最終話 ⑲ヒナちゃんあのね……

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 ピィィィィィーーーーー


「16時35分、ご臨終です」


「陽菜ぁぁぁっ」「陽菜ちゃんっ」「陽菜ちゃん」「陽菜っち」「陽菜ちん」「陽菜ちゃん」「陽菜」「姫川さん」「姫川先輩」「お母さん」「母さん」「陽菜お母さん」「陽菜母さん」「陽菜ママ」「陽菜さん」「おばあちゃん」「陽菜ばぁ」「陽菜おばあちゃん」……


 なに? このたくさんの人の声? 私こんなにたくさんの子持ちじゃないし。

 誰よ、おばあちゃんって言われるような歳じゃないんだから。


 ――――――――ッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ


「し、信じられん。完全に心停止したはずなのに心音が……それに自発呼吸が戻って!?」

 お医者さんの声に私の体にすがりついていた大きな体が驚いたように離れて私の顔を覗き込んでくる。


 う、嘘でしょ? 少し白髪が髪に混ざっているけど覗き込んでくるその顔は夢にまで見た恭だった。


 目が見えにくい。もっとよく恭の顔が見たい。

「恭、もっとよく顔を見せて……」

 慌てたようにその男の人は私にメガネをかけてくれる。ああ、やっぱり恭だ。


「ああ、恭……会いたかったよ。ずっとずっと……謝りたかった。私ね……愛してたのはあなただけだった……ゲホッゲホッ」

 一度に話しすぎたのか、この身体も調子はよくないどころかもう限界みたい。


「ヒナ……ヒナだ。ヒナだよな。なんて言えばいいのか……とにかくひさしぶり、元気だったか?」

 そう言って恭が抱きしめてくれる。鍛えてるのか私と同じ年のはずなのにちゃんと逞しい胸板がある。


 それにしても今死んだ私に元気だったかって……恭はやっぱりどこか抜けてる。そんなところが可愛いんだけど。


「夢、なのかな? 今私死んだんだって思ったんだけど……」

「うん、うん。夢でいい。俺ももう一度会いたかった。ずっとずっと謝りたかったから」

 恭に謝られる? 何も謝られることないんてないよ・・・・・・恭はいつも私にすごく良くしてくれた。そういう記憶しかないから。


「ゴメン、俺がちゃんとヒナの気持ちを聞いていれば、中学一年生の時にヒナが入れ替わったってちゃんと理解できるまで話が出来ていればあんな事故にあわせないで済んだのに。

 それに、先に死んじゃってゴメン。

 俺はね、ヒナが生まれた世界でヒナと入れ替わった陽菜とヒナを産んださちえさんとずっと一緒だったから。ごめんな、寂しい思いをさせて」


 寂しくなかったって言ったら嘘になるけど、お母さんやしずくたちがいてくれたから。養子だけど娘までいたんだよ。

 そう思って恭の後ろを見るとお母さんにお父さん、しずくにひよりにみおにまるに、だれか分からないけど双子みたいそっくりな美人二人組に、私と恭に似た双子にしずくに似た子、ひよりに似た子、みおに、まるに、それぞれに似た子供がびっくりするほどたくさんいて、恭ってこんなにたくさんの家族に囲まれて幸せに過ごしていたんだ……なんだか私の罪が……絶対に許されない私が許されていく気がした。


「こっちの世界の陽菜は幸せだったんだ……良かった。本当に良かった。私、あの子の幸せを全部奪っちゃったって……恭のことを取り上げて殺しちゃったと思っていたから」

 涙が止まらない。陽菜が幸せで、安らかに旅立ったことはなんとなくこの身体に残っている感情ぬくもりから伝わってくるみたい。こんなに多くの顔に囲まれて……


 ああ、陽菜にも会いたかったなぁ。ひょっとしたらあの世で会えるのかな?

 あ、でもあの日記を書いた陽菜だから、すぐその辺で恭のことを見守っているのかも。


「ヒナちゃん、お母さんよ。頑張ったのね。

 話し方を聞くだけで分かる。ヒナちゃんがどれだけむこうの世界で頑張ってきたのか。お母さんね、お母さんヒナちゃんのこと自慢の娘だって思ってるから。最後に会えて嬉しかったよ。会いに来てくれてありがとう」

 お母さんが手を握ってくれる。幸せすぎてもう涙で何も見えないよ。

 もっとお母さんの顔と恭の顔が見たいのに。


「「「ヒナちゃん、ヒナちゃんのこと忘れたことなんてなかったから」」」

 しずくとみおとまるかな? もうっ、こっちで死ぬときまでも一緒とか反則でしょ。

「みんな大好き、愛してる……」

 最後にそう言えた自分を褒めてあげたい。

 ゴメンね恭、こんな短時間で2人も看取らせちゃって。恭がモテすぎるのが悪いんだからね。

 恭があの世に来たら陽菜と2人でお説教してあげる……ね……


 ピィィィィィーーーーー


「16時42分、ご臨終です」

「ヒナァァァァァァァァァァッ!」

 恭に看取って貰えるなんてこんないい夢を見させてくれる神様のことをちょっと見直しちゃった。本当にイジワルばっかりする神様だと思ってたけどね。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





「えっと……はじめましてかな? 初めて会った気なんて全然しないけど。

 2人で待ったら何年だって多分あっという間だと思うよ。お話したいことがいっぱいあるの、そっちの話も聞かせて欲しいな。

 ヒナちゃんあのね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る