第324話 ⑱臓器移植コーディネーター
大学を卒業し私は社会福祉士になった。
就職を希望していた地元の医療法人に就職も決まり自分の経験を積みながら、社会の役に立つことの喜びと働くことの大変さを学んだ。
人の悩み事に寄り添いそれを解決する方法を一緒に考える日々。そんな日々の中で臓器移植コーディネーターの募集が出るのを待ち続ける。
一番やりたい仕事は臓器移植をしたい人たちを繋ぐコーディネートの仕事だけど毎日の社会福祉士の仕事にも誇りを持って取り組む。
しずくも2年遅れて卒業して医師になった。手先も器用で真面目で冷静なしずくが外科医として名をはせる日は遠くないだろう。
ひよりは実家の剣道場を大きくしている。まるはひよりの道場の幼年部門を立ち上げて人気を博しているようだ。
みおはただのメイクだけでなく日本では数少ないエンバーミング(遺体を生前のように見せるの化粧)のできるメイクアップアーティストになっている。趣味で特殊メイクまで出来るのでいろいろと変わった現場を駆け回っている。
そんな日々を過ごしてついに臓器移植コーディネーターの募集がかかって私は採用された。
それからは日本全国をレシピエントとドナーを繋いで飛び回る日々。
上手くいくときもあれば移植を待ち続けていた患者さんが間に合わずに死んでしまい涙を流した日もあった。
この頃には私の顔の傷あとの肌の色もほぼ見分けがつかないくらいになっていて薄化粧で済むようになっていた。男性から交際を申し込まれたりしたがお断りしている。
今の私は仕事が恋人ということでいいのだと思う。
忙しく過ごす日々の中で、何度か体を壊した。発熱や体調不良だけで済んだこともあれば検査の結果、乳がんだったこともある。
しずくの勧めで定期的に人間ドックにかかっていたおかげで早期発見できてしずくのオペで左の乳房の切除手術を行った。32歳の時だった。この時点ですでに私自身の心臓の移植から20年近くが過ぎようとしていた。しずくがいなかったら危なかったかもしれない。
手術後の病室にみんながやってくる。
「しずくのおかげで助かったよ。臓器移植後の20年生存率は50%、これで生き残ってる半分の方だね。移植が終わった患者さんに力づける話が出来るよ」
「もう、ヒナちゃんは自分の体よりも患者さんなんだから。私はヒナちゃんが一番大事だからね」
「ヒナはあと50年くらい生きそうだ。患者のためなら100年だって生きるんじゃないか」
「ヒナっちが死んだら死に化粧は私がしてあげるから」
「縁起でもないことを言うんじゃないんだよ。みおちんにはお仕置き」
まるのデコピンが決まる。この子たちは何歳になってもあの頃のまま私の友達だ。
コーチとして世界水泳に行っている村上からは「元気になったらまた会おう」というメールが届いていた。
「あのさ、入院中でこんな状態の私がこんな話をしたら怒られちゃうかもしれないんだけど、私、養子をとろうかと思うんだけどどう思う?」
元透析患者の女子高生、母親は早くに他界して父親と移植待ちしながら人工透析で日々をやり過ごしていた。その子と父親の乗っていた車が事故に巻き込まれて父親が死亡。事故の直後にそのことを知った私は父親が持っていた臓器提供意思表示カードを見つけて娘さんへの移植をすることが出来た。
元々父親は自分の腎臓を一つ譲ろうという希望を持っていたのに献腎移植になってしまったけど。
今は傷ついて心を閉ざしている天涯孤独の女の子、私は彼女に自分を重ねてしまっていた。
「ヒナちゃんが望むなら協力するから」
そんなみんなの力強い言葉はいつも私を前に進ませてくれる。
「おかあさん、おかあさん。私を残していかないでよ」
私の体にすがりついて泣いてくれる私の
あの乳がんの手術から今日までの年月は、心臓を移植をしてから乳がんになるまでと同じ以上の長いものになっていた。
今の年齢は普通の人には若すぎるけど心臓を移植した私には奇跡の生存年数だったと思う。しずくたちがそばにいてくれなければとっくに死んでいた。
多臓器不全、もはや全身がボロボロになってしまったけど何十という笑顔を、人と人を結び付けられて私は満足している。
すがりつく娘の頭にどうにか手をのせる。やせ細って見る影もなくなった私の手……
「しずく、ひより、みお、まる。お母さん……お父さん……本当に……本当……にありがとう。最後に……ゴメン……ね、この子たのみ……」
ピィィィィィーーーーー
「ヒナッ」「ヒナちゃん」「ヒナッ」「ヒナ」「ヒナちゃん」「おかあさん」「ヒナ」「姫川っ」
最後に聞こえたのはみんなの声。こんな多くの人に見送って貰えるなら私の人生悪くない。ああ、最後に会いたかったなぁ……恭……
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ほぼ同時更新にて最終話をアップしております。続けてお読みください。
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