第310話 ④学校に通い始める前に
担任の高田先生から連絡が来た。
高田先生は50代の男性教諭で普通に学校に通っていたころは私がチャラついた生徒ということで腫れ物に触るように私に対応していたから事なかれ主義かと思っていたが、私が正直に実状を打ち明けて将来の夢にむけて頑張りたいと素直に頼ると真剣に向き合ってくれる人だと分かった。
これまでの私は自分が斜に構えて世を拗ねていたから、世の中の方も私に対して正面から向き合ってくれなかったのだ。
恭や家族だけが正面から向き合ってくれていたのに私はそれを面倒なものとして切り捨ててきた。今の私の状況は自業自得だということが分かるようになっていた。
最初は家のパソコンからメールで、その後は電話でのやりとりが出来るようになってちょっと安心した。他人とのやりとりがそこまで苦ではなくなっていたから。
高田先生は今年度の状況で、同じクラスで登校するのは私にもクラスのみんなにも厳しいのではないかと判断していた。
確かに今年のクラスで登校すると友達はいるが、その友達もサッカー部にカレシがいたりいろいろと思う所がありそうだった。
あの事故でスマホは壊れてしまったので、そのままSNSやメールなどは見ることさえできなくなっていたし、一応学校を休学した際にお母さんの方から学校及び担任の高田先生にちゃんとその旨は伝えて貰ってあるがどこまでクラスメイトが理解してくれているか分からない。
来年から仕切り直すと聞くとその方が楽な気がしてそっちに流されそうになる。ただその場合は出席がわりにプリントの提出、期末テストは保健室でもいいからちゃんと受けて、点数が足りない分は来年度の補習やプリント提出で対応ということだった。
義務教育なわけでもなく、私のような問題を起こした生徒に対して高田先生や学校がここまで配慮してくれるとは思っていなかったのでそれに関しては感謝しかなかった。
ただ、家で勉強して今まで勉強習慣がない私がまともに勉強できるようになるのかどうかというのがすでに分からない。恭は勉強が出来たのでテスト前には恭にどこが出るかを教えてもらってどうにか赤点回避をしてきた私が自分一人で教科書やプリントで勉強できるものだろうか?
そう言った不安を伝えると保健室登校という手段があるにはあるが、先生たちがいつでもついていられるわけではなく出席日数は稼げても欠課になるので家で補習のプリントを提出するのと大きな違いはないようだった。
「お母さんはどうするのがいいと思う?」
「学校に通う練習をするのはとってもいいことだと思うわ。だから保健室登校は賛成。でも、多分毎日通うとかみんなの登校時間に一緒に登下校するのはまだ心配だから週に何回かにしたらどうかしら、お母さんが送迎してあげるし。こんな時だからしっかりお母さんを頼ってね」
「ありがとう、お母さん。私頑張ってみるね。なりたいものが出来たから」
そう言いながら包帯が巻かれたままの顔の右半分を撫でていた。この顔の傷は皮膚の移植手術をすることで今より目立たなくすることが出来ると聞いている。
最終的にはメイクで傷跡を隠して移植コーディネーターの仕事が出来るようになればいいと思う。
「お母さん、学校に通いだす前に皮膚移植の手術を受けさせてもらってもいいかな?」
ずっと勧められていたけど生きる意欲がなくて断っていた移植手術……7日ほど入院しなくてはいけないらしいから学校に通い出してからだと難しいだろう。
「いいに決まってるでしょ。自分の娘がこれから健やかに生きていけるなら受けて欲しいと思っていたもの」
お母さんが抱きしめてくれる。私は本当の娘じゃないのに……こんなに良くして貰って今回だって多額の手術費用がかかるのだ。
うちのお父さんはずっと単身赴任で一生懸命働いてくれていた。それは私の心臓の治療費にお金がかかったことも一因なのだ。私がこんなことになって一緒に暮らしてもらえることになったが、今回また皮膚移植で大金を使わせてしまう。
「そうだ、ヒナちゃんが人と会えるようになったら連絡をくれって言って家を訪ねてきた子が二人いたのよ。どう、会えそうな気がする?」
私に来客、誰だろう? さっき学校に通うことを考えたときに思い浮かんだクラスの子達はこうなった私に会いにきたりしそうにないけど……
「えっと、一人は幼馴染で岩清水しずくちゃん、懐かしいでしょ? もう一人は男の子でほら、あのお見舞いにも来てくれた体格のいい……」
「ああ、ゴリマッ……村上が? そう、村上としずくが来たんだ」
しずくと呼んではいるが、私が知っているのは元の世界にいた岩清水しずくだ。私がちょっとエッチなことに関して早熟だったから、私の話に興味津々で頷いていたちょっとムッツリなしずく。
懐かしいけどこっちでは真面目な委員長タイプだったんだよね。優等生とはあんまり相性が良くなくて疎遠になっていたのだ。
村上の方は恭の親友だったゴリマッチョだ。私が付けたあだ名だけどアイツはまだ私なんかのことを心配しているのか? お見舞いに来てくれた時は恭がこの世からいなくなって世界の終わりみたいにショックを受けてやつれていた。
恭の心臓が移植されてどこかで生きている話をしたらゴリマッチョはどう思うだろうか? 私みたいに臓器移植をしているわけじゃないから特に感慨を抱くことはないかもしれないけど、どこかで恭の思い出話を共有できる相手を求めている自分を感じた。
それはしずくに関しても同じことで、こちらの世界の陽菜と恭介としずくは幼馴染だったはずだ。
恭がそんな話をしていたのを聞いたことがあったと思うし。
保健室登校とはいえ実際に学校に通い始める前に、今の学校の話を聞いてみたい気分もある。
「うん、二人とも会ってみたい。同時はまだ疲れちゃいそうだから一人ずつ連絡して話をできたら嬉しいな」
そうして私はしずくと村上と会うことになった。
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ヒナアフター第4話となります。ヒナが社会復帰するために動き始めました。彼女は今のままでは底辺の学力なので自分の目標である臓器移植コーディネーターになるためにまずは高校への復学をめざします。他の残された人達との交流も含めて見守ってもらえるとありがたいです。
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特にヒナアフターは魂込めて書いたので一人でも多くの読者に届いて欲しいです。
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