第319話 ⑬マネージャーも部員扱い

「あれ? 村上もこのクラスだったの?」


 2年5組の教室に入るとそこにはゴリマッチョこと村上の姿もあった。久しぶりの教室だから入るのにちょっと緊張してたのに見知った顔のおかげで力が抜ける。

「おはよう姫川。なんだよ、こっちは掲示板見て希望通りに姫川と同じクラスになれたって喜んでたのに。

 姫川は俺の名前に気付いてもなかったのかよ」


 しずくたちと同じクラスなのが嬉しすぎて他に目なんて行ってなかったわ。

「あはは、ごめんごめん。って、私と同じクラスになりたかったって……ひょっとして私のことを……? ごめんなさい、私好みのタイプは多々良恭介なんで」

「なにナチュラルに人のこと振ってるの? 俺も姫川みたいなのタイプじゃないからな。

 お前のこと守ってやるって約束しただろ。保健室の事件じゃ何もできなかったから、同じクラスになれるように先生たちに頼んでたんだよ。そのおかげで一緒のクラスにして貰えたのかどうかは分からないけどさ」


「ほう、村上もヒナを守りたいというのか。ヒナに男が近づくなど許さんと言いたいところだが、私と協力してヒナを守ってもらえるならありがたいな。

 私の作った『ヒナちゃんを守る会』への入会を許可してやる」

 ちょっと待ってひより!? 「ヒナちゃんを守る会」って初耳なんだけど? それに私は守られなくちゃいけないほど弱くないからね。


「ん、なんだヒナ? ああ、『ヒナちゃんを守る会』か。私の力不足でまだ会員数は少ないが風紀委員全員としずくやを入れて今35人ほど会員がいるぞ。村上が入れば36人目だな」

 頼むからそういう怪しい会を立ち上げたいなら、護衛対象の私の許可を取って欲しい。心配してくれてるのは分かるし、今でも逆恨み的に私のことを嫌っているサッカー部やラグビー部関係者は多いけど。


「前髪伸ばしたんだな。俺があげたマスクよりもそっちの目立たなくていいな。似合ってるし」

「似合ってるって評価はどうもありがとう。

 でもこんな短時間で前髪だけ伸びるわけないでしょ? いくら春休みがあったからって人の髪はそんなに早く伸びないから。これはウィッグ。女の子にモテたかったら『髪型変えた? 似合ってるよ』ぐらいにしておきなさい」


 村上がこれから先、恭のことを断ち切って新しい恋を女の子と始めるときのためにアドバイスくらいはしてやろうと思う。

 こいつはいいやつだし、本当にいい体してるしモテると思う。毛深いのは難点だからまずは試しに除毛フォームでもお薦めして脱毛させてみるか?


 それで女子からの評判が良ければ最終的には全身脱毛も視野に入れて……ってついついメイクでその人のベストをどうすれば作れるかって考える癖が出てしまう。

 あ、ちなみに私は毛深いの自体は平気だと思う。村上とどうこうなろうなんて全く思わないけど。


 1学期の始業式が終わって朝のホームルームで担任の挨拶があったけど谷垣ちさと先生だった。

 保健室で聞いていた通り正規雇用の先生になって担任となることになったようだ。

 谷垣先生のことは結構好きなので嬉しい。私の復学に尽力して下さった高田先生が担任する教室でもう1年学ばせて貰いたかったが、今年から学年主任になられるそうだ。


「えっと、今年一年はこのメンバーで体育祭や文化祭に参加していくことになるからみんなで仲良くしてね。2年生は学校の中心になって引っ張っていく時期だし自分たちも受験を気にせずめいいっぱい楽しめるんだから思いっきりやりなさい。先生がフォローするから。ただし相談だけはきちんとすること。

 あと、姫川さんみたいに大学進学を目標にするなら遅刻や欠席は極力しないようにね。姫川さんは崖っぷちだから推薦なんかの可能性を残すなら本当に頑張って内申点を上げていってね」


 いい話のオチに私を使わないで欲しい。……けど、今のって私が心を入れ替えて大学受験を目指してるってことを分かりやすくみんなに伝えてくれたんだよね。

 その証拠にみんなで爆笑した後で教室の空気が頑張ってって感じで私にめちゃくちゃ優しくなった。やばい、目が潤んで涙がこぼれちゃいそう。


 必死で目に力を入れて泣くのをこらえていたら、まるに見つかって爆笑されて教室中が笑いに包まれてしまった。

「ヒナちん、変な顔なんだよ。泣きそうなんだったら泣いちゃえばいいんだよ」

こらっ、まる、言ってることは正しいけど変な顔は余計だ。


 クラスの中での私の弄られキャラが決まった瞬間のような気がするホームルームだった。

 しずくはクラス委員長に立候補。私は保健室の養護教諭の橋口先生に会いたいから本当は保健委員になりたかったけど、感染症にかかりやすい自分が保健委員をやって、誰かを保健室に付き添って病気が感染ったとかなったら気にさせちゃいそうだからなぁ。仕方ないので図書委員になった。

 今までは委員なんて絶対にやるつもりはなかったけど少しくらいみんなの役に立ちたいし、谷垣先生から内申点について注意されたわけだしね。


 今日は始業式とホームルームで終わりだから帰る準備をしていると村上が声をかけてきた。

「姫川、部活やってみる気はないか? 水泳部なら男子も女子もマネージャーを募集しているし、マネージャーも部員扱いだから内申点が必要なら俺が口利きするから」

 なるほど、1年生の時の遅刻に欠席のマイナスを打ち消すにはプラスになることも必要だ。

「あら? それなら私と一緒に生徒会をやらない? 私が生徒会長になるからヒナちゃんは副会長になればいいわよ。生徒会なんて内申点だとトップクラスに有利なんだから」


 はぁ? 私みたいなのが生徒会副会長って……


 それ以前に私を巡って火花を飛ばさないでよ! 目の前でお互いを見据えて目をそらさない友人二人を見てため息が出そうだった。

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 ヒナアフター第13話となります。

 高校2年生になりました。ヒナの保健室登校も終了して普通に教室に通うようになりましたが、奇しくも貞操逆転世界に生きている恭介と同じ2年5組に配属されました。

 世界が違うので会うことはないですが、同じ時間同じ教室で恭介と一緒に授業を受けています。ひょっとすると隣り合った異世界だけど隣の席で授業を受けていたりするかもしれないですね。


 評価で☆☆☆をいただけると助かります。☆が増えると多くの読者の目に触れます。


 特にヒナアフターは魂込めて書いたので一人でも多くの読者に届いて欲しいです。

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