央がメイン二人と絡んで主役を張る日が来るとは。

ちなみに作中時間は2023年11月9日、まさに今日の設定です。

今日は理央ちゃん記念日です。


この人の視点で書かれた話を読んでみたいとかあればリクエストをお願いします。

☆1000記念と100万PV記念のSSとかなければ16日が北野ゆかり先輩SS、23日が心愛ちゃんSSになる予定です。

(リクエストを受けたことがある心愛ちゃんが後なのは理由があります)


ちなみに現実世界のみどりのは残念ながら貞操逆転世界からやってきた女子高生ではありません。ここに謹んでお詫びいたします。

そして、今だに☆1000個集められていない現実みどりのは推理小説好きの女子高生の陽菜に抜かれてしまいました。ちょっと悔しい。

来週あたりに☆1000個記念SSを書けたら嬉しいですけどね。


追記 完結直後の9/2にX(Twitter)にて貞操逆転世界ものばかりを読んでると言われる投稿者さんから「こっちはR15くらいの傑作。ちなみに文字数が約68万文字なので読み終えるまで15~20時間くらいですかね」と評価いただきました。

最後までついてこられた読者様のどなたかだと思うので本当にありがとうございます。

レビューやコメント欄でも傑作まで褒めていただいたことは流石に無かったんで面映ゆいけど嬉しかったです。ありがとうございました。

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