90万PV記念SS 「みんな落ち着かない感じだったね」

「90、九十、きゅうじゅう、きゅーじゅー……」

「ん、陽菜、さっきからぶつぶつ言ってどうしたの?」

 学校からの帰り道。隣にいる陽菜がブツブツと何かを言い出したので質問してみる。


「いや、今頭に90って数字が浮かんでて……正確には90万なんだけど……これに関する重要な何かがあったはずなんだよ」

 一体何の話だろう。小説で読んだ話とか?


「小説でも読んだの? 90じゃなくて19とか9とかは?」

「う~ん、9だったらケメルマンの『9マイルは遠すぎる』とか名作もあるけど……数字で言うとしずくちゃんか……」

 ガバッ! 思わず陽菜の両肩を掴むようにして自分の方を向かせてしまう。

「陽菜! しずくの数字の話を詳しく!」

 鬼気迫る俺の表情にビックリしたのか陽菜がちょっとドン引きしている。


「えっと、恭介くんに教えてもしずくちゃんは怒らないと思うから言うけどしずくちゃんがこの前まで90㎝だったんだけど、最近使っていたFカップのブラだとサイズが合わなくなって来たって言ってて……」

 思わず通学路で両手をつくようにして四つん這いになってしまう。

 そうか……まだ成長してるのか……成長期なんだね。なぜだかひよりに謝りたくなってしまう。


 下から顔をあげて陽菜を見上げると腕を組んでまだうんうん考え事をしておられる。下から見上げた陽菜の胸は組んだ腕で寄せてあげられていつも以上に強調されている。

 陽菜ってみんなの中で一番おっぱいが大きいからあれって90㎝オーバーってことだよな。身長低いのに凄い!


「90、九十、きゅうじゅう、きゅーじゅー……う~ん」

 陽菜が立ち止まって悩んでいるのを下からたっぷり眺めてからまだ満足は出来ないけど立ち上がってひざをパンパンと払う。

 もちろん立ち上がってるのはケモノの槍もだけど。


「さっき言った90万の方が大事なんじゃないか? 切り離すと意味が分からなくなるとか……90万かぁ、900万だったら3000の二乗とかだけど。超人強度だとブロッケンマンとブロッケンJrが90万パワーだったかなぁ」

「超人強度って?」

「ああ、キン肉マンが95万パワーなんだけど……ってここで超人強度を聞いてくる時点で陽菜の頭にブロッケンJrの超人強度が浮かぶわけないし」


「直角は90度だし、原子番号90はトリチウム。サッカーの試合時間が90分」

「アブさんの背番号は90番」

「ん、またマンガの話? 恭介くんはもうちょっと真面目に考えて」

 陽菜がぷんすか怒ってる。怒ってる陽菜も本当に可愛い。


 いや、これ絶対どうしようもないオチだから。一生懸命考えてもケメルマンの「9マイルは遠すぎる」みたいに意外な真相なんて出てこないでしょ?


「あ、ケメルマンの『9マイルは遠すぎる』が好きな人は米澤穂信先生の『心当たりのあるものは』(遠回りする雛収録)とか島田荘司先生の『傘を折る女』(UFO大通り収録)とかがお薦めだから」

 とうとう陽菜が俺と同じように真面目に考えるのを止めてしまった気がする。

 そろそろどっかで誰かが頭を抱えてる気がするし……あ、逃げて仕事に行った!! 楽屋オチはやめろ!


 プルルルルル……ピッ


 俺の電話にしずくから着信。電話を取る。

『あ、恭介さん。夏休みに協力して貰った『貞操逆転世界』の同人誌、利益が確定したから報告するね。えっと、純利益が90万円で……恭介さんと陽菜ちゃんの原作料をそこから出すから……え!? 私のバストサイズ? 最近94㎝になったけど……』


 次々と電話がかかってくる。


『あ、恭っち? あのさ、ずいぶん前にバズった例の水泳部の崩壊事件『傾の男子、水泳部の魔の10分』の元データが間違ってアップされちゃってさ……申し訳ないけど90万再生されちゃったんだけど、うん、そう、恭っちの乳首が丸見えの無修正のやつ。あ、もしかしてお仕置きですか?(ウキウキ)』


『恭介、昨日した刀剣女子の動画、そう、恭介に撮って貰ったのどかとの立ち合いのやつだ。あれがって今90万再生されているんだが私のの通知がとまらなくてさっきからぴんひゃらぴんひゃらずっと鳴り続けてるんだ。どうにかしてくれないか』


『きょーちん、ごめんね。まるには、まるには90万のネタが何もないんだよ。だから今から1から90万まで数えていくから聞いてて欲しいんだよ。い~ち、に~、さ~ん、し~、ご~、ろ~く、し~ち、は~ち、きゅ~、じゅう、じゅういち……………』


 ありがとうみんな……多分全部違うけど気持ちだけでも嬉しいよ。のどかは途中でやめていいからね。そのペースで数えていたら数え終わるのは10日後くらいだと思うよ。


「ねぇ恭介くん、なんだかみんな凄く焦っていたみたいだね。みんな落ち着かない感じだったね」

「そうだね、このままだとSSが終わらなくて落ち着かないから……」

「ひょっとしてこの話ってオチ付かないとか言うダジャレオチじゃないよね、恭介くん」

 俺は陽菜と顔を見合わせるのだった。ちゃんちゃん♪


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 というバカバカしいお話でございました。

 90万PVありがとうございます。

 こんなにたくさんの方に読んでいただけることがとても嬉しいです。


 こんな感じで突発的にSSを発信するかもしれないのでよろしければフォローはそのままでお願いします。


 ※ハリイ・ケメルマンの「9マイルは遠すぎる」とは、推理小説の名短編。

 「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という一文から想像もつかない結論を導きだす有名なお話。

 ちなみに陽菜は安楽椅子探偵大好きなのでこの話も大好き。

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