第320話 ⑭『仮面の姫君』と『前髪の女神』
「……ということで私は岩清水しずくが生徒会長にふさわしいと思います」
体育館で全校生徒相手にしずくの応援演説を締めくくった。会場からの拍手を背に体育館のステージを降りる。季節は1学期の終わりになっていた。
もっとも私が応援演説しなくてもしずくは生徒会長になるだろう。何しろこれは今までに不信任になったものなどいないという「生徒会長信任投票」の応援演説なのだから。
2年になってすぐにしずくに言われた生徒会副会長の打診だが、しずくは本気だったらしい。
しずくは1年の時も委員長として学年を引っ張っており、その上で学業でもトップ、最近は私のアドバイスで昔のようなメガネを止めてコンタクトにし髪型も変えたのでお嬢様然した風格まで漂って生徒会長選の圧倒的本命と言われていた。
結果として対抗候補不在の信任投票になってしまいしずくはガッカリしていた。
私なんかは信任投票だと楽でいいなって思ってしまうがしずくは「学校のことを考えるとちゃんと生徒会長選挙をして意見を競わせたりみんなで学校のことを考えるチャンスだから」言って生徒会長選をやりたがっていた。
流石というかなんというか……恭が生きていてしずくの想いを知ったら対抗馬になって引っ掻き回したりしたのかもしれないが恭はもうこの世にいないから。
「う~ん、信任票91%か~。結構いったね。ありがとうヒナちゃん」
しずくが言ってくるが取り逃した部分の信任票の多くはサッカー部やラグビー部の関係者といった私に対するわだかまり持っている人たちなので実際は95%とかもっと高かったんじゃないかと思う。
「私じゃなかったらもっと高かったんじゃないの? 私への反感が結構反対票に繋がっちゃったみたいだし」
私が少し申し訳なくてそういうとしずくはニヤッとちょっと悪そうに笑う。
「なに言ってるのよ、ヒナちゃん。この学校で『仮面の姫君』と『前髪の女神』の二つ名を持っているヒナちゃんに応援して貰えなかったらもっと低くなっちゃったんじゃないの?」
もう、ニヤニヤして。いくらしずくでも怒るからね。
いつ撮られたのかよく分からないんだけど、あのマスクを付けていた頃に撮られたしずくと笑い合っている私の写真がSNSで結構バズったのだ。アップしたのはカメラが趣味で光画部っていう部活にも加入してるみおなんだけど。
自分でも自分がそんないい笑顔で笑ってるなんて思っていなくて、それぐらい可愛くて幸せそうな写真だったからビックリしてしまった。
おかげで付いた二つ名が「仮面の姫君」である。せめて私の苗字が姫川じゃなければもっとましだったんだろうけど。
その写真をみおが写真コンテストに出して金賞なんてとるから……学校でみおが全校朝礼で校長先生から表彰状を受け取るときに校長先生が写真のタイトル「仮面の姫君」を口に出すから学内の全生徒が私の方を見るという地獄のような羞恥プレイを味わう羽目になった。その頃には仮面をしてなかったんだけどね。
で、4月にはプール開きして水泳部で頑張っている村上を応援してやるために水泳部のマネージャーになった私。私は顔の皮膚の移植用の傷跡が太ももにあるし足を見せるのがイヤだからいつもジャージを履いてプールサイドをうろついていた。
右の顔の皮膚は移植した皮膚だからまだ色が完全に一致してないからみおに貰ったウィッグで右半分の顔を隠しながらマネジしてたんだけど、水泳部にめちゃくちゃ美人がいるという噂がどこからか流れた。
それに加えてそれからの水泳部が連戦連勝。私は幸運と勝利の女神扱いされて、「幸運の女神は前髪が長い」という中途半端な聞きかじりから「前髪の女神」なんてひどい二つ名をもう一つ付けられることになった。
違うからね! 幸運の女神は髪の毛が前髪しかなくて後ろはつるつるだから。だから幸運をつかむためには事前に手を伸ばす準備をしろって例えなのだ。
誰かが中途半端な知識であだ名をつけるから。
最近は男子水泳部が練習しているのに男子がプールのフェンスの外でこっちをじっと見ていることがある。暑くなったから「前髪の女神」が生足になったり競泳水着になるんじゃないかって期待されてるのだ。誰が着るか~っ!
もともと女子水泳部におっぱいも大きくて美人のショートボブの美少女女子高生スイマーとして有名な北野ゆかり先輩もいるからギャラリーとして集まっている男子生徒の数はかなり多い。
たまにグラウンドをランニングしているひよりがフェンスの下でたむろしてる男子を追い払ってくれる。ひよりの率いる「ヒナちゃんを守る会」は順調に人数が増えているらしい。勢いで鳥のヒナを保護する生徒まで出てる始末でもう何が何だかよく分からない。
私の名前は漢字で「陽菜」だから! もう14話もやってきたから忘れられてるかもって言ってもヒナだからって鳥の方の「雛」じゃないからね!
「ヒナ、こいつらが迷惑をかけてるなら『前髪の女神親衛隊』については『ヒナちゃんを守る会』で潰すけどその必要はないか?」
たむろして私の生足待ちしてたのって女神の親衛隊なの? もう「親衛隊」も「守る会」もどっちも潰れたらいいと思う。
「ヒナちんにも今度の剣道大会の応援に来て欲しいんだよ。『前髪の女神』の勝利の力でまるたちを応援して欲しいんだよ」
いつの間にかひよりに懐いたまるがひよりと一緒に剣道部に入って次の大会はレギュラー入りするらしいのだ。運動神経抜群だけど集中力が続かないまるをひよりはうまい具合に指導して修行させることが出来るそうだ。
私たち3人がプールのフェンス越しで会話をしていたら通りがかりのみおが写真を撮っていく。その腕には卒業アルバム委員の文字。
「うんうん、青春って感じだね。卒アルに使いたいけど後ろのゴリラのせいでヒナっちがまるで檻に一緒に閉じ込められた囚われのお姫様みたいだわ」
いや、私とこのゴリラは関係ないから、あと姫やめれ! っていうか村上!? アンタいつの間に私のすぐ後ろまで来てるの?
「いや、今日の最後にマネージャーにタイム測って欲しくて」
おお、そうだった。私は水泳部のマネージャーだった。
「あはは、ゴメンね。水泳部のエース様をないがしろにしちゃって。大丈夫! 私がちゃんとゴリラでも参加できる大会に連れていってあげるから」
「うるさいわ。毛深くて悪かったな! もう姫川のおもちゃになって除毛クリームなんて絶対使わないから」
モジャモジャをつるつるお肌にした結果、プールにたくさん女子が肉体美を見に来てくれてモテかけたのに……う~ん、村上はやっぱりまだ恭のことを忘れられないのかな?
そんな感じで平和に過ぎていった高校2年生。勉強も追いついて部活に生徒会に忙しくて、あとから思えば凄く輝いていて楽しい時期だったなって思う。
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ヒナアフター第14話となります。
高校2年生のヒナはいろいろと忙しく水泳部のマネージャーをしながら生徒会長選挙(こちらでは信任投票ですが)に参加したり充実した1年間だったようです。
恭介たちの青春にも負けない青春を送れたのは沢山の友達との縁を恭介が残して行ってくれたおかげでもあり、ヒナ自身が頑張った結果でもあります。
また不穏な引きで申し訳ないですが次回もお付き合いいただけると嬉しく思います。
評価で☆☆☆をいただけると助かります。☆が増えると多くの読者の目に触れます。
特にここから先のヒナアフターは魂込めて書いたので一人でも多くの読者に届いて欲しいです。
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