第305話 こっちの世界に来てからの人生の方が長くなって
チーーーーン
俺の実家の多々良家の仏壇、俺は自分の双子の子供たちを一緒に手を合わせる。お線香をあげてりんを鳴らす。恭一と
気付けばこっちの世界に来てからもう20年以上がたっている。こっちの世界に来てからの人生の方が長くなってしまった。
「もう、お父さん。いつまで仏壇に祈ってるの? お墓の方にも行くんでしょ。早く行かないとお母さん待ってるよ」
娘の
陽菜は5年前に腎臓病と腎臓がんを併発した。それからの
恭一は10人兄妹の唯一の男子で肩身は狭いかもしれないなりに長男として頼りになる男に育ったと思う。
この世界の男子にしてはちょっと性欲が強いのは心配だけど。ついでに言うと俺の奥さんたちと自分の妹たちが美人で可愛すぎて他の女の子にあんまり興味なさそうに見えるから陽菜と一緒に心配していた。
「ほら、お父さん。早く行ってあげないとお母さんが待ち疲れたって『激おこぷんぷん丸だよ』って言っちゃうから。お願いしたことも話したいこともお墓の方でもいいでしょ?」
「そうだよ、親父。早く行ってあげないと母さんが1人で可哀想だろ」
そう言って娘と息子から立ち上がるように急かされる。
「ああ、待たせたな。みんなの健康をお願いしていたから。じゃあ行こう」
俺は立ち上がると自分の父さんと母さんに挨拶する。
「また来るから、今度はもっとゆっくり来るし、たまにはうちの方に来て孫の顔を見てやってよ」
「まさか、孫が10人も出来ちゃうとは思わなかったわよ。一人息子がこんなに孫を作るなんて流石の母さんもスルーしきらないわ」
「本当に陽菜ちゃんのおかげだな。陽菜ちゃんには感謝しないとな、恭介」
父さんと母さんはまだまだ元気だ。さちえさんと陽菜パパも元気に相変わらずお隣さんをしてくれている。
ガチャッ
ドアを開けて家を出る。春のお彼岸のうららかな陽射しが俺の目に飛び込んでくる。
「もう、恭ちゃん遅いよ。それぞれ実家のお仏壇にお参りするだけでどれだけ時間がかかっちゃってるの?」
そこには陽菜がいた。20年の年を重ねてますます綺麗になった陽菜。出会った頃に着ていたみたいな白いワンピースを着て春の日差しをよけるために白い帽子をかぶっている。
昔より短くなって肩まで伸ばしている髪を今日は後ろでまとめている。
ちょっと目じりが垂れてほんの少し鳥の足跡のようなしわが出るようになったけど、相変わらず可愛い俺の奥さん。
「ごめんごめん、みんなの健康についてご先祖様に感謝してたから」
5年前に腎臓病と腎臓がんになった陽菜はしずくの早い処置とのどかがドナーとなって提供してくれた腎臓のおかげでいまも透析さえせずに元気に過ごしている。
生体腎移植は家族間しかできないからのどかは養子縁組で俺達の娘ということになっているけど。
誰が腎臓を提供するかで議論になった時は全員が提供したがるというおかしな状況になって陽菜が困りながら嬉し泣きしていた。
「普通に提供できるのは夫である俺だから俺で決定でいいでしょ?」
「恭介の腎臓が1つになって万が一があったら困る。私のような健康な女の腎臓こそこれからの陽菜ちゃんの腎臓として活躍するべきだ」
「あーしの腎臓だって健康だし。ねぇ、恭っち……あーしのおしっこ変な味とかしないよね?」
「まるだって健康なんだよ。まるは保健委員だから陽菜ちんの健康を守る責任があるんだよ」
「まるちゃんの保健委員は高2の時の話でしょ!? それを言ったら私は陽菜ちゃんの主治医なんだから私が提供するのが……」
「「「「しずく(っち)(ちゃん)(ちん)は執刀医でしょ!!!!」」」」
一発で黙らされるしずくがおかしかった。
結局ジャンケンというとても民主的な方法で決定したがひよりとのどかは相手が出す手を見てから自分の手を変えるという変態じみたマネが出来るのでカイジみたいなジャンケンカードを作って勝負したのが記憶に残っている。
結局運の勝負でのどかが勝って晴れて腎臓
みんなの子供は俺の子供だしもちろん認知もしている。
のどかの子供が生まれた時はのどかのおばあちゃんは本当に喜んでくれた。そんなのどかを残しておばあちゃんは8年前にこの世を去っている。
「何を考えているの恭介くん? さっきから何かを思い出してる顔しているよ」
車を運転する俺の助手席から陽菜が質問してくる。相変わらず俺は陽菜に隠し事は出来ないらしい。
「ん、陽菜の体の中で知らない誰かの心臓とのどかの腎臓が頑張ってくれて陽菜を生かしてくれたんだなぁって」
「そうだね、しずくちゃんとまるちゃんがいなかったら私は今ここにはいなかったかもしれないね。そう思ったら不思議な縁だよね。恭介くんと2人っきりでこの世界で生きるって決断してたら恭介くんを1人っきりにしちゃっていたかもしれないんだから」
「本当だね。陽菜が心臓を移植してからもう20年以上たったけど生存率とか考えずにずっと生きて来れたのはみんなのおかげかもしれないね。いつも子育てに追われていた気もするし、気にしてる暇もなかったよ」
「でも、本当にこういう縁を作った恭介くんが凄いんだよ。私の旦那様が素敵な人で良かったよ」
……
「……なぁ、いつものことだけど本当に後ろの席に俺と幸菜がいるって忘れてのろけるの止めて欲しいよな」
「もうあれが我が家の平常運転だから私の耳にはなにも聞こえないよ。BGMとかカエルの鳴き声みたいなものでしょ?
恭もいつになったら慣れるのよ……(私だけを見ていればいいのに)ボソッ」
おい、恭一と幸菜……こっちもお前らの会話聞こえているからな。幸菜は最近双子の兄の恭一のことを「恭」って呼ぶようになった。
陽菜にそっくりな……つまりはヒナにそっくりな顔で「恭」って呼んでいる声を聞くと懐かしさに胸が締め付けられそうになる時がある。
そうやって呼ばれている恭一は幸菜とは双子の距離感でしかないのでその声に含まれている気持ちには全く気付けないみたいだけど。いや、血の繋がった本当の双子だから気付かないままでいいんだけどね。鈍感な所は誰に似たんだか。
ちなみに恭一の初恋の相手はみおだったりする。恭一が幼稚園児の頃に出産して子育てしていたみおの母性とギャルのギャップにやられたらしい。気持ちは分かる。
「恭っちの初恋も童貞も陽菜っちに持って行かれちゃったけど、恭一の初恋も童貞もあーしが貰ってもイイよね。恭一とは全く血が繋がってないんだし」
なんてことをみおがいうものだから陽菜が怒ってみおを追いかけたりしていた。
まあ、母親から見たり息子の初恋を親友に持っていかれたのは悔しいというか妙な気分になるから照れ隠しかもしれないけど。そんなみおも三児の母だしなぁ。ママさんインフルエンサーとして引っ張りだこの伝説のメイクアップアーティストだ。
「桜祭りの奉納舞、今年はひよりちゃんとお姉ちゃんのほうの
「だって和菜はまだ小さいし。小学生にあの奉納舞は無理でしょ?」
「それがまるちゃんが見本で舞ってみせちゃったから……和菜ちゃんとまるちゃんってもう身長そんなに変わらないしね」
ひよりの娘たちは2人とも見事に身長が伸びてきている。中学生の姫菜はとっくに陽菜を追い越しているし、もうちょっとでひよりにも追いつきそう。娘2人も胸の成長は言わないのがお約束。
「しずくも桜祭りの日は病院を休めるって言っていたし、久しぶりに家族が全員集まれそうだな」
「琴乃おばあちゃんもひ孫の顔を見に来たいって言ってたから来るんじゃないかな?
「そういえば、幸菜と琴菜で来年の生徒会長選挙争うんだっけ? 恭一はどっちを応援するんだ?」
優等生タイプの幸菜とお嬢様タイプの琴菜が2人とも来年は高校2年生だ。どっちが生徒会長になってもしずくが生徒会長をしていた頃みたいに学校が明るく楽しくなりそうだ。
俺が放り込んだ不用意な
なんにせよ、家族みんなで集まれる桜祭りが楽しみだよ。
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ちょっとした小話
「恭介くん、この奉納舞の後にちっこい字で書いてあるライブコンサートってまさか……」
「うん、ゆうきとゆうかが
「この桜祭りのチラシには
「いや、あの2人が出るのにシークレットにしたらもったいないでしょ? 普通に告知するつもりだけど」
「はぁ、たまに恭介くんって抜けてるよね。あのね、今やゆうきくんとゆうかちゃんは、
「言われてみるとあそこだとセキュリティも何もないもんな……でもあの2人が俺たちの花見に参加したいって言うから何か宴会芸の代わりに歌でも歌ってくれたらって言ったらこうなっちゃって」
「これはもう、西園寺グループのコネでもなんでも総動員してチャリティーコンサートでもでっちあげて会場を押さえてやるしかないよ。今すぐ琴乃おばあちゃんにも相談して」
「分かった……電話してみる……プルルルルルプルルルルル ガチャツ あ、琴乃会長……実はですね」
そんなこんながあった結果、ゆうきとゆうかはお忍びで花見に参加できることになったとかならなかったとか。
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次回更新は10月11日です。
次回最終回です。
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