最終話 一番明るく輝いていてにぎやかな場所(陽菜視点)

「それじゃあ、今日は一日お疲れさまでした。特にひよりと姫菜ひめなは奉納舞と剣舞、凄かった。姫菜はめちゃくちゃ可愛かった。和菜かずなは中学生になったら奉納舞頑張ろうな。自分の子供たちがそれぞれみんな立派に育ってくれて嬉しいです。

 ここに集まってくれたみんなが健康に今日という日を楽しめたことに……かんぱ~い!」


「「「「「「「「「「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」」」」」」」」」」


 恭介くんと再会してすぐの春にお花見をしたあの桜の木は今年も満開だった。その桜の下で今年もお花見が出来る幸せを噛みしめる。

 ひぃふぅみぃ……いったい何人いるんだろう。沢山の人の輪が恭介くんを中心にできている。


 あ、恭介くんが恭一を連れてちさと先生のところにお酌しに行ってる。

 信じられないかもしれないけど高校に入学した恭一の担任はちさと先生だった。入学式で担任の名前に谷垣ちさとの名前を見た時は恭介くんと一緒に思わず顔を見合わせたよ。

「多々良~……ってどっちも多々良かぁ。お前たちは本当にいつも女の子に囲まれて幸せそうだなぁ」


 ちさと先生もう出来上がっちゃってる。刑事のみなもさんはすっかり偉くなったみたいだし、看護師のあさかさんもついてるから大丈夫と思うけど。この3人の中で結婚して子供を産んだのはあさかさんだけだったりする。

 あ、恭介くんは難を逃れたけど恭一がちさと先生に捕まった。と思ったら幸菜さな琴菜ことなちゃんが凄い勢いで突っ込んでいって間に入ってる。

「「私の恭(恭一くん)を取らないでください。先生のこと嫌いです!!」」

 何だろう、見てる私が恥ずかしいんだけど。ゴメンね先生。親子二代でしかも今回はダブルで……


「陽菜ちゃん飲んでる? まだちょっと肌寒いからしっかり着ないとダメだよ」

 自分たちの娘の様子に苦笑いしながらしずくちゃんが私の様子を見に来てくれる。私の親友が主治医を名乗るようになってどれだけたっただろう。もうすぐ西園寺共生会病院の外科部長になるんだって。

「ありがとう。恭介くんのジャケットを借りたから大丈夫だよ。それにお酒はほどほどにしてるから」

「ふふ、ほんのり赤く色づいて……恭介さんが見たらまた惚れ直しちゃうね」

 もう、しずくちゃんは。でも、まるちゃんに貰った腎臓のおかげで……しずくちゃんとまるちゃんがお酒も飲める健康な体を私にくれた。だから生きているしお酒も愉しめる。


「ひより、飲んでる? 飲み過ぎないようにな。そんなに強くないんだから」

「なにをいっれるんら、きょうすへぇ。わらひがよっぱらうころことがあるはへわけがなひだろぉ」

 ひよりちゃんが酔って恭介くんに介抱されている。成人して分かったのはひよりちゃんは寝ぼけた時だけじゃなくて酔っぱらった時も可愛いってことだった。

「れも、ひんぱひしんぱいしてくれりゅきょうすへはら~いしゅきぃ」

 あれで明日バッチリ記憶が残るのがちょっと可愛そう。でも自分でもそうなるって分かって飲んでるんだから仕方ないよね。


「恭っち、ひよりっちはあーしに任せてくれていいから。ほ~ら、ひより~ひよりの大好きなヱビスビールだよ。こっちにおいで~」

「あ~、まるもヱビスビールがいいんだよ。やっぱりビールはヱビスなんだよ」

「じゃあひよりのことはみおに任せるけど、まるに飲ませたらその辺を1人で歩かせないようにね。小学生が酔っぱらってるって通報されると面倒くさいから」

「了解! この2人の面倒はあーしが見るから任せておいてよ。ほら、まるっち、ヱビスだよ」プシュッ

「「コクコクコク、プハァ~」」

 ひよりちゃんとまるちゃんを任せてその場を離れる恭介くん。相変わらずみおちゃんは面倒見がいいね。


 お忍びで来ているゆうきくんとゆうかちゃんは子供たちに大人気だ。2人とも似合わない帽子とサングラスをしているけどこのグループに混ざっているとたくさんの女の子に紛れるからか目立たないですむみたい。のんびりとお酒を飲んだりおつまみを食べたりしている。

「きょーすけ、今日はありがとうね。チャリティーコンサートも大盛況で寄付金もいっぱい集まったって」

「ひっくっ! 多々良しぇんぱい……本当にみおしぇんぱいと多々良しぇんぱいには足を向けて寝られましぇん。わらひたちに出来ることがあったら何でもしゅるんで」

「ちょ、村上は飲み過ぎ。どうするんだ? ゆうきたちも今日は泊っていけるんだろ?」

「大丈夫? 泊まれるんなら今日は泊めて欲しいな。久しぶりにきょーすけといっぱいお話したいし」

「ああ、今日は朝までだって語り合おう。親友なんだから」

 ゆうきくんは今でも確実に恭介くんのことが好きだよね。親友扱いしかされなくてもそれでも一緒にいられるのが嬉しいんだろうなって思う。

 今夜は家に帰ったらゆっくり話す時間を作ってあげよう。


 恭介くんがみんなのお父さんとお母さん、私と恭介くんのお父さんとお母さんに挨拶している。本当にこんな一般的にありえない関係でも娘の幸せを思って送り出してくれたお父さんとお母さんたちに感謝だよ。

 特にひよりちゃんのお父さんと恭介くんは何十本も立ち合って剣でわかりあってひよりちゃんのことを納得して貰った。


 あ、恭介くんが私のお母さんに何か言われて真っ赤になってる。相変わらずうちのお母さんに弱いんだよね。孫も大きくなってもうすぐ還暦のはずなのに見た目だけは若いんだから。

「完熟卵の親子丼も美味しいんじゃないかしら、まだまだ食べごろよ」

 こら~、卵は私の方だから。どこの世界に親の方が卵を名乗る親子丼があるのよ。

 あれがお母さんなりの私への応援だって気付くまでは本当にお母さんが恭介くんのことを狙ってるんじゃないかって思っていたんだからね。

 

 車いすに座った琴乃おばあちゃんのところに琴菜ちゃんが恭一を引っ張って行ってる。自分の彼氏としてひいおばあちゃんに紹介したいみたい。それを阻止する幸菜……みんな血の繋がった兄妹だから本当に悩んじゃうけど。

 ほら、琴乃おばあちゃんからお前たちは異母兄妹だろってツッコまれてショック受けてるし。はぁ……


 お母さんから逃げ出した恭介くんが他の娘たちの所にいく。まだ比較的幼いみおちゃんとまるちゃんの娘がまとわりついている。

 西園寺グループで役員として働いている恭介くんだけど時間があると鍛えているし剣道も続けているからまだまだ逞しい。中年太りでお腹が……なんて心配することも当分なさそうだ。お腹をぷにぷにされた仕返しにいつか中年太りした恭介くんのお腹を揉んでやろうと思っていたのに無理かもしれない。


 一番下の子はみおちゃんの3人目の娘の澪菜れいなちゃん。あの子はまだ5歳だからパパに甘えたい盛りなんだね。次に小さいのはまるちゃんの2人目の娘で華菜かなちゃんで10歳だから。

 しかし、なんでみんな名前に「菜」の字をつける? 私強制してないよね? なんかそんな雰囲気出てた? いいけど、結構名づけに苦戦したてたよね? 知ってるんだよ。あとちょっとでも子供が増えてたらきっとみんな「菜」を名前の先につけてとか工夫してたんだろうなって思うとちょっとおかしくなる。


「ひ~な、何を笑っているの?」

 後ろから私の肩を抱きしめるようにして恭介くんが聞いてくる。温かい体。この人に包まれていると幸せってこういう事なんだなって思える。

「ん、みんなが一緒で幸せだなぁって思って……もちろん恭介くんがいるのが一番幸せだよ」

「そう、陽菜が幸せでいてくれて嬉しいよ。ちょっとだけ2人で歩かない? せっかくだから2人で抜け出して夜桜の下を歩きたいな」

 いつかのお花見で私が言った台詞を耳元で囁かれる。今私が真っ赤になっちゃってるのはお酒のせいってことに出来ないかな?


 エスコートするように差し出された手を握る。みんなにちょっと出てくるって断って、2人で公園の夜桜を見ながら懐かしい河川敷に向かう。

 あの時は暗い河川敷で疲れて寝ちゃった恭介くんを膝枕してあげたんだよね。

 今日は暗い川の流れを2人で立ったまま眺めるけどあの時と違って2人の心は完全につながっている。恋人繋ぎもあの頃はドキドキだったけど、今はドキドキよりも安心感がある。


「ここって私と恭介くんが流れ着いた場所なんだって……恭介くんは知ってた?」

 暗い川面を見ながらあの時のセリフを思い出すようにしながら口に出す。

「疲れちゃった? 少しここで休んでいこうか?」

 恭介くんが私の意図を汲んで乗ってくれる。あの時は暗い水面を2人で並んで眺めた。

 だけど今日の私たちは違う。2人きりじゃない。帰る場所が……本当の家族が出来た。

 別の世界から来て再会したこの場所から私たちが帰る場所がそこにある。


「ううん、みんなのところに帰ろう。もう2人っきりじゃないんだから」

 私の返事ににっこりと笑ってくれる恭介くん。ああ、この人の笑顔はいつだって私の心を溶かしてしまう。

 ドキドキが止まらなくなる。本当に私の心臓は働き者だ。20年以上付き合って来たのにこんなにきちんと私の気持ちを分かってくれる。心臓が送り出す血液のせいで真っ赤になっちゃってるんだろうなぁ私の顔。


 暗くて分からないけど恭介くんの顔もきっとすごく赤くなってる。おばさんになっちゃった私にこんなにドキドキしてくれるんだ……なんだかズルい。

 そんな顔されたら正面から見ていられないよ。目を閉じてしまう。

 私の肩を抱いて恭介くんがゆっくりと顔を近づける。


 ちゅっ


 唇が触れあって一瞬で離れる。本当は沢山キスしたいのかもしれないけど相変わらず免疫抑制剤を飲んでいる私の体を気遣う優しいキス。


 目を開く。


「じゃあ帰ろう。俺たちの家族のところに」

 そう言って差し出された手は幼いころから見慣れた手。恭ちゃんの、恭介くんの大好きな手。いつも私を引っ張って導いてくれた手。

 その手を取って恋人繋ぎする。引かれるだけじゃなくて私も一緒に歩いていくよっていう意思表示。


 私たちの向かう先はすぐに分かる。この公園の中で一番明るく輝いていてにぎやかな場所。


 ちらりと振り返り暗い川面に別れを告げる。

「いこう、恭介くん。私たちの居場所に」

 そうして夜桜の下を光に向かって二人で歩いていくんだ。ずっと手を繋いで。




 多々良恭介と姫川陽菜そしてみんなの物語……Ture End

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 306話、60万字と長く続いた「幼馴染を寝取られたが貞操逆転世界でハーレムを作って幸せになりたいと思う」の多々良恭介と姫川陽菜そしてみんなの物語の最終回となります。

 いったん237話で最終回を迎えている物語になぜ2度目の最終回がやってきたのか、237話以降が蛇足だったのか、必要な物語だったのか。その判断は読者であるあなたに委ねたいと思います。


 作者のみどりのとしてはここまで書きたいように書かせて貰えたことに一番の感謝を。

 そしてここまで長い長い物語についてきてくださったあなたにこの物語を捧げます。


 と、ここで終わればきれいなのですが、さらにこの物語はあとちょっと続きます。

 ここから先は世界も主人公も変わります。

 世界は。主人公はです。


 その前に「あとがき」のようなものと番外編を3話(土曜日公開のヒナアフターへの話数合わせともいう)公開します。あとがきはこの後すぐに公開しますのでまずはそちらをお読みいただければと思います。

(いつものあとがきって言うと何ですけど、いつものノリなんで余韻を楽しみたい方はたっぷり時間を空けてからお読みください)


 ☆で評価していただける方はこちらへ

 https://kakuyomu.jp/works/16817330657862919436#reviews

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