第318話 ⑫もらった前髪のウィッグ

 3月が終わり4月になった。私はどうにか落第せずに2年生に進級できた。


 特例として学年末テストで1年の1学期の中間テストを受けさせてもらって進級させて貰っている。つまるところ私の実力はまだ本当には2年生に到達できてないから春休みも懸命に勉強している。

 どういうことかというと私の成績で下駄をはかせるのは無理と判断した先生方は3学期末テストの代わりに1学期の中間テストを再試験してくれたのだ。

 再試験の結果は8割がた点をとれていた。この点数を持って1学期の中間の点と入れ替え、一学期の中間の赤点混じりの点数を三学期の点数とみなしてもらいどうにかクリアした形だ。

 1学期末や2学期は恭に教えて貰ってどうにか赤点回避していたおかげで進級できた。いやいやでも恭に教えて貰ったおかげで進級できたのだと思う。


「ヒナちゃんは応用問題に露骨に弱いよね。あとひっかけ問題には片っ端から引っかかる。ひょっとして素直すぎる?」

「はいはい、私はどうせバカですよ~だ」

 しずくが家に来て家庭教師をしてくれるが、問題集の採点中に言われた言葉にちょっとカチンと来て反抗的な態度をとってしまう。


「あら、たった2ヶ月でここまで勉強できるようになったのにバカなわけないじゃない。それに素直だからここまで伸びたんでしょ?

 どっちかっていうと長文問題とかひっかけ問題の方が文言もんごんにパターンがあるからそれを覚えちゃえばいいだけだから」

 手を変え品を変え私を褒めながらモチベーションを高めてしまうしずくは天性の教師か、詐欺師だと思う。


 そんなこんなで春休みの間にしずくと毎日のように会っていたのだが、そのうちしずくが他の女子を2人ほど連れて家に遊びに来るようになった。

 みおとまるだ。この2人は元の世界でも幼馴染として面識があった。

 藤岡みおは大人しい子だったがいつのまにかギャルになっていた。


 こっちの世界でのみおについては思い出してみたら高校生になってから隣のクラスにギャルがいたなって思うくらいの認識だった。私は男とつるむタイプでみおの方は女の子同士で集まるタイプだったのであまり接点がなかったのだ。

 話してみるとみおはメイクに関してかなり本格的に勉強しておりメイクに本気だった頃の自分だったら対抗意識で仲良くなれなかったかもしれない。


「そのマスカレードって言うか仮面舞踏会みたいなマスクもカッコいいけど目立ちすぎだからウイッグで前髪を足して傷跡ごと目隠ししてみるのはどうかな?」

 と言ってウィッグを持って来てくれる。最近は伸びてくる髪の毛を前ほど明るい色に染めていないのでやや黒に近い茶褐色系のウィッグ。

 みおがウィッグをつけて髪を整えてくれる。なぜかしずくがメチャクチャ反応して「これって浜風かマシュだ」と叫んで「ヒナちゃん! 銀髪か紫髪にしよう」とさらに無茶なことを言ってくるので謹んでお断りした。


 丸川のどかの方も元の世界で小学生の頃遊んでいたが、あまりにもそのままでびっくりした。あっけらかんとした明るい性格もだが体形も小学生のままなんじゃないのかな?

「一緒に勉強するようにしずくちんに言われたんだよ」

 一緒に勉強する相手がいるのもいいかもしれない。今のところ私の実力は2年生だと最低辺だと思うし。

 まるはとにかく集中力が持続しないタイプらしく一旦集中するとその間はすごいが集中が切れると途端にやらなくなってしまう印象だった。


 春休みは短く、頑張って進めたが1年生の2学期の勉強をしている最中に2年生に進級することになった。

 散り際の桜並木の公園を通り抜けて学校に通う。今日からは白いプラスチックの仮面はなく、みおにもらった前髪のウィッグで傷を隠して登校している。できるだけ自然な皮膚の状態でいるために基礎的な化粧品は使っているけどファンデーションで肌の色を合わせてないので前髪を上げると少し色の違う肌が目立つ。


 一冬ほど全く肌を焼かずに過ごしたので黒ギャルだった私は普通の肌に戻っている。ゲゲゲの鬼太郎みたいな片目隠し(しずくは浜風だと言い張るが私は鬼太郎だと思う)がちょっと目立ちそうなくらい。


 自分たちの後輩が明日の入学式で入ってくるわけだが、同じ学年にならずに済んでホッとしてる。いや、私の場合は背が低いから新入生のフリをすれば留年ってバレなかったかも……なんて考えられるのは余裕が出来てきた証拠だと思う。


 校門の手前でしずくたちと合流し、校門で風紀委員として服装チェックをしているひよりと挨拶する。

 久しぶりの普通の登校だしあの事件の当事者である姫川ヒナなのだから、他のみんなから距離を取られたりコソコソ言われるんじゃないかと思ったが予想外に好意的なことに驚いた。


「ヒナがしっかりとあの男達に立ち向かって学内のトラブルを解決に導いたからこそみんなが評価してくれるのだ。誇ってもいいと思うぞ」

 ひよりが真面目腐った顔で言うがそういうことなんだろうか。そんなことで禊ぎになるとは思えないが、自分の目的のためには余計な軋轢がないに越したことがないから素直に喜ぼうと思う。


「あった、ヒナちゃんあったよ! 2年5組、みおちゃんとまるちゃんとひよりちゃんも同じクラスだ。担任は谷垣先生だし希望通りに同じクラスにして貰えたよ」

 しずくが抱きついてくる。スキンシップが激しいなぁと思いながらこっちも嬉しいのでギュッと抱きしめる。

「楽しくやっていけそうだね。一年間よろしく」

 しずくと私、そしてみおとまるの笑顔がはじける。これから本当の意味で楽しい高校生活を送りたいと思う。

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 サポートいただきありがとうございます。ヒナの物語をお届けします。

 ヒナアフター第12話となります。

 ヒナにとっての貞操逆転世界で昔の友達だったメンバーも揃ってきました。みおは貞操観念が逆転(こっちが正常?)して処女になっちゃってます。男には別にあんまり興味がなくて友達と遊んだりメイクの勉強するのが楽しいです。

 まるはほとんど変わらないです。むこうも貞操逆転してて男子の体とか興味あるけど好きなのは恭介だけなので、こっちもあっちもほとんど同じ人格です。

 高校生活を数話にわたって描き、その後物語の締めに入っていきます。最終回は今月末に公開です。


 評価で☆☆☆をいただけると助かります。☆が増えると多くの読者の目に触れます。


 特にヒナアフターは魂込めて書いたので一人でも多くの読者に届いて欲しいです。

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