第317話 ⑪もう一つパイプ椅子
翌週、保健室登校を再開した私を訪ねて来たのは私の天敵とでもいうべき女子で
名前通りと言えばいいのか濡れ烏色の光沢のある黒髪を伸ばして姫カットにしている。すらりと背が高くモデル体型だけど胸はびっくりするほどぺたんこだ。
小烏は真面目が服を着ているような女で実家は剣道場を開いていて本人も剣道部、学業成績も優秀で(何か苦手教科があるような話を聞いた気もするが忘れた)教師からの信頼も厚かった。
とにかく制服は着崩す華美な化粧やネイルをして校則からはみ出し続けていた私が目の敵にされるのは当然のことで仕方ないとは思うが、私自身も小烏に苦手意識を持っていた。
そんな小烏が保健室に来たので私の城であるパーティションの中にもう一つパイプ椅子を持ち込んで勉強に使っているテーブルの反対側に座らせる。
ひょっとしてこの村上から貰った仮装みたいなマスクが校則違反だと言いに来たのだろうか? それとも校内で強姦未遂とその後の一連の流れで前代未聞の大騒動を起こしてしまい学内を混乱に巻き込んでしまったことに対する苦言?
今週の水曜日には卒業式もあるし、風紀を守るものとしては許せないところかもしれない。
「すまなかった。あの2人は危険人物だと思いマークしていたのだが結局姫川を守ることが「ごめんなさい!」出来なかった」
「「えっ?」」
小烏がなにを言ってもまずは謝ろうと思っていた私の「ごめんなさい」が発言の後半にかぶってしまい聞き取りきらなかったが「姫川を守ることが出来なかった」と謝られたらしい。
2人してえっ、と疑問の声を上げてしまい見つめ合う。
仕切り直せたのは私の方が早かった。
「こ、コホン。えっと、あいつらは計画的だったしそんなことまで風紀委員の仕事だとは思わないから小烏さんのせいじゃない。というかあの2人をマークしていたってどういうこと?」
豪田と村繁のことを以前から風紀委員はマークして警戒していたという。卒業により逃げ切るところだったのが今回私の事件で明るみに出る結果になった。
「来年私が風紀委員長になったら取り締まりをもっと厳しくして必ずあいつら腐った男子の尻尾を掴んでやろうと思っていた。女子に不埒な行為に及ぶなど言語道断だ。許されることではない」
しかし、この子の話し方すごいな。今まで注意されるばかりでちゃんと話したことがなかったけどかなり面白い子な気がする。武士か? 武士なのか!?
「しかし、多々良が姫川のことを何度もかばっていたが、本当に姫川は骨があるんだな」
「骨がある?」
「芯が通っているということだ、私が姫川に注意するたびに多々良が私のところに来て言っていたのだ。
『ヒナは昔からメイクに興味があってその道に進みたいと思っているんだ。だから高校でファッションを追及したり制服を着崩したりするのは校則違反で見逃せないだろうし勉強に真面目に取り組まないのは許せないかもしれないけどヒナの気持ちだけは分かってやってくれ』って。
何度聞かされたか分からんくらいだ。だからと言って校則違反を見逃すわけにはいかないがな」
そう言いながら小烏が今の私の格好を上から下まで見る。今の私は傷を隠すために仮面みたいなマスクをつけていることをのぞけば制服をきっちりと着こなしている優等生だろう。ネイルもしていないしメイクらしいメイクも止めてしまっている。
「しかし、そうしている方が美人なんじゃないか。多々良は姫川のぎゃるめいくを可愛いだろっていつも私に自慢していたが、私に言わせれば今の姫川の方がずっと可愛くていい顔をしていると思うがな」
「な、なに言ってるのよ。褒められてもなにも出ないわよ」
ちょっと自分の顔が赤くなっているのを感じる。なんで女の子なのにこんなイケメンみたいな……それにそっちだってノーメイクなのにめちゃくちゃ美人なくせに。
「本当に姫川には感謝しているんだ。姫川が頑張ってくれたおかげで何人もの女子が救われて、これから先に沢山の女子が穢されるのを未然に防ぐことが出来た。本当にありがとう」
そういうと深々と頭を下げる。
「ちょっと待ってってば、私にそんな頭下げる必要はないから降りかかる火の粉を払って大炎上させちゃっただけの女だからね私は」
慌てて顔を上げさせる。
「本当に芯のある強い女なんだな。私よりもずっとすごいと思う。
だから、多々良ほどのいい男が姫川に惚れていたんだな。なんだか納得したよ。自分が敵わなかったのも分かる気がする」
ん!? 恭がいい男?
「ちょっと待って、小烏さんってひょっとして……」
「ああ、多々良のことは好きだったぞ。もちろん恋人になれるとは思わなかったしどうこうできるとは思っていなかったがな。あれだけ真面目で一途に好きな女のことを守るために勉学から部活まで励むとか男前すぎて惚れ惚れしたぞ」
んんん~!? 恭の評価が小烏の中で高すぎない? この2人って私のメイクを巡ってしょっちゅう言い争いしていたよね?
「いつも言い争ってばっかりだったじゃない」
「それは多々良が姫川をかばってばかりで、私の気持ちになぞ目もくれなかったからつい言いすぎてしまっていただけだ。まああれだけ姫川に惚れこんでいれば他の女なんて目にも入っていなかっただろうがな」
からかっているわけでもない実感のこもった小烏の言葉に今度こそ私は耳まで真っ赤になってしまう。顔が熱い。
「本当に惜しい男を亡くしたな。くらすめいととして葬儀には出させて貰ったが冥福を祈っている。今日の私は姫川に謝りたかっただけだから
あと2年生になったら同じくらすになって私がそばで守らせてもらう。とても多々良の代わりが務まるとは思えないが今回の件の感謝を返させてもらう。頼りにして貰えると嬉しい。それじゃあ勉強の邪魔をしたな。また会おう」
言いたいことだけ言って立ち去ろうとする風紀委員の、恋をしていた女の子の手を掴む。
「小烏さん……いや、ひより。友達になろう。そんな守るとか感謝とか堅苦しい関係じゃなくて友達としてそばにいて欲しい。ダメかな?……その、私の知らなかった恭の話も色々とできたら嬉しいし」
左手を掴んだ私の右手を小烏は、いや、ひよりは右手を使って外していく。ダメなのかな? 次の瞬間、私の右手はひよりの右手で握手されていた。
「こちらからお願いしたいくらいだよ。これからよろしくな、ヒナちゃん、いやヒナの方がいいか」
こうして私は小烏ひよりという私の恋人に片思いしていた女の子とを友達になった。
……って言うか、恭のやつモテすぎじゃないかな?
-----------------------------------------------
ヒナアフター第11話となります。
9話と10話である意味で高校の膿を出し切ることになったヒナにその問題児たちを快く思っていなかった小烏が感謝の言葉を告げに来ました。
こちらの世界でも小烏は強いのでヒナは文字通り強い味方を、いえ、強い友達を手に入れることが出来ました。
本編36話でむこうの貞操逆転世界に行った恭介からは「元の世界では俺の天敵みたいな関係だった女子」「俺まで悪の手先のように見なされてあまり仲が良くなかった」と書かれていたので好意は全く伝わっていなかった模様です。
ちょっと可愛そうですけどこっちの世界の小烏はそういう関係を気に入っていたようですが。
評価で☆☆☆をいただけると助かります。☆が増えると多くの読者の目に触れます。
特にヒナアフターは魂込めて書いたので一人でも多くの読者に届いて欲しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます